連続猥褻物陳列罪で逃亡中の犯人を崖の上に追い詰めたのだが、思わぬ抵抗に合っていた。
「こっちへ来んな! 凶器持ってんのやぞ!」
そう言って犯人は、自分の股間の固い物を握りしめているのだ。僕には分かっている、あれは凶器などではなくて、ちんちんだと。崖の上に追い詰められた犯人は九割がた、最後にちんちんを握りしめる。
「先輩、やべえっす、どうしましょう!」
後輩刑事の若田部は、犯人が握りしめているのがただの勃起したちんちんだと気が付いていないようだ。修羅場に慣れていない、経験不足が露呈した。露出狂の前で露呈した。
「落ち着け、まだ罪を重ねる気か」
僕は犯人が握っているのがちんちんだととっくに気が付いていることを、犯人に気取られないように注意しながら、ゆっくりと彼に近づいていった。崖の上には観光客がいるので、人質に取られたら大変なことになる。
「あー、観光客がいる! 逃げてください! 犯人に人質に取られる前に!」
若田部がまたやらかした。経験不足陳列罪で逮捕を通り越して撃ち殺したい。
僕らから逃げるのに必死で周りが見えていなかった犯人が、崖の上でいちゃついていたカップルに近づいていく。年の差カップルに見えたが、よく見ると一人はボーイッシュな女性ではなく男性のようだった。
「お前ら男同士でいちゃついてんじゃねえ! こっちに来い! そこの刑事ども、俺を逃がさんと、こいつらを俺の持ってる凶器で刺し殺すぞ!」
ちんちんで殺せるものか、と思いながらも、僕は拳銃を仕舞わざるを得ない。
「落ち着け、俺は何も持っていない」いつの間にか全裸になっていた若田部がそう言った。しかし尻に挟んだ拳銃が垂れ下がっていた。
そういえば若田部は漫画「こち亀」に出てくる特殊刑事シリーズに感銘を受けて、刑事を志した変態だった。どうして採用されたのだ。
「いやー、変態!」そう叫んだのは観光客ではなく犯人の方だった。パニックに陥ってちんちんを握りしめるのも忘れて観光客の方へ逃げていく。若田部が全裸でそれを追いかける。尻に挟んだ拳銃が落ちる。犯人と若田部は観光客の年配の方のラリアットで吹っ飛んだ。
「ご協力感謝します」
気絶した犯人と若田部の両方に手錠をかけながら、ムキムキの老人に頭を下げた。
「村長、さすがですね」若い男の方が村長と呼ばれた老人の胸板を撫でた。
「よせ。くすぐったい」老人の股間が盛り上がり始めた。
~余談~
「どうしてこんなひなびた崖の上にいたのですか?」と僕は二人に聞いた。
「ここからだと、対岸にある私たちの住む村がよく見えるのです。近い将来、確実に滅びるであろう私たちのふるさとを、美しく眺められるこの場所に、二人で来てみたかったのです」
「そうですか」僕は若田部の落とした拳銃を拾い上げた。うんこ臭かった。
※男性カップルは「旅立ちのペニス」に登場した二人。
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