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問題児

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 藤原は生徒と話をしながら、3階を歩く。
 生徒の名前は大島武雄。脱サラ後、起業するために経済学部に入り直したらしい。高坂龍次や清原沙奈子と同じ他キャンパスの生徒である。
 二人が中庭に到着すると、宮川隊長の他に馬場学長もいた。
 また学長に怒られる。
「なんだ、その包丁は。は、早まるな」
「いや、これはずた袋からロープを切り離すためです」
「まだロープで5階窓から脱出しようとしているのか。止めろと言っただろ。お前クビにするぞ」
 藤原は慌てて謝罪した。
「すみませんでした。今後このようなことのないように致します。では、ずた袋だけ警備員控室まで運んでおきますね」
「それも無用だ。食料はここに置いておけばいい。3階は生徒が入ってこれないから、管理に使える」
 不機嫌に言い捨てて学長が立ち去ると、大島はさっそく藤原に愚痴をこぼした。
「話が違うじゃないですか。食料増やして下さいよ」
「馬場さんにかけあってみます。ずた袋は動かしちゃダメらしいから、今日のところは解散ということで」
 大島は腑に落ちない顔で帰っていった。
「藤原、勝手に生徒を3階ゲートの中に連れてくるな。いつ学長が気づくかヒヤヒヤしたぞ」
 宮川の文句に藤原は平身低頭するばかりだ。
「まあ、いい。ロープを切るために持ってきた包丁は返しとけよ……いや、待った。包丁は警備員控室で管理しよう。安全のために」
 宮川は包丁を回収し、藤原と警備員控室に引き返す。二人が戻ってみると、18時の館内放送を流すところだった。
 大学に閉じ込められて二日目の館内放送。状況は何も変わっていない。放送内容もほとんど同じだが、1階ゲートに近づかないように注意喚起だけ付け加えられた。
「この状況は続きそうだ。今夜から夜勤も頼む。さっそく今から0時まで仮眠をとってくれ」
 宮川に言われて、藤原は寝床に向かった。
 仮眠室の2段ベッドの1段目に高坂と清原が腰をかけて、オセロをしている。
 まだ寝るには早いか。
 負けている清原が藤原を誘う。
「退屈なときこそボードゲームですよ。藤原さんもリバーシやりませんか?」
「リバーシってルールわからないのでパス」
「自分の石で相手の石を挟んでひっくり返す陣取りゲーム。オセロとほとんどおんなじですよ。リバーシは競技名、オセロは商標名ってだけ」
「へー、詳しいですね」
「私たちこう見えてボードゲーム同好会ですから」
 オセロと同じなら3人では遊べないだろう。二人の邪魔をしないように断る。
「すみません。仮眠で忙しいので先に寝ます」
 そう言った手前、藤原は携帯もいじらずにベッドに横になった。
 目覚ましの音で目が覚めたが、ほとんど時間の経っていないような錯覚に陥る。隣のベッドの二人はまだ起きていて、あいかわらずボードゲームにいそしんでいたから。
 オセロからチェスに変わってはいたので、時間が経ってはいたのだろう。
 身支度を整えて警備員控室に入る。宮川と杉村の絶望的な顔が迎えた。
「藤原、まずいことになった」
 そう言うなり宮川は黙ってしまった。
 代わりに杉村が話す。
「ここには宍戸の分のベッドもないし、軟禁状態から解放してやったんだ。それが良くなかった。後で備品を確認したら警棒が1本なくなっていた。犯人は宍戸で間違いないだろう」
「なんでそう思ったんですか。もしかしたら他の誰かかも」
 藤原がいない宍戸の弁護をする。しかし杉村は決定的な証拠を突き付けた。
「監視カメラはこの警備員控室の中にもある」
そう言ってモニターに8時間前の警備員控室の映像を流した。
 このとき宮川と藤原は3階中庭でずた袋を運ぼうとしていた。だから、モニターには杉村と宍戸しか映っていない。しかも杉村はモニタ監視中で、宍戸のほうを見ていなかった。その隙に宍戸は音を出さないように警棒、さすまたを収納してあるロッカーから何かを取り出している。
 宍戸は上着の内ポケットに隠して、何食わぬ顔で席に戻った。
「宍戸が解放されたときの映像も見せてください。それを見れば宍戸がどこに逃げたかつかめるはずです」
「それもすでに試したんだ。大ホール入口あたりに移動したまでは映っていた。監視カメラの死角で宍戸の姿はこの先、映っていない。大ホール入口に行って探したけど宍戸を見つけることはできなかった」
 3時間前の宍戸が解放された後の映像を流しながら杉村は説明した。
「あっ!? 僕の携帯も借りパクされたままだ。宍戸め、絶対捕まえてやる」
 藤原の急な大声は、別に手がかりを見つけたとかではなかった。神妙な面持ちで聞いていた宮川が呆れながら答える。
「机の上に携帯があるが、藤原のじゃないか」
 藤原は携帯を確かめてホッとしたが、さらに疑念も感じた。
「警棒は盗んでおいて、携帯は律儀に返していきやがりましたね。何で?」
 思索を遮るように大きな鈍い音が2回鳴った。
「今度はなんだ」
 誰も何もわからない。しかし宍戸が何かしでかしたに違いないというのが、3人の警備員の共通の認識になりつつあった。
7

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