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魔王城大広間。
人間の姫と魔王の二人きり。結婚式の最中。
そこへ、一人の人間の兵士が広間へ入って来る。
兵士は傷だらけで剣を握っている。剣には魔物の血が下垂れる。

兵士A「姫様!! ご無事ですか!?」

  兵士A、心配そうに姫を見る。
  姫、兵士Aを申し訳なさそうに見る。

姫「……お願い。見逃して! 姫は死んだと! 私はこの方と共に生きて行きます」

兵士A「……なっ……え?」

  兵士A、少し驚いた顔をする。よろけながら片手で顔を覆い俯く。

回想/森の中

  数十人の兵士達は野営している。
  焚き火を数人で囲って身体を休める。

兵士A「早く帰れるといいな」

兵士B「ああ。もたもたしてると娘が成人しちまう」

兵士A「まだ2才だろ?」

兵士B「3になった。もう俺の顔なんか忘れちまってるよ」

兵士C「おいおい、暗くなる話するなよ」

兵士B「うるせぇ! 新婚野郎! 惚気なんか聞きたくねぇんだよ!」

兵士C「まだ結婚してないっつーの! 帰ってからだよ。プロポーズするの」

兵士A「でも、指輪大事にしてるよね?」

兵士C「うん。旅の途中で買ったんだ。帰ったらこれを渡そうと思って」

  兵士C、ネックレスにしている指輪を眺めながら微笑む。

兵士B「D、お前んところは? 誰が待ってるんだ?」

兵士D「オレん家、幼い弟が居るんだ。病気の母親と畑耕してる父親と暮らしてて……弟なんか俺の真似して剣の練習したりしてさ。元気かなぁ……」

  兵士B、タバコをふかす。

兵士A「無事に帰ろうな。みんな」

兵士B「……お前ら、もう寝ろ。見張りの交代で叩き起こすの一苦労なんだからな!」

戻って、魔王城

兵士A「……なに、言ってんだよ……」

  兵士A、姫を見上げる。

兵士A「魔物に連れ去られた姫を……あんた一人を救う為に、ここに来るまでに、どれ程の犠牲を払ったと思ってんだよ!! ……魔物に襲われて焼け野原になった村を見た事があるか? 魔物と戦いながら、動けなくなった仲間を見捨てて進み続けたこの苦しみがわかるか?!」

姫「ごめんなさい……」

兵士A「っ……ごめんで済むわけねぇだろー!!」

魔王「姫」

  魔王、姫を見つめて優しげに微笑む。

魔王「楽しい夢だった。さらばだ」

姫「ぃ……いや! いやぁ!!」

 姫、魔王を引き止めるが振り払われる。魔王に手を伸ばすが届かない。
 魔王、階段を下りて腰に刺していた剣を抜く。

姫「お願い! もう、魔物達は力を持ってないの!」

 兵士A、魔王に斬りかかる。魔王、兵士Aの剣を剣で受ける。

姫「魔女との取引で、ここの魔物達の魔力と引き換えに彼を! 魔王を人間にして貰ったのよ!! だから、お願い……」

 兵士A、魔王の剣が肩に当たる。腕のガントレット(籠手)で防御しながら前に出る。魔王に向けた剣が、腹を貫く。
 兵士A、魔王に止めを刺す。魔王の首が切り離される。
 姫、泣き叫び膝から崩れ落ちる。

兵士A「だからなんだよ?」

 兵士A、姫の元へ近づく。手には切り落とした魔王の首がある。
 姫、怯えながら兵士Aを見上げる。

兵士A「これ持って」

 兵士、魔王の首を姫に投げ渡す。

姫「ぁぁ……なんで……こんな……」

兵士A「なんでって、首持って帰んなきゃ倒した証拠になんねぇーだろ。あー」

 兵士A、姫の口に親指を突っ込む。姫の目を見ながら無表情で話す。

兵士A「ダメダメ。舌噛み切って後追い自殺なんて。その前にこの歯全部叩き折ってやるから。こっちは生きたまま連れて帰らなくちゃ国に帰れないんだから。ほんとわかってないよねー」

 姫、魔王の頭を抱きしめて泣く。

兵士A「じゃ、立って! 帰るよ!」


姫様達の王国、謁見の間

 大勢の人々が姫の生還を祝いに集まっている。
 国王が椅子に座り、隣には姫が立ち、二人の前には兵士Aが跪いている。

国王「騎士よ、よくぞ姫を魔王から救ってくれた! 褒美にお主の望みを叶えよう!」

兵士A「……では、お言葉に甘えて3つほど……」

国王「よい。申してみよ」

兵士A「まずは、魔物達に襲われた村を私にください。そして、今回の戦いで亡くなった仲間達の遺体をその村へ運び墓地を作ります。最後に……」

 兵士Aが姫を見上げて指を指す。

兵士A「姫様を嫁にください」

国王「ふむぅ。よかろう」

姫「お父様!!」

 姫、涙目になりながら国王を見る。
 国王小声で姫に語りかける。

国王「姫よ。お前の気持ちもあるだろうが、この戦乱の中、命懸けで助けに行った彼の申し出は断れない。無事にお前を連れ帰り、魔王も倒したともなれば民衆は彼を英雄と呼ぶだろう。断れば民衆は我々を非難する。そうなれば我々は民衆を抑えきれない。行きなさい姫よ」


墓地になった村

 雪が降り、パラパラと地面を白く隠し始める。
 何百人ものお墓が並んでいる。そこにポツンと一軒の家が建っている。
 兵士Aはシャベルで墓穴を掘っている。
 村人と二人で遺体袋を穴に埋める。
 木で出来た十字架を土に差し、名前の書かれたプレートの札をかける。

村人「この人で最後です。これ以上は探し出せないですよ」

兵士A「わかった。今までありがとう。ご苦労様」

村人「本当にここに住むんですか? 姫様もいるんでしょう? 妊婦なのに一人で大丈夫なんですか?」

兵士A「ああ、姫の為に犠牲になった者達を忘れずに過ごしたいんだ」

村人「そうなんですかー。まぁ、定期的にお医者様が来ますからね。じゃ、これで。物資は月二回届けますので何かあればお申し付けください! うう、寒い!」

 村人立ち去る。
 兵士Aスコップを手に持ち呟く。

兵士A「おかえり。みんな」


 その日の夜、兵士Aは家に戻らなかった。
 次の日、姫が雪の積もった墓地に兵士Aを探しに行く。
 墓地の1ヶ所に雪が窪んでいる場所があった。
 姫、窪みを覗き込んで雪を手で掻き分けると兵士Aの顔が現れる。


冬の終わり、雪が溶けてかける。

 1人の赤ん坊が家からハイハイして出て来る。墓地に行き、兵士Aの遺体をむさぼり食べる。
 赤ん坊はその場で急速に成長する。5才くらいの男の子になる。
 家に戻り、大人用の服を着てドアの前に立つ。

子供「お母様。お達者で」

 子供はドアを閉めて家を出て行った。
 
終わり
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