小学校の頃、自分と同じクラスにある少女が居た。
ショートカットで身長は低めの、お転婆な少女だった。
彼女と話していたことはとても楽しかったし、自分も彼女もまた笑顔であった。
恋愛感情というものより、ただ単純に幸せと感じていた。
しかし、中学になると彼女は親の都合で遠くへ引っ越してしまった。
それでも、自分と彼女はメールという糸で繋がっていた。
それでも自分は楽しかった。僕は例の通り心の中で笑顔だったが、
遠くにいる彼女があの様に笑っていたかはメールからは読みとれるはずもなかった。
そんなある日夢を見た。
近所にいきなり彼女が遊びに着たようだった。時刻はまだ明るい真昼頃。
ひとしきり再開を喜んだあと、駅前でもぶらつこうかということになった。
すると、何故か空は急な勢いで暮れていき、いつの間にか夕暮れになっていた。
思考がはっきりとしない妙な感覚、また謎の事象の数々から、
現在自分がいる世界がどこなのかはそれなりに見当がついていた。
だけど、分かっている上でもう少し酔っていたかった。
とりあえず彼女に「また明日」と別れを告げた。また明日があると思っていた。
彼女は微笑みながら、ゆっくりと「うん。また明日。」としっかりと言った。
夕日に染められたのか、それとも何か別の理由か――
彼女は頬を紅に染めながら、道をてくてくと歩いていった。
ちょうど角で姿が見えなくなるぐらいに、彼女へ向かって精一杯、手を振ってみた。
すると、信じられない笑みと共に手を振り返してきてくれた。
信じられないとはどういうことかというと、そのままの意味でただ信じられなかった。
全ての負が一気に正に転がるような、芸のない言葉にするとまるで天使のような笑みだった。
余韻に浸っていると、ふと目が覚めた。
時刻は朝、場所は布団の上だった。
心に隙間風が吹くような淋しい気持ちであったが、
あれは夢だったんだと当たり前の整理をつけ、日常へと戻った。
なんてこともない出来事だった。
それからはいつも通りの日常を消化した。
彼女とは前と変わらない様子で電波で繋がっていた。
そして、お互いに大学に進級した直後のある春の日、彼女がこちらに引っ越すことが分かった。
彼女がこちらに到着してひと段落ついた後、1日彼女と駅前に出かけることにした。
映画館に行き、街を歩き、喫茶店に行った。
自分は笑顔で、彼女もまた――昔と違い少し大人びていたが――笑顔であった。
会っていない間の身の回りの話などに華が咲いた。他愛も無い会話だった。
街の空気が茜色に染められた頃、彼女と別れることになった。
今は、あの時と違って彼女はいつまでもここにいる。
だから、自分は自信を持って「また明日」と別れを告げた。
彼女は微笑みながら「うん。また明日」と言い商店街を逆の方向に歩いていった。
だんだんと姿が小さくなり、ギリギリ見える見えないかという所で大きく手を振ってみた。
すると、この前と同じことがたったひとつだけ起こった。
そう、あの時見た、
信じられない笑みだった。