森が焼かれていた。街が焼かれていた。
火焔が渦を巻き、形あるものが無へと化してゆく。熱風が吹き渡ると家々の屋根が崩れ落ちる。そのたびに轟音が鳴り響いて、まるで森と街とが泣いているかのようであった。
二人の男がいた。
沈黙のまま対峙している。
一人は剣、もう一人は弓を構えている。
剣を持った方の男は、豪奢な金色の髪に白磁のごとき肌をした美丈夫であった。翻る絹地の黒服は男の精悍さを表現にするのにふさわしく、手にした剣は揺らめく炎を反射して黄金色の輝きを放っていた。
一方の弓の男もまた白皙の美男である。万物の基を司る五行のうち金気が強く出たのであろう、白に近い灰色をした髪を後ろに束ね、肌は月光のような透き通っている。天を衝くような美眉は意志の強さを感じさせ、鋭い眼光は鷹を思い起こさせた。すっかり煤に汚れているが、天与の美貌はいささかも損なわれてはいなかった。
二人は視線を交わした。
僅か一瞬、ふと笑みが重なったような気がした。
その次には二人が放つ気が膨大な風の渦となって吹き出した。常人ならば立つことさえままならないだろう。だが二人の対決を見る者は月と炎のみである。
剣を手にした男が駆けだした。
もう一方は弓を引き絞る。
炎はますます逆巻いて天を焦がそうと曇り夜空に立ち昇ってゆく。
火の粉が散った。それは夜空の燐星のごとき輝きを一瞬だけ放って消えていく。
それは、まるで……。
一条の北風が烈火の上を踊った。
どのような物語にも始まりがあって、終わりがある。
この物語の書き出しは、実は結末なのである。次からはこの二人の男がどのようにして出会い、なぜ闘うことになったのかを書こう。
だが、是非記憶に留めておいてほしい。結末から書き始めたのには理由があるのだ。
彼らがこうして二人で立ったとき、おそらく、二人の胸中にはたった一つの思いしかなかったはずなのである。そこに至った経緯も、背後に隠された陰謀も、このときの彼らには何一つ関係が無かった。