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第2巻「お家へ帰ろう」

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放課後。

「謎の美女の登場に戸惑いを隠せない主人公・・・・・
張り巡らされた伏線の数々・・・
明かされ始める主人公の過去・・・・・・
君は、歴史の目撃者になる!!!!」
「帰るぞ」
「あ、はい」

何の真似だ。
帰る、といえば・・・。

「お前、家に帰るの?」
「え? 帰らないよ?」
「なして?」
「だって警察の人とかごちゃごちゃしてて身動き取れないんだもん。ていうか"なして"ってなんですか?」
「ああ、『なぜ、どうして』の略だな」

メモ。

「じゃあどうするのよ~」
「オカマ口調禁止!」
「・・・ARIAか?」
「ありあ?」
「知らないならいいや」

女子と肩を並べて帰るなんてどれだけぶりだろうか。
俺を不幸にする! ・・・みたいな事を言ってたくせに結構うれしい状況なんだけど・・・そのあたりはどうなのかねぇ。

「真剣な話、どうすんの?」
「お世話になります」
「おお、居候か」
「居候ですね」
「いいの?」
「え? あれ? 私がいいのかどうか聞かれるのっておかしくね? 逆じゃね?」
「いや、だから宇宙人とはいえ、あなた女の子じゃないですか」
「あー・・・はいはい。なるほど。わかりました」

メモ。
なんで今のをメモ? 今のはおかしいだろ。

「結局ウチに来るの?」
「行かせて頂きますよ~」
「マジか」
「マジです」
「そっか~マジか~」
「ですね~」

そういえば、こいつの家って、今頃ケイサツとかカンシキとかそのテの人々でいっぱいなのだろうか。
ソウサってヤツが、どれほどの期間行われるのか正直俺にはわからない。
つか、家族全員宇宙人化してるとは言え、存在してるってことは・・・。

「親御さんとかは心配しねーの? 宇宙人化してるんだろ?」
「みんなそれぞれ、知り合いの家とかに住み着いてますよ~一時的に、ですけど」
「えー・・・それ絶対幽霊とかそっち方面な感じで扱われるって、世間的には」
「それは・・・困りますね」
「かといって、ウチに一気に来られたら・・・・・・・・二人の時間が共有できないってかそのままベットにうへへへへへ」
「どうしたんですか?」
「いや、どうもしません」

ん、そういえば・・・。

「そういえば」
「総入れ歯?」
「そう言ったと思う?」
「ごめんなさい」

アスファルトの道に響く二人分の足音。
革靴がすごく・・・歩きにくいです・・・。

「俺ってお前に触れんの?」
「え? なんでですか?」

理由は、まぁ、なんというか、時が解決してくれますよ。
・・・なんか変だな、まぁいいけど。

「というかお前は、現実として存在するものを触ったりできるの?」
「できないわけないじゃないですか」
「なんで断定?」
「触れなかったら、今歩けてるわけないじゃないですか」
「あー・・・だねぇ。頭いいな」
「宇宙人ですから」
「宇宙人は頭がいいのかー。俺も宇宙人なりてぇなー」
「なってみます?」

靴音は止まない。

「さっきの話ですけどね」
「・・・ん?」
「お母さん、まだ家から離れられてないんです」
「はい?」
「妹も、父も、イギーも、みんな思い出の場所や、行きたい場所で過ごしてるんです。宇宙人として」
「お前もか」

はい、と軽く答えてから、

「でも、お母さんまだ家から離れられないみたいなんです」
「そりゃあ・・・なんというか・・・なぁ」
「ね」
「・・・・・」

責任は誰にあるか。

「お前ん家の前、通って帰っていいか?」
「え? 私ん家ですか? いいですよ?」

なしてあなたはWHYと言いたげな目でこちらを見るんですか。
靴音は事件の現場へと向かう。

****





「・・・」
「・・・」

道は鮮明に覚えている。
何度も何度も確認したから。
距離まで正確に把握しているはずなのに、その場所への道のりがやけに遠く感じてしまう。
なぜだろう。

「どうしてウチだったんですか?」
「条件が合った」
「ほほう、詳しく聞かせていただきましょう?」
「・・・」

いつも思うが、宇宙人がたまに変なキャラを演じようとするのは何故なのだろうか・・・。
間を持たせるつもり・・・ではなさそうだな、心底楽しそうな顔をしている。
その表情は、『さぁノって来い!』とでも言いたそうで。

「現金で金があって、男がいなくて、俺ん家から近い」
「ほうほう」

メモ。

「候補はいろいろあったんだけど、やっぱりここかなぁ~って」
「ええ~私めちゃくちゃ運悪いじゃん」
「軽いな・・・」
「軽くて悪いですか?」
「良い傾向ではありませんな」
「マジですか」
「いや、よくは分からないけど・・・」

運、ねぇ。

「やっぱりアレなの? この世に未練とか残ってんの?」
「未練なんか無くても居られるんですよ、私位になったら」
「宇宙人だからですか」
「だからです」

言い切られても・・・。

「あ、そうだ」

ん?

「ん?」
「良い事思いついた」
「お前のケツの中でションベンでもしなきゃいけねぇの?」
「な、なんでですか!」
「くそみそじゃないのか」

紛らわしい事言うお前が悪い。
・・・よな?

「もー・・・」

一気にテンションが下がってらっしゃいますが・・・そんなにイヤでしたか。
以後、気をつけます。・・・と心の中だけで誓ってみたりしてみる。

「そ、それよりも思いついたいい事って何なんだよ」
「ああ、もうなんか別にどうでもいいです」
「え? なんで? いいの?」
「だって~・・・なんか持ってかれた感じだし・・・」
「まぁたボケようとしたのか」
「・・・聞きたいですか?」
「ん、おう」
「じゃあ~さっきのトコから! ・・・・・あ、そうだ」

ええええ

「ん、ん? どうかしたのか?」

こう聞けばよかったのか?

「取引しませんか?」
「とりひき? 何の」
「あなたの寿命の半分と引き換えに、あなたに死神の目を・・・」

ちょ、おま。

「くっだらねぇぇえぇぇえええ」
「ああああ! 最後まで言わせて下さいよ! ほら、最初から! 『あ、そうだ!』」
「『あ、そうだ!』じゃねぇよ! なんかめちゃくちゃ重要な事なのかと思って若干身構えちまったじゃねぇか!」
「そんなリアクションないでしょう! せめてなんかこう・・・良い感じでなんとかならないんですか!」
「ならねぇです! いや、ならないです! お前はいつの間に宇宙人から死神に昇格したんですか! 俺が目を離した隙にダーマ神殿行ったんですか!」
「私まだレベル20に・・・っていうか宇宙人を極めたら宇宙人になれるもんなんですかね」
「遊び人から賢者になれる世界だからな~。いや、不思議は無いんじゃないか?」
「むっ」

メモ。

「それにしてもなんでデ●ノ?」
「・・・私とあなたの関係が、なんだか死神と高校生って構図に思えちゃって」
「『宇宙人と殺人者』なんだろ? ほぼ180度違うじゃん」
「1radくらいですか」
「らじあん? なにそれ」
「・・・・天然ですか?」
「天然です」

彼女の家まであといくつの曲がり角があるのだろうか。
彼女の家まであと何メートルくらいあるのだろうか。
彼女の家まであと何歩くらいなのだろうか。
彼女の家まで・・・。

「あなたみたいな人は三角関数で躓けばいいんです」
「どんな拗ね方だよ・・・。っていうか、三角関数て何?」
「むふ、頼んだって教えてあげません」
「なんだよ宇宙人のくせに」
「ふふん、私はドラ●もんじゃありませんからね」

何故ドラ●もん?

「人間に簡単に命を奪われるドラ●もんになんか夢を抱けないね」
「む」

『不謹慎!』・・・とでも言われるのか?

「私ホントはめちゃくちゃ強いんですよ! じゅ、ジュードーとかそりゃあもうアレですから、5段とかその辺!」
「はいはい、お前のとーちゃんパイロットお前のとーちゃんパイロット」
「むむむ、信用してませんね! 夜這いかけられなければ今頃・・・ッ!」
「寝込みを襲う、な」
「へ? 一緒じゃないんですか?」
「メモしとけ。そして後で意訳して顔真っ赤にして枕バンバンしとけ」
9, 8

  

家の前には女性が一人。
年はウチの母さんよりやや老けてるように見えるが、どうなのだろう。こればっかりは分からない。
彼女はただ、その家を眺めている

「お母さん」
「ん? ああ、学校は終わり?」
「うん」
「そう。・・・で・・・」

目が合った。
やはり、俺が殺した女だった。

「ええと・・・・」
「いや、いいよ。顔は覚えてるから」
「・・・」

どういう言葉を返せというのか。

「お母さん、私この人のとこに厄介になることにした」
「そう、わかった。荷物、持って行き。モノはまだあまり減ってないはずだから」
「わかった。いってくる」

警官が何人も入っているが、開いたままの玄関へ宇宙人は入っていった。
やはり、彼らにも彼女を見ることは出来ないようだ。
恐るべし、宇宙人。

「あなたは、自分が誰だと思う?」
「哲学ですか?」
「ストレートな意味合いで」
「ずばり、殺人鬼ですね」
「それ以外には?」
「それ以外の答えがあなたに必要なんですか?」

お互いになにを考えているのかわからないまま、ワンテンポ置いて、

「人を殺しといてえらい口のききかたね」
「慣れてないんですよ。年上の方との会話にも、死人との会話にも」
「私が始めてだった?」
「・・・なんだか一つ間違えれば違う意味合いを持ちそうな言葉ですね・・・・まぁ、そうなんですが」
「じゃあ、わからないね」

さっきから何が言いたいんだこの人は

「・・・・なにが」
「私たちが」
「誰がわからない?」
「あんたが」

こちらの聞き方が悪いのか、どうも話が前へ進む気がしない。
進める気はあんのかこの人。いつまで続くんだこの禅問答みたいな会話。

「俺が、あなたたちの、何を分からないんですか?」
「ほぅ、じゃあ聞かせてもらいましょうか。わたしたちは・・・」

軽い呼吸。

「私たちは誰だと思う」
「・・・・あの子は宇宙人だと」
「本当に? 人は死んだら宇宙人になると、本当に信じてるの?」

何言ってるんだこの人は・・・・。少し、腹が立ってきた。

「どうにも要領を得ません。単刀直入にお願いします」
「いいから答えて」
「・・・・貴方たちは死人であり、幽霊であり、化け物だ。それを認められずにいる」
「どうしてそういいきれる?」
「俺が殺人を犯したことを知っているから・・・かな。証拠らしい証拠を残さないように上手くやったつもりだし」
「ほう」
「現に、俺はこうして自由の身だ。偽名を使ってるわけでも、顔を整形したわけでもないのに」
「じゃあ」

この人の会話のテンポは本当につかめない。
これならあいつの方がよっぽど楽に話せる。

「あなた、今日は誰と会話した?」
「・・・・・」
「あの子と、私と。それ以外には? お母さんとは? お父さんとは?」

なぜ反論が口から出てこない。

「ぼやけて、必死に思い出そうとするほどぼやけていくでしょう?」

ちょっと待ってくれ、どうしてこんなに焦らなきゃいけないんだ。

「あなたは誰なの?」

俺は・・・・?

「あなたは他人から見られているの?」

ちょっと、頼むから、ほんの少しでいいから、

「宇宙人になっちゃったのはあなたの方じゃないの?」

待ってくれ。まくしたてないで。

「どう?」
「・・・・地球人だって宇宙人の属種ですよ」
「小学生みたいな意見ね」
「異星人、という意味合いで用いられる宇宙人、という言葉。これを上手く使っているようにしか思えません」
「誰が」
「あなたです」

なんという、あいまいな境界条件だろう。

「誰であってもいいんです」
「ほう」
「誰かから認識されなければ、俺は俺じゃなくなります」
「あなたのなかであなたは固定されないの?」
「ヒトは思考も行動も流動的な生き物です」
「難しい言葉ね。おばさんには分からないわ」

彼女は目線を俺から離し、再び家を見上げると、

「あなたは死んだ」

こう言った。

「・・・・しかし死んでいるのはおばさんの方かも知れませんね」
「あなたは私の家へ押し入り、殺人を犯そうとしたが失敗した」
「それでは俺とあの子が話すことができるようになった事が十分に説明されません」
「あの子はショックで精神がすこしおかしい方向へ曲がった」
「・・・」
「そして見えないものまで見えるようになる。あなたはまだ死を認めることができていないから存在する。それをあの子が認識する」
「・・・・そして俺の存在は固定、つまり確定される・・・と?」
「全ては作り話」
「そうですか」

彼女は少し意外そうな顔をした。

「そうなら、それでいいです」
「あら?」
「だってそんなこと、貴方にディティールを変えて話したって内容も重みも変わりはしない」
「そう、所詮は戯言」
「・・・・・あなたの狙いが良く分かりません」
「言えば理解してもらえる?」

俺は少し怒ったのかもしれない。

「じゃあ今度は『ヒトとヒトとの情報の伝達において、その私的な見解においてその情報が捻じ曲げられる可能性はゼロであるはずがない』とでも言いましょうか」
「ムキにならないで」
「馬鹿げてる。こんな精神論を真昼間から繰り広げられるような変な境地に俺はまだ立っていない」
「立って居なくてもいいの」

よくみると美人だ、この人。

「立っている私に後ろから話しかけてくれたらいいの」

いや、もしかしたらウチの母さんより若いかもしれない。

「そうすれば、私もたまには振り返ってお話を聞いてあげるわ」

娘宇宙人がパンパンに膨らませたザックを3つ抱えて出てきたときには、すっかり俺と母宇宙人は打ち解けていたようだ。
たぶん、似たように顔の端を引きつらせていたと思う。

おまえ、どんな秘境に冒険に行くつもりなんだよ。
11, 10

モルスァ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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