季節は夏。学生はそろそろ夏休みになる。夏休みが始まると同時に、僕はそれまで持っていた束縛されている感じから解放される気がした。
「それじゃあ、また夏休み明けに。怪我や病気をしないで、元気に登校するように!」
ギャーギャー騒いでいる教室に向かって先生が言った。が、それを聞いている人は果たしていたのだろうか。みんなが適当にはいっ!と返事をすると、それが合図のように夏休みのスタートが切られた。
チャイムが鳴ると僕は走って家に帰った。今日は特別な日なのだ。キリストの誕生日を祝うクリスマスよりも、お年玉を貰える正月よりも、もっと特別な日だ。
「ねぇ、僕、パソコンが欲しいんだけど……。」
中学二年でこのようなことを言うなんて、マセガキだな。と、自分でも思う。
「あんた何言ってるの?そんなのダメダメ。」
母親は現実主義だ。
「中学生に自分のパソコンなんていらないじゃない。ねぇ、お父さん。」
寝そべって新聞を読んでいた父に話を振る。これは母親の癖である。父はしりをボリボリと掻きながら
「今度のテストで全教科満点取ったらパソコン買ってやるよ。」
と、非現実的な提案をした。これは父の癖である。
「ちょっとお父さん、適当なこと言わないで!」
「……だって修治が全教科で満点取るはずないだろ?」
母の眼をみてそう言うと、また視線を新聞に戻し
「へー、衆議院解散総選挙かー。」
とか何とか呟きだした。で、母はというと、こちらも息子のことを信用していないようで、
「ま、全教科満点は無理か。」
と言って、洗濯物を取り込みに行った。ただ、僕も自分自身のことなんて信じていなかったのだけれど。ただ、全教科満点をとれば念願のパソコンが手に入るのだ。
「やってやろうじゃん!」
もう気持ちここにあらずの両親に向って言った。右手で決意の拳を作ると、机に向って歩き出した。教科書をバッと開き、蛍光ペンをザッと取り出し、勉強を始めた。いつもは五分で寝るのに、今回は違った。
パソコン パソコン パソコン 現在進行形 パソコン パソコン
そして僕は、パソコン力により全教科満点をとった。いつもは70点前後の点数しか取れないのだが、今回は全教科満点だ。両親も、これにはさすがに折れてくれた。母は
「お父さんがあんなこと言うから……。」
と言いながらも、息子が学校で優秀な成績を修めていれば気前も良くなるってものである。こうして、僕は人生初のマイパソコンを手に入れた。