この世の中には死んでもいいやつが溢れかえっている。
この世の中は不公平だ。頑張っている奴が認められない。
今を必死に生きている奴がなぜ殺されなければならない?
そして平気で犯罪に手を染め、人の命を簡単に奪う奴。
今月末、俺の妹も通り魔に刺されたことにより殺された。
急な出来事だったから、悲しいも何もあったものじゃない。
俺はただぶらぶらと散歩をすることにした。
何も考えずに、ただただ歩き続けた。
不意に体が軽くなり、それから急激な激痛が全身を襲った。
妙な浮揚感に包まれ、そこで俺の意識は途切れた。
何も無く、ただ見渡す限りの白い空間。その中に俺は立っていた。
「お前は腐っている今の世の中を変えたいか?」
どこからとも無く響いてくる声に、辺りを見渡すがそれらしき影は見えない。
「変えられるものをお前に与えよう。お前にはその気質があるとみた」
すると、目の前に黒く輝いたものが姿を現した。シルエットは細長く鋭利にとがっていた。
「死の鎌――デスサイズ――だ」
手にした途端に光が俺を包み、黒いマントを作り出した。
「その鎌は人の命を狩り、その残りの寿命を死んだものに分け与えることができるのだ」
重そうに見えた鎌だが、実際に持ってみると自分のてにしっくりきて軽い。
「だが、それには条件がある。寿命を分けたい者の一番大切な人を狩るのだ」
そこまで言うと、再び目の前に黒く輝く物体が現れる。
「それは死の鏡――デスミラー――と呼ばれる物で、それに一番大切な人が映し出される」
俺はその鏡を左手で取り、声がしている方向に顔を向け笑う。
「なるほどな……面白そうじゃないか。世直しってところか?」
「そんなに良いものではないがな。だが、決して忘れるなよ……」
正体不明の声は、そこでひとつ間をおいて強調した。
「罪も無い人を狩るではないぞ。そのときは、ペナルティがあるからな」
「俺は不公平な世界を変えるだけだ。自分の私利私欲のために使わない」
「そうか、なら安心した。もとの世界に帰りなさい」
狭くて……息苦しい。それになにやら大勢の意味の成してないような声が聞こえる。
明かりが漏れている……ということは、部屋の中なのか?
……起き上がれそうだ。俺は、強引に体を起こし立ち上がった。
すると、そこには黒い服に身を包んだ者が、たくさんこちらを見ていた。
中には泣いていたりしていたものも居たが、今はみな不思議そうにこちらを見つめている。
そして、たちまちざわめきが沸き起こり、俺はその場をさっさと後にした。