トップに戻る

第一話「他人」

単ページ   最大化   

他人なんてうっとおしい。そう思っていた。
今まで仲が良かったと思えば、すぐにいじめにはしったり、
話しかけようとしても、避けられたり。

俺は生まれた頃からそうだった。
毎日のように虐待、虐待、虐待。反抗すると、家には当分入れない。
・・・考えてみれば、人を信じたことなんて無かった。
名前なんか、呼ぶ人もいなかった。
名前なんか無ければ良いと思った。

ただ


その日が来るまでは・・・








俺の名前は上野晴喜。晴喜って言うほど明るくなく、いわゆるネクラである。
俺は今日、とある学校に転校して来た。それがこの学校、「白泉高校」。
特に目立った外観もなく、ただ、グラウンドと校舎と体育館があるだけ。
この学校に転校するとき、初めは行くと言ってなかったが、学費は全額免除と聞いて少しは楽だろうと思い来た。


「どうせまた、この学校でもいじめられるんだろう」


口からは発しないが、言い馴れた言葉が俺の脳裏をよぎった。
今まで、何十という学校を小学校の頃から転々としている。転校っていうことには馴れていた。
この学校が通算、いや、おおよそだが50校目ぐらいだろう。
おかげで、この辺りの学校の所在地はほとんど把握しているが、そんなことはどうでもいい。
問題は、初めにも言ったとおりだ。

この学校には、どんな風にいじめる奴がいるんだろうか?
この学校には、どんな風にいじめられる奴がいるんだろうか?

期待していたのはそれだけだった。
いつしかそれが楽しみにもなってきているのだと、自分でも自覚していた。







教室は一年五組だった。「イチゴ」と略されることが多い、いや一般的なクラス。
全六クラスあるんだが、そういうことは今はどうでもいい。
さぁ、どんな奴がどんな奴をいじめるのか・・・?臆病か?金持ちか?それとも、ネクラか?

一つ、自分が該当するものを言っていたことに気付き、少し身震いした。


「えー、今日はこのクラスに転校生が入ってくることになりました!」
「ハーイ、じゃあ転校生クン入って来てー!」

転校生クン・・・?


ガラガラ・・・
「失礼します」

・・・
一言言う。

・・・見た所凄く目立つような奴が一杯いるクラスだと思った。率直に言って。
アフロにアフロにアフロ・・・アフロばっかじゃないか!これはネタなのか、と一瞬考えたが、すぐに消えた。
全員の視線が僕に集まる。馴れた感じで、俺はみんなの前に出る。







「上野晴喜です。趣味は特に無いですが、しいて言えば音楽鑑賞です」
「好きなものも嫌いなものもありません。プラスに言えばオールマイティです。宜しくお願いします」

・・・こんな事言ってテンションが上がる奴がいたら見てみたいもんだな、全く。

「音楽鑑賞?!マジかっけええぇぇ!!」
「めっちゃクール!これはカッコイイwwwwwww」
「実はツンデレだったりして」
「晴喜かー。じゃあ、あだ名はハルだな!!」
「おぉ!ハルか!いいなそれ!」

ちょ。何こんなことだけで盛り上がってるんだコイツラ。おめでたいなコイツラ。
それよりツンデレって何だ。ぶっ殺すぞこの野郎。何か勝手にあだ名決定したし・・・。

・・・初めてだこんな感覚は。何だか自分の中の歯車が狂った様だ・・・。
―――まぁ、いい。二、三日もすれば冷めてくるだろう、こんな馬鹿みたいな奴らでも。
それまでにクールや冷酷なイメージをつけさせておけば完璧だ。


――――いつしか俺は、人に嫌われることを望んでいた。でも、それで良かった。






今日は特に目立ったいじめ等は無かった。それよりも、何だかいじめをする奴がいなさそうな・・・。
それよりもさっきからしつこいのが・・・

「やぁハル!一緒に帰らないか?!いや、帰ろうぜ!」

コイツだ。名前は静原啓亮(しずはら けいすけ)というらしいが、名前よりも五月蝿い奴だ。
むしろ、俺と名前を変えたほうがいいんじゃないのか。
・・・まぁ、初日だし、それに、聞きたいこともあるから帰ってやるとするか。

「わかったよ。でも、大人数は苦手だから二人で帰ろう」
「おう、わかった!」


いやに返事が早かったな・・・。どっちにしろ一緒に帰るつもりだったのか・・・。



「ハルってクールで格好いいよなぁー。数学のときも、サラッと答え言っちゃうしさー。俺女だったら惚れるわ」
何言ってんだこいつは。何を根拠に惚れるなんて・・・
「・・・・・そうか?僕はいたって普通にしてるつもりなんだが」
「それが格好いいんだよ~。ハル!その知性と知識と頭脳を俺に分けてくれ!頼む!」
三つとも同じような意味だと思うんだが、そんなことはどうでもいい。
しばらく俺は、その静原の会話に付き合ってやった。
そして、別れる直前ごろに、俺は本題を切り出した。

「・・・なぁ、この一年五組に、いじめをする奴っているのか?」
「へ?いじめ?」

――――返事に胸が高鳴る。十中八九いるだろうから、そこからが本番だ。
どんな奴なのか、主にどうやっていじめるのか、誰をいじめるのか。
何を武器とするのか、男子なのか女子なのか。はたまたどんな手口で・・・


「俺は知らないけど、多分居ねえよ?」


「・・・ふぇっ?」

予想外の答えに、思わず奇声を出してしまった。
いじめが・・・無いだと?!そんなはずは無い!絶対ある、いや、無ければ困る!
・・・まさかここまでとは予想してはいなかったが、こんなときにも柔軟に対応するのが俺流。

「いや、そんなことは無いだろう?一人くらい居るんじゃないのか?確証は無いようだし」
「う~ん・・・でも、そんな奴が居たら、俺が今頃ぶっ飛ばしてるさ!」
「・・・そんなにこのクラスは仲が良いのか?」
「ん~~、まぁそんなところだな。話したこと無い奴なんて居ないぜ俺は!」

・・・こいつは驚いた。頭の中が狂いそうだ。とりあえず、今日は帰って考え直そう。

「それじゃ、この辺で」
「おぉ!またな!明日もがんばろうな!」
「あ、あぁ・・・」


「明日もがんばろうな、か・・・」
「明日なんて、考えたことも無かったな・・・」


それよりも、俺には「またな」という簡単な挨拶に動揺してしまった。
挨拶なんて、聞いたことはあるが、したのは初めてだった・・・。


初めて他人を、他人と思えた。


TO BE CONTINUED...

1

ロスト 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

トップに戻る