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二日目

「おい、西本。そろそろ起きろ」
突然の男の声に意識が覚醒していく。
声のする方向には東条太一が着替えていた。枕元に置いた携帯を手に取るとディスプレイは六時二分を示していた。
 外はまだ薄暗く、白い霧が窓の外を覆っていた。
「結局、俺の予想通りになったわけだ」
「何、知ってたのか? 前島先生が見つからないこと」
「は?」
 俺はもう一度聞き返すしかなかった。
「いや、あの前島って先公が消えた……ま、正確にはまだ探してないんだが、昨日の夜からどうも姿が見えないってな。今日の朝それとなく部屋を見に行った途中で、生徒の一人が教えてくれた」
 着替え終わる東条は歯ブラシを片手に洗面台へ走っていく。俺はその背中を追いかけながら、
「おい、それが本当だとしたら、まずいぞ」
「ああ、混乱が起こる。だから、俺達で先手を打ちにこれから探しに行くんだ」
 俺は息を呑んだ。
「どこの情報網だ? 一生徒じゃ全く信憑性がない」
「びがきばよ。あのがきゅうぃいぎゆ。ずごべえぜ。あふぁ単ジからほひてはっちふぉっちまふぁってるががが。(薪先だよ。あの学級委員長。すげえぜ、朝三時から起きてあっちこっち回ってるからな)」
 東条は歯磨き粉を口の中で泡立てながら喋るが、俺の脳内変換によって簡潔化される。
「一人でか!」
 口にたまった白泡を濯ぐと東条は鏡越しに俺に目を向けながら狼狽えた。
「あ、ああ、多分な。俺らの部屋に来た時もそうだったし、その時それとなく言ってきてな。六時までに何も連絡がない場合はお前を連れて玄関口に来てくれって言ってた」
あ、頭が痛い。いくらなんでも非力な女の子がこんな物騒な建物の中を一人で歩き回るなんて正気の沙汰とは思えない。
「東条は部屋を出たら舞と玲奈の部屋に行って、舞達には一応来て貰えるか聞いてみてくれ、玲奈には三人一緒に部屋で待機するように言ってくれ」
「分かった」
東条は部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待て」
「ん?」
俺は東条に枕の下に潜り込ませていた物を投げつける。パシといい音がして東条がそれを受け取る。
「装飾ナイフか。こんなもんなくても俺の格闘技術は知ってるだろ?」
「いや、お前じゃない。玲奈に渡してくれ」
東条は一瞬残念そうな顔をして「そうだな」と呟いて出て行った。

二日目――午前六時二十三分。
エントランスの玄関口に集合していたのは何と俺達だけだった!
薪先芽依は俺が行くと既に待っていたのだが、なんと立ったまま眠っていた。
よほど眠かったのか。
恐らくは物音を立てずに側まで行き、東条が来たときもジェスチャーで簡単に伝わった。
それから暫くして、浅い眠りからか一度目を開けた。
「お、やっと起きたか」
東条がそう言うと芽依は眠たそうな目を固く瞑って欠伸を噛み殺し、機嫌を損ねたように言った。
「なっ、今何時!」
「まだ二十四分だ」
「どおして起こしてくれなかったの!」
そりゃ、あんなに気持ちよく寝てたら起こすなという方が野暮というものだ。立ったまま眠ってるなんて思ってなかったが。
「あ、しかも、西本君まで……」
「お、お前が誘ってこいって言ったんだからなっ」
東条は血相を変える芽依に尻込みして手を十字にワイパーさせている。
「ま、これが初めてってわけでもないが……」
「立ったまま寝てる方が悪いん――え?」
 東条はとりつく島もなく閉口した。
「(おい、初めてじゃないって、どういうことだ?)」
 俺に耳打ちする暇があったら前島のこと、少しは思いだして上げて下さい……。
「前に。それだけだ」
「ちゃ―っ」
 横から現れたのは佐藤英美の姿であった。
「佐藤さん……」
 閑散とした灰色大理石の上で芽依が放った言葉に英美は首をもたげた。
「あれ、何で薪先さんが?」
 要所を掻い摘んで説明すると英美は低く唸った。
「ううん、それだと舞は置いてきた方が良かったんじゃない?」
「舞? その子、紹介して頂けないかしら」
 芽依と舞は違うクラスだった。芽依の名前は知られていても舞の名前は知る道理もなかったか。
「俺の母ちゃん」
いきなり東条……冗談にしてはキツイ……。
「佐藤英美よ。以後、よろしく」
「お前ら漫才しに来たのか?」
「……」
 芽依は呆れていた。
「舞はどうしたんだ?」
「は? あの子は朝起きられないから置いてきたわ」
「え、結局置いてきたのかよ」
「いいんですか? 私としては朝食を取る前に主なところは見ておきたいんですけど」
「一応メモは残してきたから。大丈夫よ」
芽依は一、二時間ざっと見てから何の痕跡も残されていなければ、朝食を取った後で改めて探すと言った。

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二日目――午前六時三十一分。
霧も朝ほどはなくなったにせよ、まだ濃いもやが立ちこめている。
「これ、探すって、ちょっとキツくねえ?」
 東条は開始早々弱音を吐いた。
「あんたっ、やる前から面白いこと言わないの」
 英美が表情を変えずに言った。
「(二人ともいつもあんな奇妙な会話をしてるんですか?)」
「(きっと、二人とも昨日は不安でよく眠れなかったところを朝早くに起こされて、少々テンションがイってるんだろう)」
俺の冗談を皮肉と捉えたのか、二人を尻目に先頭を歩き出した。
「ところでさ、近藤は前島と一緒じゃなかったのか? 確か、先公達が色々見回っていたはずだよな」
芽依は白粉をまき散らしたような霧の中、集中を切らさないまま答える。
「それについて詳しいことは知らないけど、前島先生が昨日、館を出たのは午前十時四十分頃。それから午後一時になって戻ってきたらしいんだけど、それについては生徒が見ていてね。部屋に戻っていくようだったらしいわ」
それからの話しはこうだ。
戻った前島に近藤は話しを聞きに行こうとするが、前島は部屋に籠もり鍵を掛けたままだったらしい。それから、数時間してまた前島が館を出ていったというのだ。
「――つまり、その後の行動については誰も予測出来ないということなのね」
英美は神妙な面持ちでそう言うと、芽依は頷く。
「じゃあ、これも闇雲に探してるだけかよ」
東条は腕を頭の後ろに回してつまらんと付け加えた。
「つまらないなんて言わないで」芽依は刺すように言った。
「お、おう……」
東条も失言だと思ったのだろう。仮にも一人の人間が見つからない。それだけでも、今は大問題のはずだ。
道なりをまっすぐ下りていくと、特に何もない砂を詰めただけの道。
「前島はどこを見て回ってたんだ?」
「船の方を見に行った。それしか近藤先生は言わなかったのよ」
「そんなの率先して行こうとするかな」
「私が聞いた話しでは前島先生は船であった悪戯の件で酷く怯えていたらしいわよ」
英美の話しは誰もが知っているはずの『事実』だった。これは恐らく、芽依の反応を見る為のものだ。英美は疑っている。芽依が少人数でここに呼び出したことを悪意を伴っているのではと勘ぐっているのだ。
「あなた方、前島先生が記憶障害なのはご存知?」
記憶障害。それも心因性の一過性全健忘みたいなものだったはずだ。所謂、ストレスやショックによって一時的に過去の出来事を忘れてしまう病気。
「そんなの初めて聞いたわ」
東条は憂いを含んだ口調で芽依に相づちを打っていた。
「西本は知ってた?」
英美が尋ねる。これは確か過去にあった事件から先生の一部で発覚した話しだった。
「さあ、俺もあまり詳しくは知らないんだ」
「全く知らないわけじゃないのね。ま、あなたは昔からそうよね」
芽依がどこか皮肉気に言った後、霧の中にうっすらと鉄の巨体が姿を現した。
「結局、船のところまでもどっちまったな。どうする? まだ時間はあるけど」
「ちょっと、待ってて」
芽依が何かを見つけたのか駆けていく。二つの房を揺らしながら甲板へと登っていく。
登ると言ってもそんな大したものではなく、ちょっと船の甲板から出っ張った鉄板を登るだけだ。
「ねえ、東条、西本」
英美はいつになく真剣に顔を合わせた。
「なんだ? 一体」
「もし、もしもだよ? 近藤先生が前島先生の持病みたいなものを知っていたんだとしても、知らなかったんだとしても、前島先生は今回の件に関して非協力的な立場になると思わない?」
「何が言いたいんだよ」
毅然としない態度に東条が怪訝な顔をする。
「少なくても、誰も前島先生が危険なところに行くのを望んではいなかったってこと」
 英美の意見はもっともだと思う。初めに事件が起きたのはどう考えてもこの船内。そこに事件の当事者といっても過言ではない本人が、例え健忘だったとしても周りがそれを良しとするだろうか?
するはずがない。つまり――
「つまり、前島先生は自分から――」
英美がそう言いかけ言葉をのみ込んだ時、甲板から芽依の声が聞こえた。
 招かれるままに芽依のもとへ行くと、小さい手に手帳が挟まれていた。
「前島先生の……」
「勝手に見ちゃっていいのかしら」
 英美が言うより先に東条は黒い帯のそれを取って開いていた。
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「なるほど、生活の中で重要な出来事を逐一メモした手帳らしい」
「何の為に」
 決まり切っている。持病によって健忘が起こった時の為だ。『ダイイングメッセージ』。ふと、そんなものが脳裏を過ぎった。

 二日目――午前八時八分。
 結局、船の中まで回ってはみたものの、何も手がかりなく今に至る。帰ると玄関ホールで待っていた近藤と舞に怒濤の一喝をもらった四人であった。
 それから近藤の説教を食らいながら味の分からない朝食を終えた後、近藤はそそくさと何処かへと行ってしまい、何かあれば委員長へという指示だけ生徒に残していった。
そして今、窓際の一角の円卓テーブルに座る五人は、明らかに萎れた雰囲気を纏っていた。
「ごめん……」
「ま、仕方ないさ」東条が頬杖をつきながら視線を笑い合う学生達に差して言った。
 俺達が神妙にしているのは、芽依が独断で前島を捜しに行ったことに憤慨した近藤との口論が思った以上に人目を引いた時、前島が見つからないことをうっかりと話してしまい、挙げ句の果てには馬鹿みたいに握っていた手帳に目をつけられて没収。
 相当、寝不足が祟っていたとしか思えない。
 そういうわけで周りの雰囲気というのは、打って変わってゲームの具体性が見えたことによる感興や逸楽混じりの空気で、要は歓楽しているものに違いなかった。
「まぁ、あの手帳は失踪する数時間前から何もかかれていなかったし、その程度のものよ」
 英美は芽依を尻目にフォローを入れて、暫く周りの声に耳を傾ける無言が続いた。
「あの前島は昨日一言も話して無かったらしいよ」
「うわあ、あの変な声の通りにしなかったらどこかに攫われるってこと?」
 周りの声は憶測の域を出ないが、現に行方不明者が出たことによって、ゲームはゲームとして成立し、『そういう遊び』に昇華してしまったのは瞭然だった。
『――ッ』
 スピーカーに電源が入った音がする。
 それを口火に、続けてくる音を静聴する為、静まり返る生徒達。
この館に放送室のようなものは存在していなかったが、ラウドスピーカーのような物が、大きい部屋にいくつかついているのだけが分かっている。そこから例のごとく、音が漏れた。
『ルール……』
 一層静まりかえる場の空気にまるで時が止まったかのような錯覚を受ける。
『二万歩以上ヲ歩く――』
 砂を零したような音がした後、ふつりと切れた緊迫感。そして場は嘘のようにまた元の喧騒へともどった。
「二万って……」
 そう英美が言いかけた時、舞の二つ後ろのテーブルで叫声を上げる者がいた。
「冗談じゃない!」
 声の主は意外にも森本南子。席には玲奈、いずみと二人が座っている。南子が回復したことにより、話し合いをするとの旨、玲奈が言ってきたのはここに来たときだった。
「っ」
 舞が飲みかけていた水を喉に詰まらせて、こんこんと咳き込んでいた。
「私はあいつと連むなんて御免だわ! そんなことしなくたってさっさと船使って戻ればいいじゃない!」
 南子は腰をひねって、俺達を呆れたように蔑視すると、周りの生徒達を捉えるように視点を合わせて言った。
「みんなもそう思うでしょ? ルールとか何とか馬鹿げたこと言って、こんな帰りもいつになるかわからないゲームに付き合ってられるわけないでしょ?」
 尖り声で言う南子に一同は話しをやめた。
「ね? みんなでさっさと逃げようよ。絶対普通じゃないよ。こんなところ」
 しかし、皆が神妙な顔をしたのも束の間だった。
「普通じゃないのはお前だよ。バーカ」
 俺達じゃない。どこかのクラスの一人が、南子に向かって吐いた台詞だ。
え? という顔をする南子。
「帰って何するっていうんだ? あ? お前はよ。それに、お前一人いなくなって誰か心配すんのか?」
 向こうに見える派手なパーカーを着た男の声だった。
 くすくすりと憫笑とも言える押し殺した笑い声が、辺りに波紋のように広がっていく。
 そう、ここは青緑学園。彼はもう努力を辞めたのだろう。他人に認められることはとうの昔に放棄したのだ。生きる気力と呼べるモノは一時の興奮、スリルなど、他人と共感することを介さない暇つぶしでしかない。
「――の野郎っ」
 東条が席を勢いよく立ち、その男子生徒に掴みかかる。
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「は――ッ、誰かと思えばおめでたい野郎じゃねえか。傍観者君」
 東条のCLに至るまでの経緯は至って簡単だった。それ故に、この学校で東条の素性をしらない奴はいない。皆がトラウマ的な過去を持つこの学園で、同生徒の過去を知ることは争い事に対する攻防一体の武器になる。
 それほどに彼らの傷は深い。
「てめえは親を見殺しにしたときのように黙っていればいいんだよ」
 東条は息を呑んで突き放されたまま硬直する。
 たまに東条が夢で魘されていると、決まって母親が出てきているらしい。
そして、責め立てるのだと。何故、お前が代わりに死ななかったのか、と。
俺と同じく、親戚は親権を破棄したらしい。今に至る。
「もうやめろ」
 そして、俺は特殊だった。嘲笑を絶やしていなかった周りも俺の声と同時に静まる。
元々、俺は親に愛されていた。ただそれだけでこいつらとは住む世界が違うような扱いをされてきた。
 俺は皆に取って一瞬でも愛情を注がれた対象として、嫌忌され、嫉まれる。本来はだ。
 しかし、自分がこうなったのは親のせい。同時に認められる努力が足りなかったのも事実ではないかという心思が思い起こされ、そんなジレンマに捕らわれているという思いが、彼らには劣等感を与える。そういう教育をされてきた。
「……ッチ」
 皮肉の一つでも言ったところで、自分が惨めなだけ。それが耐えられない。彼らは心の奥底ではまだ本当の意味での負けを認めていないのだ。
「悪い……」
 東条は固く握った手をほどいて、こちらへと戻ってくる。俺が上げた腰を下ろすと一同は徐々にまた喧騒へと戻っていった。

二日目――午前八時十三分
西本達と同じダイニング・ルームの一角で、華奢な肩を並べる一同があった。
「何よ……あれ」
「あれが、西本修本来のあるべき姿だ、と思っている人間も生徒の中にいるらしいわ。今の騒ぎを見ていると、私たちには先導者が必要という理由も、何となく解りますけど」
 そこで反対側の席に座っていた一際、華奢な少女が小さい胸と人差し指を張って言った。
「とりあえずう、二万歩を歩くというルール上はあ、一秒間に二歩歩いてもお、約三時間掛かかっちゃいますねえ。あはは」
 緩急をつけて言笑しながら話す少女は、まるで事態を重く見ていなかった。
「相変わらず、危機感がないのね。加奈は」
 加奈と呼ばれた少女は
「んじゃああ、私はあ、走って二万歩歩きたいとおもいまあす」
 執拗に語尾を伸ばしながら弛みきった頬を戻さない。言い終わると同時に少女は駆けていった。
「……」
「気を付けて……ってもういないの」
「千空あ。さっきの西本っていう子はこっちに引っこ抜いてもいいの?」
「ほのか。あの人の周りをよく見てご覧なさい。とってもじゃないけど、あの容姿と張り合えるのは加奈と私くらいよ」
 むっと注視した後、項垂れるほのか。
「じゃあ、後は千空の気分次第なわけだね」
「私を色モノ食いみたいに言うのはお止めなさい」
 千空は立ち上がって、廊下へ向かって歩いていく。
「え? 何処行くのよ。西本はあっちよ」
ぴたりと脚を止めてほのかの腕を引きよせる千空。
「(恥ずかしいこと言わないでっ)」

 二日目――午前八時十五分。
 俺は意識を英美へ向けた。
「結局、あの船で何を見たわけ?」
「どうせ言っても信じない」
「ありのままを教えてほしいんだけど?」
 先ほどから英美は同じような応酬を繰り返していた。南子達のテーブルでは、手帳の一件からか軽い口論状態にあり、南子がどういうわけか、俺と行動するのを頑なに拒否するので、俺がよせと言っても三人が首を横に振った。
「じゃあもう一度言うけど、私が見たのは犯人とか呼べるもんじゃない。これだけは確か」
「それをあなたの独断で判断するわけ?」
「どう思おうと勝手だけど、あんた達は私に協力する気がないじゃん。だったら、私だけあんた達と協力するなんておかしいと思わない?」
「船で逃げる計画?」
 玲奈が穏やかな様子で言った。南子が提案したのはそういうことだった。同志がいない以上は頓挫する計画には違いない。
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「そうよ、私は出来ることならあの船には二度と乗りたくないけど、こんな孤島に連れてこられたんじゃ、逃げ場もないし、何より食料に限界がある」
 南子の意見はもっともだと思う。でも……。
「それなのに何なの? さっきのあいつらの態度。まるで自分達は死んでもいいって言ってるようなもんじゃん」
 あんた達は逃げたくないわけ? 語尾を強めて言う南子に俺達は黙り込んだ。
 逃げたくないと言えば嘘になる。しかし、誰も逃げたいとは言わなかった。
「百歩譲って逃げたとしよう。でも、この状況が冗談じゃないとすれば、絶対に違う形でまた俺達の前に現れる。そうは思わないか?」
 東条が宥めるように言うが、南子は考え直す必要がないといわんが如く勢いよく席を立った。
「話しにならない。誰も私の味方なんてしてない。いいようにこき使おうとしてる。馬鹿にしやがって」
 吐き捨てるように南子は言うと、生徒達を押しのけるようにして出て行った。
「追ってあげて」
 玲奈が落ち着き払ったように、いずみを見て行った。
「う、うん。でも――」
「大丈夫。この人達は誰も仲間外れにしないから」
 いずみはおどおどした様子で立ち上がると、ぎこちなく一礼して去っていった。

 二日目――午前十時二十六分。
 二万歩というルールに乗っ取って俺達は島の把握も含めて外を見回ることにした。
というのは建前のようなものだ。
「ん――っ、意外と広いのね」
 青々と晴れた空の下、背伸びをする英美。
学園の生徒達もちらほちらと歩き回っては、楽しんでいるらしかった。そんな中、俺達五人も散策している。
 南側からは木々に遮られて確認できなかった館も、東側からはどれだけ離れても見える。
「この道はどこに続いてるのかな」
「お、舞が哲学的なものに目覚めたか」
「ち、違うよう。私たち道なりにずっと歩いてるじゃない。でもさっき曲がったから適当についてる道じゃないと思って……」
 東条は舞をからかった後、んんと唸りを上げる。
「悪い、ちょっと先行っててくれ」
「どうしたのよ」
 玲奈を含めた四人が怪訝な顔をすると、東条は大笑いした。
「小便だ」
「ふざけんじゃないわよ」
 英美が叱咤一喝して踵を返す。皆、あきれ顔で歩を進める。
『まさか、こんなに堂々と自分の排泄を宣言する日が来るとは思わなかったぜ』と東条は一笑してジッパーを下ろした。
公園の石像のように背中を反らせて……ていうか、何で俺はあいつの小便を見てるんだ。
 自分の行為に嫌悪感を抱きながら俺は早足で皆のほうへ戻った。
「そういう趣味があるのかと思った」
 玲奈が呟くように言ってから俺は赤面した。
「そういえばさあ、東条と西本は何でいつも一緒なのにお互い苗字で呼び合ってるわけ?」
 英美が不意にさもありなんな質問をしてきた。
「別に太一って呼んでも俺はいいんだけど、何か太一って締まらない気がしないか?」
「たっちゃん、とかたいちゃんでもいいじゃん」
「おま、男同士でちゃん付けしてたら気持ち悪いだろうが」
 俺以外の女子人はそうかなと言った具合で玲奈が唯一まともな反応を示していた。
「それは禁断の非生産型と捉えられるからダメ」
「何? 禁断の非生産型って」
 舞は臆面する様子も全くなかった。この子は何をして十六年間、生きてきたんだろう。
 英美は舞を引っ張り上げて耳元に囁くと、舞は見る見るうちに頬を染めた。
「おい、お決まり過ぎだから……そこ」
 俺が野次を飛ばすと後ろから駆けてくる音があった。
「悪い、ちょっと他の連中と話ししてたわ」
 一同が迎える顔は皆、冷たかった。
「え? 何この雰囲気。俺、ならず者?」
 道なりの隣接は林に囲まれ始め、向こうの方には海が見えていた。
「あれ、砂浜じゃない?」
 英美が駆けていくが、距離は八百メートルほどある。
 やっぱり砂浜だあなんて叫んでいる。
「南側は確か断崖……」
 北側に砂浜。別にだからどうしたということかもしれないが、これは海流が違うことから成り立つ地形であるということだろう。
 見ると生徒達もちらほらと見える。
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ゆの舞 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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