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彼女はキルマシーン

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女郎の様な、衣服の著しくはだけた姿で寝てる僕。
香水の匂いがする、女の部屋だ。そうだ、わっちは
先刻、居酒屋で憧れの女、真里と酌み交わし、そのまま
ゴートゥルームってな感じで、今しがた目が覚めたという訳だ。

こりゃやっちゃったかと思って股間を弄るが、妙な違和感。
その時真里が部屋にやってきた。

「ようやく今起きたのね」
「起きたよ、だけど、これは全体どうしたこと?」
「あんた酔いつぶれてたから、家に運んできたのよ。
そうしたら、無理やり押し倒されて、こんな有り様に・・・」

真里はハンケチを取り出し、しくしく泣き出し始めた。
僕は蓋の開いた壷のようにぽかんと口を開けていたが、
そのあとすぐに、突如ハンセンにラリアットを受けたような
感覚に襲われた。

「ちゃんと責任・・・とってね。今日は安全日じゃなかったんだから」
あんぜん、日?そんな単語、僕には程遠いものに思われたのに。

この山は熊が出まぁす、熊がでまぁすよぉ、と言われ、
どうせ出ないだろうとたかを括っていたら、
あっさり熊に出遭ってしまう、というような感じである。
「やったって、僕が?」
やったという生々しい単語の前に彼女は顔をかーっと赤らめ、
そしてわなわな震え出し、また泣き出し始めてしまった。

しかし僕は正直、尊敬はしていたものの、彼女と不純異性交遊
をしたいという思いなど、子猫の毛ほども無かったのだ。
そんなだから変だと思うべきだった。思うべきだったのだ。
今考えればおかしな話である。そんなこんなで、僕は今
日雇いのバイトを渡り歩いてヒィヒィ言っているのだ。

体仕事は給料も弾むし体も鍛えれるわで、一石二鳥の仕事だ、なんて
気楽に考えていたもの、今は家に帰れば即布団にダイブし、
好きな本も読めず、四つ折に畳まれた新聞が郵便ポストに溜まっていく
という体たらく。そんなに生活はきりきり舞いだというのに、
真里は一切表情を変えず、毎夜10時かっきり、
「養育費」と書かれた茶封筒を取って、夜の街に消えてゆくのだ。
ああ、やんぬるかな。

真里のことをひとつ語っておくと、
彼女は同じ大学の政治学に通う、知的なオーラを漂わせる娘であった。
普段からギャルやイケイケな女の子に恐怖を覚える僕は、
その反動からか、真里を好きになってしまったのだ。

そんで普段まったく興味の無い政治学の本を紐解き、
(僕はもともと文学部だというのに)どう考えても八百屋の計算には
役に立ちそうにないモラルハザードだとかデフレスパイラルだの
ソリッド感漂う言葉を沢山頭にぶちこみ、
彼女と話題を合わせようとしたのだ。

真里と度々キャフェテリアで話したりしたのだが、彼女は一切表情を変えない。
言葉面だけは優しいのだが、全く感情が篭ってないのだ。
僕はこれを彼女独特の生態系だと解釈し、少なくとも不快だとは思われてないから大丈夫、
と自分に言い聞かせて、ずんずん彼女の懐に入り込んでいったのだ。
まあ、毒蜘蛛にかかった哀れな蛾とでも言おうか。
はたから見れば、そうだったのには違いないだろう。

それにしても今日は腹が減った。スーパーカップは安いのに量がとにかく多くていい。
部屋は片付いているんでなく、単に物を持ってくる気力がないだけであって、じつに殺風景な部屋である。蝉がりぃん、と鳴った。
ああ、やんぬるかな、やんぬるかな。養育費払ってるんだから、ムネのひとつでも揉ませてくれよ、もう。
そんなことを考えつつ、スーパーカップをすすりながら僕の夜は更けていったのであった。


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