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見つからない、離れない 7

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 その後、また羽虫のように細かい質問が再会された。
ようやく小野刑事が弾切れし、開放されるかと思えば、最後に何故か小野刑事の携帯の電話番号を教えられてしまった。
踏んだり蹴ったりである。
呼び出されてから一時間ほど小野刑事と向き合っていたと流子には思えたが、実際はもっと短時間だった事が、自身のつけている腕時計によって証明された。
優奈の部屋に戻る事にする。

 303号室の前に着く。チャイムを鳴らそうかどうか迷ったが、結局鳴らさずにドアを開けた。
優奈は、壁際に横たわっている。どうやら眠っているようだ。
この光景に、流子はちょっとした既視感を覚える。
似ている。
302号室で見たあの光景に。
優奈の隣に自分が横になれば、更に似るだろう、と流子は考えた。
考えたところでどうなる訳でもないが、考えた。
人間の考える事の99%は、考えてもどうにもならないことなのだからしょうがない。

 今優奈がここに居るということは、優奈の話を聞くのは小野刑事だと決まっているのだろうか。
それか、優奈はもう他の刑事から話を聞かれた後なのかもしれない。
いずれにせよ、今はそっとしておく事にする。
黙って帰るのも忍びないので、流子は優奈が起きるまで、勝手に部屋の本を読んで時間をつぶす事にした。

 流子は、本を読むのに80%ほどの集中力を使う事にする。
20%余ったので、小野刑事の言った冗談に付き合ってみることにする。

 鍵のかかった部屋、二つの死体。
物理的な事など、問題のうちに入らない。
問題は、そんな状況を作り出した人物の脳みそだ。

 その人物は、警察に捕まるという事が恐くはないのだろうか。
もし警察に捕まるのが少しでも恐ろしければ、死体をアパートの一室になんて放置するはずがない。
激しく腐敗した身元不明の死体、他の場所で手首を切断したと思われる302号室の元住人の死体。
いずれも、わざわざこのアパートの302号室に運び入れたと考えるのが自然だ。
その部屋で死体を見つけて欲しかったのだろうか?
しかし、それでは結果的に発見を遅らせたテープが何のつもりなのかわからなくなる。
気でも狂った人間の仕業だろうか?
今のところはそうとしか考えられない。しかし・・・

 ポーン、という電子音。この部屋のチャイム音だ。
優奈が目を開ける。

「警察だと思う」
流子は言う。

「・・・うん、行ってくるね」
優奈はゆっくりと立ち上がる。
「それでさ、ひとつだけ、我侭聞いて貰ってもいい?」
「そこで我侭を言われると、距離的に私は聞かざるを得ないね」
流子は何となく意地悪をしたくなって言った。

「私が警察と話して戻ってくるまで、待ってて欲しい」
流子は腕時計を見る。五時五十二分。
あと一時間待たされたとしても、特に問題はない。
「もし嫌だったら、帰っちゃっていいから」
そう言って優奈は控えめな笑顔を作る。
流子の返事を聞く前にドアを開けてしまった。

 まあいい。
この部屋で読もうが、自宅で読もうが、本の面白さは同じだ。
どれくらい同じかと言うと、人間の脳みそと猿の脳みそくらい、同じだ。


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