第2話
そのまた背景の裏を見れば、ゼロのカンヴァスばかりだ?
-第2話-
釘宮病ってなんだ?そんなもん聞いたこともない。
「おい、どういうことだよ?ちゃんと説明しろ」
僕はドア越しに叫んだ。
「…もう…手遅れなんだよ…頼むから帰ってくれ…腸(ひろし)わかってくれ」
力無い返答、この衰弱の原因が釘宮病だというのか。
「とにかく、説明しろ」
何でもいい、海樹王の苦しみを分かりたい。
「………た…の……ム…………かヱ……れ……」
本当にもう、元の海樹王には戻れないのだろうか。
「また、近いうちに来るよ」
返答は無かった。
僕はそのまま帰路についた。
自室のベッドに横たわり、海樹王のことを考えた。
「あいつが笑ってない日なんてあったかな?」
心身共に魁傑で、心の優しい男だった。
走馬灯のように脳裏を駆け巡る海樹王との日々の中、僕はいつの間にか眠っていた。
次の朝、海樹王は学校に姿を現さなかった。
昨日の出来事のせいだろう、誰もが海樹王の欠席に安堵しているように感じた。
もしも海樹王が正気を取り戻したとき、ここにあいつの居場所はあるのだろうか。僕だけじゃ物足りないだろう、海樹王には。
ふっとそんなことを考えていた昼休みのことだった。何やら気味の悪い話声が聞こえてきた。
「かがみんのおしっこは3年連続最高金賞受賞」
「マッガーレで抜いた」
「初音ミクに"こまわりMAN-BO"歌わせてみた 」
意味がわからん。ヤンキーグループだ。関わりたくもない。
中の一人、毛髪と眉毛と歯と小指が無い上に、豹柄のカッチューシャを装備しているDQNが、血のように赤いウエストポーチからDVDを取り出した。
「これ返すね。おもしろかったよ。どうもありがとう」
そう言って、ろくブルの勝嗣に激似な男にDVDを差し出した。
一瞬のことだった。僕の五感が、そのDVDのジャケットを捉えた。
一人の少女が描かれていた。
ラクス・クライン……ではなかったが、ピンクブロンドの長く、そして艶やかな毛髪。
幼さの中に気高しさを宿した、この世の物とは思えない美しい顔立ち。どこか良家の御息女に違いない。
丈の短いスカートと、オーバーニーソックスの間に見事な絶対領域は、もはや柚木ティナを超えた「美の境地」と言うべきものであろう。
羽織っている黒いマントがまた、彼女を彩る全てを際立たせる。
たった10秒のことだったが、世界が止まった。
僕は恋に落ちた。