耳をすませば(躁)
アタシは、あるバイク販売店の事務でアルバイトをしていたの。
まぁ、なんでそんなバイトを選んだのかって言うと、コレがまた不純な動機なんだけど、ある店員に一目惚れしちゃったのよね。
そんなに興味のないバイクの事を必死で勉強して、中免取って、なんとか採用してもらえることになったの。
それから、その人と一緒に働けるようになったんだけど、一緒に働いているうちに、ますます好きになっちゃたんだ。
え?どういうところがって?
いや、恥ずかしいから止めてよそういうの。
あぁ、もう分かったわよ。
なんていうか、とっても真っ直ぐな性格してるんだよね。
もちろん、ミスをして怒られるときとかもあったけど、その裏で何も言わずフォローしてくれてたのもその人だった。
優しかったし、好きなバイクの話なんかをしてる時は子供みたいに目をキラキラさせちゃってさ。
まぁ、でもそんなホイホイ上手く行くはずもなくって、その人にはとっくに彼女いたんだよね。
そう聞いたときは、相当がっくり来たけど、まぁ当然かなって思った。
でまぁ、今更バイト変えるわけにもいかないから、しばらくだらだらとそこのバイト続けてたんだよね。
そんなこんなで、半年くらいたったときかな?
お姉ちゃんが事故に巻き込まれたんだ。
あ、この話はちょっと関係ないように思えるんだけど、後でちゃんと繋がるから。
お姉ちゃんとは、両親が離婚してからもよく会ってたんだけど、その事故の時もそうやって会ってる時だった。
そうして、お姉ちゃんは植物状態になっちゃったの。
何度かお見舞いに行ったけど、お母さんに―――あ、アタシお父さんに引き取られたのね。
それで、お姉ちゃんとは会ってたけど、母親には会いに行かなかったから、なんだか会うのが気まずいから、あんまりお見舞いに行かなくなったの。
まぁ、身内が植物状態になったって言っても、結局日常はちゃんとこなさないといけないわけで、バイトにも復帰したんだよね。
それで、バイト先に行ってみると、なんだか『彼』の雰囲気が変わってたんだよね。
なんとなく、沈んでるし、話をしてても上の空みたいだし。
同僚の人に聞いてみたら、彼女と会えなくなったんだって聞いたの。
で、まぁ「チャンスだっ!」てつもりじゃなかったんだけど、励ましてあげなきゃって思って、食事に誘ったり、一緒に遊んだりするようになったの。
そうしていくうちに、だんだんと『彼』も元気になってきたんだ。
でもね、気付くとアタシ『彼』の家に寝泊りすることが多くなってたの。
あ、勘違いしないでね?寝たりはしてないから。
それで、一週間ぐらい居座ってた時があって、一度自分の部屋に帰ろうとしたら。
「あの、さ。なんかユウに居なくなられると寂しいんだよね。もう少し居ない?」
って。
正直嬉しかった。
だから、結局アタシ居座っちゃったんだよね。
それで、そういう風になってから半年くらいしてからかな。
やっと『彼』の彼女について話してくれたんだよね。
なんでも、事故に遭って植物状態になっちゃったんだとか。
アタシも馬鹿だよね、もっと早く気付けたかもしれなかった。
仕方ない?うん、そうね、ここまでは仕方なかったかもしれない。
アタシが馬鹿だっていいたいのはね。
この時点でもアタシは気付かなかったからなの。ううん、気付こうとしなかった。
それでも、彼は植物状態になった彼女のことを見捨てることが出来ないんだって。
やっぱり、いい人なんだな、って思った。
アタシも、そんなに想われてる人から、こんなにいい人を奪う気にはなれなかった。
でもね、さっきから、そんな気はなかったとか、気付こうとしなかったなんて言ってるのは全部言い訳なんだ。
アタシはきっと、植物人間になった彼女は意識を取り戻さない。
彼も、きっといつかは諦める。
だから
「気にしないでいいんだよ。アタシはそんなつもりでここにいるわけじゃないんだから」
とか言って、居座り続けたんだと思う。
まぁ、なんでそんなバイトを選んだのかって言うと、コレがまた不純な動機なんだけど、ある店員に一目惚れしちゃったのよね。
そんなに興味のないバイクの事を必死で勉強して、中免取って、なんとか採用してもらえることになったの。
それから、その人と一緒に働けるようになったんだけど、一緒に働いているうちに、ますます好きになっちゃたんだ。
え?どういうところがって?
いや、恥ずかしいから止めてよそういうの。
あぁ、もう分かったわよ。
なんていうか、とっても真っ直ぐな性格してるんだよね。
もちろん、ミスをして怒られるときとかもあったけど、その裏で何も言わずフォローしてくれてたのもその人だった。
優しかったし、好きなバイクの話なんかをしてる時は子供みたいに目をキラキラさせちゃってさ。
まぁ、でもそんなホイホイ上手く行くはずもなくって、その人にはとっくに彼女いたんだよね。
そう聞いたときは、相当がっくり来たけど、まぁ当然かなって思った。
でまぁ、今更バイト変えるわけにもいかないから、しばらくだらだらとそこのバイト続けてたんだよね。
そんなこんなで、半年くらいたったときかな?
お姉ちゃんが事故に巻き込まれたんだ。
あ、この話はちょっと関係ないように思えるんだけど、後でちゃんと繋がるから。
お姉ちゃんとは、両親が離婚してからもよく会ってたんだけど、その事故の時もそうやって会ってる時だった。
そうして、お姉ちゃんは植物状態になっちゃったの。
何度かお見舞いに行ったけど、お母さんに―――あ、アタシお父さんに引き取られたのね。
それで、お姉ちゃんとは会ってたけど、母親には会いに行かなかったから、なんだか会うのが気まずいから、あんまりお見舞いに行かなくなったの。
まぁ、身内が植物状態になったって言っても、結局日常はちゃんとこなさないといけないわけで、バイトにも復帰したんだよね。
それで、バイト先に行ってみると、なんだか『彼』の雰囲気が変わってたんだよね。
なんとなく、沈んでるし、話をしてても上の空みたいだし。
同僚の人に聞いてみたら、彼女と会えなくなったんだって聞いたの。
で、まぁ「チャンスだっ!」てつもりじゃなかったんだけど、励ましてあげなきゃって思って、食事に誘ったり、一緒に遊んだりするようになったの。
そうしていくうちに、だんだんと『彼』も元気になってきたんだ。
でもね、気付くとアタシ『彼』の家に寝泊りすることが多くなってたの。
あ、勘違いしないでね?寝たりはしてないから。
それで、一週間ぐらい居座ってた時があって、一度自分の部屋に帰ろうとしたら。
「あの、さ。なんかユウに居なくなられると寂しいんだよね。もう少し居ない?」
って。
正直嬉しかった。
だから、結局アタシ居座っちゃったんだよね。
それで、そういう風になってから半年くらいしてからかな。
やっと『彼』の彼女について話してくれたんだよね。
なんでも、事故に遭って植物状態になっちゃったんだとか。
アタシも馬鹿だよね、もっと早く気付けたかもしれなかった。
仕方ない?うん、そうね、ここまでは仕方なかったかもしれない。
アタシが馬鹿だっていいたいのはね。
この時点でもアタシは気付かなかったからなの。ううん、気付こうとしなかった。
それでも、彼は植物状態になった彼女のことを見捨てることが出来ないんだって。
やっぱり、いい人なんだな、って思った。
アタシも、そんなに想われてる人から、こんなにいい人を奪う気にはなれなかった。
でもね、さっきから、そんな気はなかったとか、気付こうとしなかったなんて言ってるのは全部言い訳なんだ。
アタシはきっと、植物人間になった彼女は意識を取り戻さない。
彼も、きっといつかは諦める。
だから
「気にしないでいいんだよ。アタシはそんなつもりでここにいるわけじゃないんだから」
とか言って、居座り続けたんだと思う。
-----------------------------
そんなある日―――そうね、大体アタシ達がそういう関係になって丁度『一年』くらいかしら。
アタシが願っていた日が、ようやく訪れたの。
彼からの告白。
「植物状態になってしまった彼女には、俺はもう何もしてやれない」
そう前置きをして、彼はこう言ったの。
「でも、落ち込んでいた俺を励ましてくれた君には、きっと何かしてあげられると思うんだ」
そういって、ちゃんと付き合おう、そう言ってくれた。
アタシは嬉しかった。
それで、その日初めて、彼と寝たの。
一年間ガマンしたわ。
やっとアタシの願いが叶ったって思ったの。
それで、アタシ達はちゃんと一緒に住むことにしたの。
アタシが住んでいた部屋は狭いから、引き払って彼の部屋に荷物を運んだわ。
全ての荷物が運び終わって、手続きも終わった次の日。
アタシはバイトで、彼は休みだった。
その時、アタシの携帯に珍しい人から電話が入ったの。
母親からだった。
「お姉ちゃん、意識が戻ったのよ!」
アタシは、バイト先に断って急いで病院に向かったわ。
でも、その病院に向かう途中、不安で不安で仕方なかった。
何が不安なのか、その時は分からなかった。
でも、急に色々と疑問が沸いて来たの。
何でアタシは姉のお見舞いに行かなくなったのか。
何でアタシは、彼の彼女のお見舞いに行こうとしなかったのか。
何でアタシは、彼の彼女の名前すら聞こうとしなかったのだろう。
何で彼は、アタシと誰かをダブらせて見ることができたのか。
いや、姉の見舞いに行かない理由は
彼の彼女のお見舞いに行こうとしない理由は
彼の彼女の名前を聞いていたはずなのに、思い出せない理由は
アタシと をダブらせて見ていた理由は
全部、これから向かう先にあるということは分かっていた。
それでも、信じたくなかった。
だって、そんなのありえない。
どんな確率なんだろう、それが起こる確率というのは。
偶然だとしても、偶然じゃなかったとしても、そんなの酷すぎる。
だから、きっとありえない。
だから、信じられなかった。
病室の扉を開けたところに、彼が居ることなんてとっくに予想していたのに。
それで、アタシはその場から逃げ出した。
だって、姉はあの日こういったのだ。
「今ね、結婚を前提にお付き合いしている方がいるの」
一度は死んだも同然だった姉。
そして、奇跡的に再び生を取り戻した、その姉から、今度はアタシが別のものを奪い取る。
そんなことは出来なかった。
でも、彼を諦めることも出来なかった。
でも、帰る場所なんてなかった。
家は引き払ってしまったし。
実家の父は他界していて、頼れる身内はいない。
もう最悪だった。
おまけに、足だったバイクは動かなくなるしで―――
そんなある日―――そうね、大体アタシ達がそういう関係になって丁度『一年』くらいかしら。
アタシが願っていた日が、ようやく訪れたの。
彼からの告白。
「植物状態になってしまった彼女には、俺はもう何もしてやれない」
そう前置きをして、彼はこう言ったの。
「でも、落ち込んでいた俺を励ましてくれた君には、きっと何かしてあげられると思うんだ」
そういって、ちゃんと付き合おう、そう言ってくれた。
アタシは嬉しかった。
それで、その日初めて、彼と寝たの。
一年間ガマンしたわ。
やっとアタシの願いが叶ったって思ったの。
それで、アタシ達はちゃんと一緒に住むことにしたの。
アタシが住んでいた部屋は狭いから、引き払って彼の部屋に荷物を運んだわ。
全ての荷物が運び終わって、手続きも終わった次の日。
アタシはバイトで、彼は休みだった。
その時、アタシの携帯に珍しい人から電話が入ったの。
母親からだった。
「お姉ちゃん、意識が戻ったのよ!」
アタシは、バイト先に断って急いで病院に向かったわ。
でも、その病院に向かう途中、不安で不安で仕方なかった。
何が不安なのか、その時は分からなかった。
でも、急に色々と疑問が沸いて来たの。
何でアタシは姉のお見舞いに行かなくなったのか。
何でアタシは、彼の彼女のお見舞いに行こうとしなかったのか。
何でアタシは、彼の彼女の名前すら聞こうとしなかったのだろう。
何で彼は、アタシと誰かをダブらせて見ることができたのか。
いや、姉の見舞いに行かない理由は
彼の彼女のお見舞いに行こうとしない理由は
彼の彼女の名前を聞いていたはずなのに、思い出せない理由は
アタシと をダブらせて見ていた理由は
全部、これから向かう先にあるということは分かっていた。
それでも、信じたくなかった。
だって、そんなのありえない。
どんな確率なんだろう、それが起こる確率というのは。
偶然だとしても、偶然じゃなかったとしても、そんなの酷すぎる。
だから、きっとありえない。
だから、信じられなかった。
病室の扉を開けたところに、彼が居ることなんてとっくに予想していたのに。
それで、アタシはその場から逃げ出した。
だって、姉はあの日こういったのだ。
「今ね、結婚を前提にお付き合いしている方がいるの」
一度は死んだも同然だった姉。
そして、奇跡的に再び生を取り戻した、その姉から、今度はアタシが別のものを奪い取る。
そんなことは出来なかった。
でも、彼を諦めることも出来なかった。
でも、帰る場所なんてなかった。
家は引き払ってしまったし。
実家の父は他界していて、頼れる身内はいない。
もう最悪だった。
おまけに、足だったバイクは動かなくなるしで―――
-----------------------------
「んで―――りょっちの所に居るってわけなんだ」
「うん、まあそんな感じ」
適当を前提に云々は、話さないほうがいいんだろうな、りょっち的に。
「ずっと前から違和感はあったんだ。なんだか、アタシの方を見てるのに、彼女のことを重ねてるみたいな」
アタシは少し冷めた紅茶に口をつけた。
一気に喋ったせいで少し喉が渇いていた。
「そりゃ、重ねるわよね。姉妹なんだもん」
「その、彼は気付かなかったの?姉妹だって」
当然の疑問だ。
でもまぁ、そこにも運命の悪戯、というには大げさだが、ついてないことに原因がある。
「ほら、両親離婚したって言ったでしょ?アタシ達苗字違うんだ。茂それ知らなかったから―――あ、茂っていうのは、その、彼ね」
「うん」
「それで、今日はちゃんとお姉ちゃんと話そうと思って来たんだけど、間の悪いことに茂が居たのよね」
まぁ、仕事がないとき、仕事あがりには毎日来るって言ってたから、覚悟はしていたつもりだったんだけど。
結局、つもりなだけだった。
「初めて、本気で好きになった人だったんだ」
独り言のように、呟いた。
「初恋は実らない、なんて誰が言ったんだろうね。嫌になるわ」
最早、単なる愚痴だった。
愚痴の一つもこぼさなきゃアタシはアタシを維持できない、それほどに弱っていた。
しかし、そんな愚痴に智恵は律儀にこたえてくれた。
「多分、初恋は実らないんじゃなくて、実らないほうがいいからそんな風に言われるんじゃないかな」
実らない方がいい・・・・・・?
何を言い出すのかと思ったが、智恵はそのまま続けた。
「なんていうか、たちの悪いおたふく風邪みたいなもので、歳をとってからのほうがひどいっていうか・・・・・・
んー、恋をすること自体は悪いことじゃないし、むしろ楽しいことだと思うの。
付き合ってる時って言うのは、お互いのことを好きあってるのも間違いはないと思う。
でも『愛し合う』ってことはあんまり分かってないんじゃないかな?」
私もよくわかってないけど、なんて言った。
アタシがポカンとしているのを見て、智恵はあわてた様に付け加えた。
「いや、なんだかりょっちも似たような感じだったから。あ、私達前付き合ってたんだ」
知ってはいたが、とりあえず知らなかったということにして話を聞くことにした。
「私ね、相手の人が好きでいてくれるなら、私も好きでいられるんだ。
よっぽど変な人でもない限りね」
りょっちをよっぽど変な人ではないという智恵は、少し変わっているのかも知れない。
「りょっちは、私のどんなところが好きだったのかとか、もう覚えてないけど、本気で好きなったのは私が初めてだって言ってた」
初めて、本気で好きになった人。
確かに、アタシとりょっちの状況は似てるのかも知れない。
「そんな風に言ってもらえるのは嬉しかったし、りょっちとなら上手くやって行けるなって思ってたんだけど、やっぱりダメだった。
私のことを大事にしてくれてたけど、お互い頑固だから良く喧嘩もした。最後も喧嘩して別れたんだけど、最後は少し違ったかな。
なんていうか、りょっちは『相手にも自分と同じように愛して欲しい』みたいに思ってたんだと思うんだよね。
でも、むしろりょっちのほうがそれを上手く出来てなかったかな?」
アタシの返事などお構いなしに、智恵は話し続ける。
アタシはどうだっただろう?
例え貴方に彼女がいても、アタシは愛しています。
だから同じように愛せと、そう思ってはいなかっただろうか?
「りょっちは、少しくらい突き放しても自分のことが好きなら、戻ってきてくれる。そう思ってたみたい。
多分、不安だったのかな?私がりょっちのこと好きかどうかなんて誰にも分からないんだし。
でも、私は少しうんざりしてた、そうやって時々突き放されるのに。
だから、今度は私から少し突き放してみたの。
まぁ正直その突き放し方を安価で指定したのは良くなかったとは思うけど、案の定、りょっちは捨てられたと思って出てっちゃった」
「え・・・・・・安価?」
「今のは聞かなかったことにして。私、興奮するとなにやらかすか分からないんだ。でも、死ぬほど反省したし叩かれたから」
「え、あぁ、うん」
なんだか、智恵にとってもトラウマのようだった。
「その後、りょっちは戻ってきたけど、私は別れようって言った。
私の勝手な言い分だけど、このままずるずると付き合ったんじゃ、りょっちはダメになると思ったの。
距離を置いて、色々思い出して考えて、何がいけなかったのか、もっとどうすればよかったのか、そういうことを考えて次に繋げないと、だめなんじゃないかって。
それは多分、私と一緒にいたら出来ないから」
だから、多分、初恋って言うのは実らないのかな。と、智恵は言った。
「ごめんね。話聞くとか言って私が話しちゃって」
基本的には黙っていたので、急に自分に喋る機会がやってきてハッとなった。
アタシが黙っていたのは考えていたからだ。
今までずっと考えないようにしていたことを、智恵の話を聞いているうちに自然と考えていた。
「諦めろ、なんて言わないわ。でも、考えるっていうのはやっぱり大切だと思うの。
なんだか、自分にとって都合の良いように言い訳しているように聞こえるかもしれないけど」
まぁ、私基本駄目な女ですから。
そう笑う智恵の顔は、年齢よりも幼く見える。
それでも、なんだかアタシやりょっちなんかよりも、大人に見えた。
「ううん、なんだか落ち着いたわ。ありがとう智恵」
アタシがそう礼をいうと、智恵は「え?」と声を上げた。
「あ、うん。いや、むしろ『なにそれ?自分の都合を押し付けてるだけじゃん!』見たいに怒鳴ってもらってすっきりしてもらおうって魂胆だったんだけど」
素直に礼をいったが、やはりアタシはこの娘の思考が良く理解できなかった。
「でも、あれよね。なんかその茂とやらの恋愛感みたいなのって、逆に鬱になるわ」
その理解できない智恵は、急にそんなことをいった。
「う、鬱?」
「そう。なんか綺麗過ぎて、若干濁ってる私には逆に毒っぽいっていうか―――そう、例えるならジ○リのアレね、アレ」
「えーと、金曜ロードショーなんかで時々やる?」
「そうそう!あの話ってさー、ピュアすぎて逆に鬱になるわー。こちとらドロドロやねん。みたいな」
何故に関西弁、と突っ込みたくなったが。それよりもアタシはその感想になんとなく共感してしまったので、つい最近のクセでりょっちのパソコンから仕入れたネタを使ってしまった。
「あるあ・・・・・・あるあるあるある!」
「あるあるってwwwwうはwwwwユウちゃんktkrwwwww」
喰い付きすぎワロタ。とはもう言わないほうがいいと思ったので言わなかった。
その後、実は別にアタシがVI○PERではないということが分かり、ガッカリしていたが、少し某動画サイトなんかをりょっちに見せてもらっているといったら、激しく喰いついてきた。
なんだか、よくわからない娘だが智恵とは仲良くなれそうな気がした。
「んで―――りょっちの所に居るってわけなんだ」
「うん、まあそんな感じ」
適当を前提に云々は、話さないほうがいいんだろうな、りょっち的に。
「ずっと前から違和感はあったんだ。なんだか、アタシの方を見てるのに、彼女のことを重ねてるみたいな」
アタシは少し冷めた紅茶に口をつけた。
一気に喋ったせいで少し喉が渇いていた。
「そりゃ、重ねるわよね。姉妹なんだもん」
「その、彼は気付かなかったの?姉妹だって」
当然の疑問だ。
でもまぁ、そこにも運命の悪戯、というには大げさだが、ついてないことに原因がある。
「ほら、両親離婚したって言ったでしょ?アタシ達苗字違うんだ。茂それ知らなかったから―――あ、茂っていうのは、その、彼ね」
「うん」
「それで、今日はちゃんとお姉ちゃんと話そうと思って来たんだけど、間の悪いことに茂が居たのよね」
まぁ、仕事がないとき、仕事あがりには毎日来るって言ってたから、覚悟はしていたつもりだったんだけど。
結局、つもりなだけだった。
「初めて、本気で好きになった人だったんだ」
独り言のように、呟いた。
「初恋は実らない、なんて誰が言ったんだろうね。嫌になるわ」
最早、単なる愚痴だった。
愚痴の一つもこぼさなきゃアタシはアタシを維持できない、それほどに弱っていた。
しかし、そんな愚痴に智恵は律儀にこたえてくれた。
「多分、初恋は実らないんじゃなくて、実らないほうがいいからそんな風に言われるんじゃないかな」
実らない方がいい・・・・・・?
何を言い出すのかと思ったが、智恵はそのまま続けた。
「なんていうか、たちの悪いおたふく風邪みたいなもので、歳をとってからのほうがひどいっていうか・・・・・・
んー、恋をすること自体は悪いことじゃないし、むしろ楽しいことだと思うの。
付き合ってる時って言うのは、お互いのことを好きあってるのも間違いはないと思う。
でも『愛し合う』ってことはあんまり分かってないんじゃないかな?」
私もよくわかってないけど、なんて言った。
アタシがポカンとしているのを見て、智恵はあわてた様に付け加えた。
「いや、なんだかりょっちも似たような感じだったから。あ、私達前付き合ってたんだ」
知ってはいたが、とりあえず知らなかったということにして話を聞くことにした。
「私ね、相手の人が好きでいてくれるなら、私も好きでいられるんだ。
よっぽど変な人でもない限りね」
りょっちをよっぽど変な人ではないという智恵は、少し変わっているのかも知れない。
「りょっちは、私のどんなところが好きだったのかとか、もう覚えてないけど、本気で好きなったのは私が初めてだって言ってた」
初めて、本気で好きになった人。
確かに、アタシとりょっちの状況は似てるのかも知れない。
「そんな風に言ってもらえるのは嬉しかったし、りょっちとなら上手くやって行けるなって思ってたんだけど、やっぱりダメだった。
私のことを大事にしてくれてたけど、お互い頑固だから良く喧嘩もした。最後も喧嘩して別れたんだけど、最後は少し違ったかな。
なんていうか、りょっちは『相手にも自分と同じように愛して欲しい』みたいに思ってたんだと思うんだよね。
でも、むしろりょっちのほうがそれを上手く出来てなかったかな?」
アタシの返事などお構いなしに、智恵は話し続ける。
アタシはどうだっただろう?
例え貴方に彼女がいても、アタシは愛しています。
だから同じように愛せと、そう思ってはいなかっただろうか?
「りょっちは、少しくらい突き放しても自分のことが好きなら、戻ってきてくれる。そう思ってたみたい。
多分、不安だったのかな?私がりょっちのこと好きかどうかなんて誰にも分からないんだし。
でも、私は少しうんざりしてた、そうやって時々突き放されるのに。
だから、今度は私から少し突き放してみたの。
まぁ正直その突き放し方を安価で指定したのは良くなかったとは思うけど、案の定、りょっちは捨てられたと思って出てっちゃった」
「え・・・・・・安価?」
「今のは聞かなかったことにして。私、興奮するとなにやらかすか分からないんだ。でも、死ぬほど反省したし叩かれたから」
「え、あぁ、うん」
なんだか、智恵にとってもトラウマのようだった。
「その後、りょっちは戻ってきたけど、私は別れようって言った。
私の勝手な言い分だけど、このままずるずると付き合ったんじゃ、りょっちはダメになると思ったの。
距離を置いて、色々思い出して考えて、何がいけなかったのか、もっとどうすればよかったのか、そういうことを考えて次に繋げないと、だめなんじゃないかって。
それは多分、私と一緒にいたら出来ないから」
だから、多分、初恋って言うのは実らないのかな。と、智恵は言った。
「ごめんね。話聞くとか言って私が話しちゃって」
基本的には黙っていたので、急に自分に喋る機会がやってきてハッとなった。
アタシが黙っていたのは考えていたからだ。
今までずっと考えないようにしていたことを、智恵の話を聞いているうちに自然と考えていた。
「諦めろ、なんて言わないわ。でも、考えるっていうのはやっぱり大切だと思うの。
なんだか、自分にとって都合の良いように言い訳しているように聞こえるかもしれないけど」
まぁ、私基本駄目な女ですから。
そう笑う智恵の顔は、年齢よりも幼く見える。
それでも、なんだかアタシやりょっちなんかよりも、大人に見えた。
「ううん、なんだか落ち着いたわ。ありがとう智恵」
アタシがそう礼をいうと、智恵は「え?」と声を上げた。
「あ、うん。いや、むしろ『なにそれ?自分の都合を押し付けてるだけじゃん!』見たいに怒鳴ってもらってすっきりしてもらおうって魂胆だったんだけど」
素直に礼をいったが、やはりアタシはこの娘の思考が良く理解できなかった。
「でも、あれよね。なんかその茂とやらの恋愛感みたいなのって、逆に鬱になるわ」
その理解できない智恵は、急にそんなことをいった。
「う、鬱?」
「そう。なんか綺麗過ぎて、若干濁ってる私には逆に毒っぽいっていうか―――そう、例えるならジ○リのアレね、アレ」
「えーと、金曜ロードショーなんかで時々やる?」
「そうそう!あの話ってさー、ピュアすぎて逆に鬱になるわー。こちとらドロドロやねん。みたいな」
何故に関西弁、と突っ込みたくなったが。それよりもアタシはその感想になんとなく共感してしまったので、つい最近のクセでりょっちのパソコンから仕入れたネタを使ってしまった。
「あるあ・・・・・・あるあるあるある!」
「あるあるってwwwwうはwwwwユウちゃんktkrwwwww」
喰い付きすぎワロタ。とはもう言わないほうがいいと思ったので言わなかった。
その後、実は別にアタシがVI○PERではないということが分かり、ガッカリしていたが、少し某動画サイトなんかをりょっちに見せてもらっているといったら、激しく喰いついてきた。
なんだか、よくわからない娘だが智恵とは仲良くなれそうな気がした。