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決意

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 何があったのか、正直俺には何も分からなかった。
 寿司屋以来、ユウが自分のことについて話すことはなかったし、俺も聞かなかった。
 しかし、寿司屋で聞いた限りでも、ユウは色々と辛いみたいだった。
 それに、俺の愚痴は何度も聞いてもらっている。
 だったら、何があったか知らないが、黙って慰めてやるくらいはしてやりたかった。
 一度大声で泣いて、その後もずっと嗚咽を漏らしていたが、ようやくユウは静かになった。
「もう大丈夫か?」
「・・・・・・」
 返事はない。もう少しそっとしておいたほうがいいのか?
 と思ったら。
「すぅー・・・・・・」
 泣きつかれたのか、眠っていた。
「やれやれ・・・・・・」
 そんなに腕力には自信のあるほうではないが、ユウは見た目からして軽そうである。
 なんとか俺にも持ち上げられそうだ。
「よっ・・・こらせっくす!」
 よっ・・・・・・と言って持ち上がらなかったので、もう一気合い入れて持ち上げる。
 俗に言うお姫様だっこの形で。
 フラフラしながら、ベッドに起こさないようにゆっくりと下ろす。
「と・・・・・・とと」
 倒れこみそうになるのを必死で堪える。
 ユウを無事ベッドに下ろし終えると、俺は一度外へでて煙草を吸いに行く。
 チン!
 と小気味良い音を立ててジッポのフタを開ける。
 俺はジッポのフタを開ける時は、右手で握りこみ、薬指でフタを弾き、そのまま戻す指で火をつける。
 俺が唯一出来るジッポテク。大地なんかはもっと複雑でかっこいいのを出来るらしいが、俺はこの少しシンプルなやり方がお気に入りだ。
 そういえば、こうやってジッポを開けて見せた時、ユウは目を見開いて
「何?今のどうやったの?」
 とかいって、煙草に興味はないくせに、ジッポテクにだけやたら興味を示したんだったか。
 他のジッポテクは、お気に入りのもののようにスムーズには出来ないが、ある程度できるため、いくつか披露してみせた。
 いつもは馬鹿にしたような目で見るくせに、その時だけ尊敬の眼差しで教えてくれとせがんでたっけ。
 確か、いらない安物のジッポをあげていくつか教えてあげたが、アレから練習しているのだろうか?
 肺に溜まった紫煙を吹き出す。
 一週間くらい経っただろうか?
 それでも俺はユウのことを良く知らない。
 どんなものに興味を持つのか。
 何が好きで、何が嫌いなのか。
 可愛いものが好きなのか。
 唯一分かることといえば、飯を食ってる時は幸せそうだというくらい。
 さっきも、何で泣き出したのか、知らない。
 俺は、知りたいのだろうか?
 だとすれば、何で?
 俺はやっぱり未だに智恵のことが好きだ。
 しかし、達也がいようがいまいが、今元の関係に戻るべきなのかと考えると、否だ。
 別れてから色々考えたが、俺は色々と知らな過ぎた。
 女の子と付き合うということ。
 彼女として、どう接するべきなのか。
 喧嘩ばっかりしていたが、なんで喧嘩ばかりだったのか。
 愛し方は独りよがりじゃなかったか?
 そもそも、愛するってことを履き違えていなかったか?
 それらの疑問に、未だに答えは出ていない。
 一人で考えて出てくるものなのかも分からない。
 少なくとも、あれから俺は前進しているようには思えない。
 止まったままだ。
 このままじゃいけないのは分かってるけど、どっちにいけばいいのか分からない。
 ユウも、そうなのかもしれない。
 目指していたゴールが、見当違いのものだと気付いて、どこに行けばいいのか分からず、立ち止まってしまった。
 俺達は、たまたまその立ち止まった地点が近かったから、こうしてもたれかかっているのだろう。
 偽りのゴールと分かっていながら、そのゴールが見える場所から動こうとしない。
 これでいいのだろうか?
「・・・・・・あつっ!」
 ボーっとしていたら、既に煙草は燃え尽きていて、灰が手の甲に落ちていた。
「戻るか‥・‥・」
 春とはいえ、夜中になれば冷える。
 俺は、部屋へと戻った。

 ユウは相変わらず、小さな寝息を立てて眠っている。
 だが悪い夢でも見ているのか、時折唸るような声を上げる。
(こいつも、悩んでるんだな‥・‥・)
 そう思うと、なんだかよく分からない感情が胸に浮かび上がってきた。
 智恵に対するような、恋焦がれる気持ちではない。
(なんだコレ?お兄ちゃんとか、お父さん的な感情ってやつか?)
「うーん・・・・・・」
 よく分からないが、苦しそうなユウを見ていると、へんな衝動が沸いてくる。
 その衝動に駆られるまま、俺はまたユウの頭を撫でてやった。
「ん・・・・・・」
 頭を撫でてやると、安心したのか、唸るような声は出さなくなった。
(俺も寝るか‥・‥・)
 まだそんな時間でもなかったが、ユウが寝ていては何も出来ない。
 立ち上がろうとして

 ユウが俺の手を握っていることに気付いた。
(・・・・・・動けんよ)
 かといって、手を振り払うような真似をするのも、ためらわれた。
 少し悩んだが、とりあえず足を駆使して、寝袋を引き寄せる。
 引き寄せた寝袋のジッパーを全開にし、掛け布団のようにして包まった。
(仕方あるめぇ)
 俺は、ベッドに頭を預け、この不自然な体制で寝ることにした。
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「・・・・・・朝か」
 変な体勢で寝ていたためか、なんか間接が痛い。
 起き上がろうとして、未だにユウが手を離していないことに気付く。
 流石に大学に行かなければならないので、指を解こうと手をかけると
「うー・・・・・・うー」
 と唸る。
 なんかちょっと可愛い。
 とかいってる場合じゃない。
 このまま眺めていたら遅刻してしまう。
 どうしたものかと、手をかけたままでいると
「やだ・・・・・・行かないで・・・・・・お姉ちゃんと、アタシは違うんだよ‥・‥・?」
 ・・・・・・寝言だろうか。
 ユウは親の離婚のことを何でもないことのように言っているが、実は結構それで傷ついていたんじゃないのか?
 それに加えて『彼氏はアタシのことを見ていなかった』なんて言ってたっけ?
 そういう経験が重なって、余計に辛いんじゃないだろうか。
(まぁ、今更出席がどうこう言ってもな)
 結構な回数既に休んでるし、手遅れだろう。
 そういうことにしておこう。
 俺も眠い。二度寝は気持ちい良い。
 だから、別に手を解かない言い訳とかじゃなくて、俺はそのまま目を閉じた。

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「・・・・・・あれ」
 いつの間にアタシは寝ていたんだろう。
 昨日は色々あった気がする。
 お姉ちゃんと、茂と智恵に会って、色々話をして。
 帰ってきてから、りょっちに色々聞いて。
 それで・・・・・・
(あー、アタシ泣き出しちゃったんだっけ)
 少し恥ずかしいような気もするが、そういうところを蒸し返すほどりょっちはデリカシーがない男じゃ‥・‥・
(いや、デリカシーないな。泣くんじゃなかった)
 チクショウ、少し無防備すぎたぜ。
 しかし、そう後悔しても仕方ない。
 とりあえず今はお腹すいた。
 そういえば、昨日お昼にケーキを食べてから何も食べていない。
 りょっちは何か朝ごはん作っていってくれたのだろうか?
 そう思って起きようとして―――
 何故かりょっちの手を握っていることに気付いた。
 というか、この男いったいなんという姿勢で寝ているんだ。
 アタシが体を起こすと、りょっちもそれに気付いたのか、顔を上げた。
 そういえば、いつもりょっちのほうが先に起きるから、寝起きを見るのは初めてかもしれない。
「・・・・・・んあ?」
 なんとも間の抜けた第一声だった。
「おはよう」
 とりあえず、手を握ったままだったが、声を掛けてみた。
「・・・・・・おは、よう」
 なんだか、いつも自分が自分がというタイプのクセに、なんだかボケーっとしている。
 実は朝弱いのだろうか?
「りょっち、手」
 そういうと、りょっちは自分の右手を見た。
 そして、何故か左手も重ねると、再び顔を突っ伏して寝始めた。
 意味分からん。
 と思ったら、今度は急にガバッと起き上がった。
 既に手は離していた。
「今何時だ!?」
「えーと、10時だね」
「・・・・・・お手を拝借」
 と、言われたのでりょっちと同じように、両手を顔の前で‥・‥・なんと言うか、気を練る時のようなポーズをとった。
 すると、りょっちはバッと勢いよく両手を上に上げてVの字にして叫んだ。
「オワタ!」
 どうやら、遅刻確定らしい。
 イチイチ元気の良い男だ。
「ナンテコッタイ。ただでさえ出席ヤバかった授業なだけに、完全にオワタな」
「まぁ、あれだ、ドンマイ」
 よくわからないが、とりあえずそう言っておくことにした。
「ところで、なんでりょっちはそんな姿勢で寝てるの?」
 泣いた後の記憶がないので、とりあえず聞いてみることにした。
 そいつはだな、とか言って説明してくれるのかと思ったら、なんか悩みだした。
「どしたの?」
「いや、んーとだな。紳士たるもの、いついかなる時もどんな姿勢でも寝れなきゃいけないから、その特訓をしてたんだよ、うん」
 よく分からない答えが返ってきた。
 まぁ、どうでもいいか。
 りょっちが奇行に走るのは今に始まったことでもないし。
「とりあえず、今からいってもしゃーないしな、朝飯作るか!」
「待ってました!」
 とりあえず、ご飯を作ってくれれば、それでいいのだ。
37, 36

  

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「お、社長出勤とは、りょっちこの授業の単位諦めたの?」
 遅れて講義室に入って席に着いたところで、友人にいじられた。
「まだ諦めてないから、こうして来たんじゃないか。最終兵器大地様にお願いしてデータ改ざんしてもらう算段だ」
「こらこら、誰もそんなこと出来るなんていった覚えないぞ」
 俺の計画を友人に説明したところで、後ろから大地にたしなめられた。
「そこを何とかしてくれちゃうのが、大地先生」
「そんな風におだてたって、やらないよ。なんで俺だけがリスキーなことしなきゃいけないんだよ」
 最もである。
 しかし、俺には大地に報酬として何かを献上できるほど裕福じゃないし、そもそも何が欲しいのかよくわからん。
 つまり
「完全に、オワタ」
「乙」

 授業が終わり、同じ講義を取っていた友人達と、いつもの喫煙所に向かう。
 各々が煙草を取り出し、火をつけながら喫煙所に向かった。
 しかし、なんだか、到着した喫煙所の空気は重かった。
「・・・・・・何?この空気?」
 こういうことを言うから、KYと言われるんだろう。
 でもイチイチ察しろという方が無理な話で、こういう重い空気は止めて欲しい。
「ワタルと、達也の件だよ」
 横からそっと教えてくれたのは、ワタルと仲がいい友人の太郎だった。
 そういえば、二人の容態がはっきりしないから、とりあえず伏せておいたが、智恵が喋ったのだろうか?
 ってことは、達也の容態も分かったのか?
 で―――もしかして、達也の容態がハンパなくやばいとか、そういう話?
 それは、俺としては何と言っていいかさっぱり分からない。
「達也は、足と背骨の骨折だって。後遺症は残らないって。ワタルは?」
 足と背骨、事故った時の様子から大体わかっていたが、後遺症が残らないというのは不幸中の幸いだろう。
 まぁ、本人からすれば不幸に変わりはないのだろうけど、大怪我をしたことがないので正直よくわからなかった。
「あー、なんか本人のテンションは元気だったけど、顔と足。ちょこちょこ後遺症も残るみたい」
『目が下のほう向かないのは、前傾姿勢になるようなライポジのバイク乗り換えれば問題ない』
『小指が火傷で動かないらしいけど、ブレーキ踏めるからいいや』
 とか、あと肺を痛めているのに煙草吸ってることとかは、空気を読んで伏せておいた。
 いや、多分気を遣わせまいと強がって言っているのだろう。
 そう思っておこう。
「ちょっとりょっち―――」
 そういって、俺の袖を引っ張ってちょっと離れたところにつれてきたのはたろやんだった。
 余談だが、たろやんは別に本名が太郎だからたろやんという渾名というわけではない。
 でも何故かたろやんと呼ばれる、そんなたろやん。
「・・・の・・・んだって。りょっち聞いてる?」
「あ、ごめん聞いてなかった。」
 がっくりとうなだれるたろやん。
 すまん、悪気はないんだ。
「あのね、なんか達也の様子がおかしいんだって。
 怪我自体は時間がかかるけど、後遺症も残らないみたいだから一安心なんだけど‥・‥・その、心の方が問題みたい」
 心‥・‥・と来ましたか。
「ほら、達也と智恵って‥・‥・その付き合い始めてそこまで経ってないじゃない?だから、なんか離れると不安らしいんだ。その、えーと」
 どうやら、俺には言いにくいことらしい。
 それでも、他の人に言わせず、自ら進んで俺に言ってくる辺り、たろやんは生粋のお人よしである。
「よくわからんけど、気にしなくていーよ。多分平気だから」
「わかった。ホラ、りょっちって智恵のモトカレでしょ?だから、簡単に言うと達也はりょっちが智恵の近くにいるだけで嫌らしいのね」
 そんなもの、わざわざ言わなければわからなそうなものだけど、そういうもんなんだろうか?
 そもそも、学校以外で智恵と接触なんかしてないぞ?
 そんな俺の疑問を見越してか、たろやんは続けた。
「なんかね、携帯で今どこにいて、何をしているか逐一報告しなきゃいけないんだって・・・・・・写メもつけて」
「・・・・・・は?」
 一瞬理解できなかった。
 え?達也ってそんなキャラだったけ?
 という疑問が浮かんだが、なんか問題はそこではない気がする。
「それで、りょっちがバイト行ってる時に智恵が事故の件相談しに部屋にいったらしいんだけど、その報告してから更に大変なことになっちゃったらしくて」
 既に大変な気がするが、更に大変になるのだろうか。
 しかも原因俺ですか。
「・・・・・・もうやだ!」
 混乱している俺の背後から、そんな嘆き声と共に、何かが俺の後頭部に直撃した。
「いってぇ!」
 振り返ってみると、どうやら俺の後頭部に直撃した物体は携帯電話らしく、投げたのは智恵らしかった。
 智恵はうつむいていたので、適当に投げたのだろう。そこに見事俺がいたと。どんだけー。
「おいおい・・・・・・精密機械なんだし、携帯だって高いんだから‥・‥・」
 そういって、携帯電話を拾おうとして、目に入った画面を見て凍りついた。

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From タツヤ
For トモエ
Title:おこらないで

きらいにならないでし
んぱいなだけなのだか
らおこらないでごめん
なさいごめんなさいご
めんなさいごめんなさ
いごめんなさいごめん
なさいごめんなさいご
めんなさいごめんなさ
いごめんなさいごめん
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 なんか、デジャヴー。
 あぁ、ユウが冗談でコレと似たようなメールを送ってきたっけ。
 えーっと、ひぐ○し?とかボケたら、多分袋叩きにされるんだろうな。
 若干ズレたことを考えながら、とりあえず携帯の画面を閉じる。
 しかし、俺にも身に覚えがあるから、馬鹿に出来ない。
 俺も振られた当初は、確かに気が狂ったような行動を取っていた気がする。
 馬鹿みたいに泣き喚いたり。
 何かを思い出しては泣いていた気がする。
 今思えば、随分と恥ずかしいが。
 けど、当時はそんなことよりも、傷ついた自分を守るので必死だったのだ。
 多分、タツヤもいま『自分』を守るので必死なのだ。
 こんなメールを送ったら、余計に相手を困らせる。そんなことにすら気付けなくなるほど、追い詰められているのだろう。

 俺の、せいで。

 と、そんな自分の思考に浸っていて気付かなかったが、どうやら智恵のほうもこんなメールばかりきて参っているらしく、今にも泣き出しそうな感じで皆に相談している。
 たしか、智恵は事故の日から、毎日タツヤのお見舞いに行っていたはずだ。
 バイトや講義の合間を縫い、毎日。
 そこにこのメール。
 健全でいられたら、逆に異常だろう。
「まったく、ブログなんかでもこんな調子だもんな、正直困るよな」
「ワタルが見たら、きついっしょ、コレ」
 などと、皆もタツヤに困っている智恵に同情するようなことを言って励ましている。
 が、少々マズイ気がする。
 智恵がテンパっている時は余計な事を言わないほうがいいのだ。相槌だけ打っていればいい。
 テンパると、あらゆる悪いことは、全て自分のせいだ、そう考えてしまいがちなのだ。
 携帯を戻すついでに、話をそらそうと戻ろうとして。
「何よ!皆して!私が少しお見舞いの回数減らすって言ったから、タツヤがこういうことするようになったっていいたいんでしょ!?わかったよ!バイトも大学も辞めて毎日お見舞いに行けばいいんでしょ!」
 間に合わなかった。
 智恵はそうやって叫ぶと、唖然とする皆の輪を抜けて駐輪場へ向かっていってしまった。
「ちょっと!」
 たろやんが智恵を追いかける。
 たろやんも苦労性だなぁ、なんて思いながら、たろやんを呼び止める。
「たろやん!これ!」
 智恵の携帯を投げる。
「多分、病院に行くんだと思う!達也の件は俺がどうにかするから。とりあえずそれアイツに渡しておいて!」
 そう、達也の件は俺がなんとかしなきゃいけないのだ。
 俺が原因なんだし。
 これが、丁度いい潮時だろう。
「皆はそんな気にしない方向で、達也ほら、ナイーブだから。ちょっとナーバスになってるんだよ」
 くるっと振り返り、いい加減な調子でそんなことを言う。
 多分、この達也の状態を皆はあまり理解できないだろう。
 しかし、俺はなんとなく理解できた。
 俺と達也は似てないし、趣味も、好きなものも嫌いなものも違う。
 しかし、唯一つの共通点がある。
 同じ女に惚れた。そして、アイツに出会うまで本気で惚れたことなんてなかった。
 だから、なんとなくいま達也がどんな気持ちでこんなことをしでかしちまったのか、なんとなく分かる。
 言葉にすれば簡単だが、その恐怖は尋常じゃない。
 智恵に限って―――達也に限って―――俺に限って、そんなことするはずない。
 そう頭では理解できても、恐怖がぬぐえない。
 だから、縛りたくなる。
 恥も外聞もなく、繋ぎとめたくなる。
 その気持ちはよくわかった。
 俺がそうだったから。
 行動にこそ移さなかったが、ずっと怖かった。
 自分ではない、違う誰かのところに行ってしまうことが。
 特に、達也は俺がまだ智恵のことを気にしていることがよくわかるのだろう。
 逆の立場の時もそうだった。
 俺が智恵と付き合っていた頃の、達也のそぶりで分かっていた。
 だとしたら、どうやったらその恐怖から達也を解放できるのか。
 手段は決まっていた。
 その手段をとることで、俺に残る一縷の望みは消え去る。
 しかし、そんな望みは一縷どころか、元々ありもしない幻想なのだ。
 ならば、そんな幻想など捨ててしまおう。
 その幻想のせいで、達也が、智恵が苦しむのなら。
『俺が好きでいれば、ひょっとしたらいつか智恵は帰ってきてくれるかもしれない』
 なんて、そんな幻想は捨ててしまうべきなのだ。
 俺は、携帯電話を取り出して、電話をかけた。
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鮭王 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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