トップに戻る

<< 前 次 >>

魚の煮付け

単ページ   最大化   

クラブを終えてドロドロの品々を洗濯機に入れ終えると、ぼくはお風呂に入った。
なんとなく入ったサッカー部は厳しいし、ぼくは皆と仲良くなれる様な奴じゃない。
先輩達からは厳しい目で見られてるし、同級生ともそれほど仲良くない。
なのになんでサッカー部なんかに入ってしまったのか………けど、
今辞めたりすると、なんだかその後が凄くやりにくい感じがする。
だから辞められないでいた。

「おかあさんおらんの?」
「まだ仕事」

夕食の準備をしているお婆ちゃんに何時もの様に聞いてみる。
もしかしたら、三階でボウッとテレビでも見ているかもしれないからだ。
まあ、居ても居なくてもが大して用事も何も無いけど………。
僕はシャツとパンツだけの格好で椅子に座ると、テレビのチャンネルを適当に回す。
するとお婆ちゃんがコチラをチラッと見たので、慌ててズボンを履いてみせた。
お婆ちゃんは、昔に比べて口うるさくなっていた。ぼくが大きくなったからだろうか?
お母さんに一度、あの人に似ていると言われた。そっちが原因かもしれない。
勇気を出して………いや、強がる様に、そんな事を聞いてみても、良いのかな。
けど、そんな話をすると、なんとも言えない雰囲気になるのは明らかだ。
そんな話は、たまにお酒臭く帰ってきた母親が、愚痴をこぼす様にぼくに言うぐらい。
やっぱり辞めとこうと思い、父親の話は伏せておいた。
「毎日毎日クラブで汚れて大変や」
「そう?でも、お風呂に入ったら」
「ちゃうちゃう、服の方や」
「………」

うるさいなあ、ご飯の時ぐらい、静かに食べれば良いのに。
そんな愚痴を心で呟きながら、食べ飽きた魚の煮付けと味噌汁をひたすら食べる。
お婆ちゃんは地味な感じの料理ばっかりを作る、昨日も確かひじきとかだった。
だから最近では、自分で頑張って料理を作る事が多かった。
それも酷い方法でだ。お婆ちゃんが作ってる料理を見て、嫌がる素振りを見せて、
無理のある屁理屈を並べてから、自分が食べたいものを勝手に作り出す。
その全てが嫌味たっぷりな感じで、自分でも嫌に思う時があったけど、
この頃のお婆ちゃんを見れば、誰だって理解してくれる筈だ。
口うるさく子供の心も考えずに、嫌味を混ぜながらでしか文句を言えない。
僕ならもっと、簡単に率直に問題点を指すだろう、わざわざ嫌味は言わないさ。
6, 5

  

「ごちそうさま」

僕は夕食を終えると、窓から外をゆっくりと眺めた。
雪はまだ降っていて、大阪でも珍しい積雪を記録しそうだった。

「この煮付け、お婆ちゃんが昨日作ったねんて」
「そうか」

僕が食べ終えた煮付けと味噌汁、久しぶりに食べると意外に美味しいかった。
お袋の味、みたいなもんなのかもしれない。しかし、この味を、僕はいつから嫌いになったんだろう。
思い出すと、この料理を食べていた頃の僕は、とても苦々しい態度だった様に思える。
申し訳ない様な気持ちと、どうし様もない様な気持ちが混ざり合い、
腹の奥で沸々と何度も沸点に達しかけているのが自分でも良く解った。

「明日、お墓行くんでしょ?もう今日は寝といたら?」
「うん、まあ、眠くなったら」
「じゃあ先寝とくね」
「お休み」

僕は妹が三階へ行くのを確認してから、鍋に残った汁を指で触れて舐めてみた。
それは凄く濃い、生姜と醤油の味が利いた、苦味のある、しかし美味しい味だった。
7

洋九 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る