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La memoria del caff&egrave;

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「吉井先輩、帰りません?」
「……西田さん?」
「ほら、もう外……暗いし」
 日はすっかり落ちて、窓の外には途方も無い夜が広がっていた。
 生徒会室には、私と西田さんしかいない。
 しかし、解せなかった。私に話しかけてくるなんて。
 この子は何が目的だ?

 今年もまた、中等部にも新しい生徒会役員が入った。
 白川女學館中等部の生徒会は、1年から3年までが入り混じって構成されている。
 執行部、などというと聞こえはいいが、実情は極めて事務的であり、また特別な権限があるわけでもない、所謂「普通」の生徒会役員会だ。
 私は3年間役員をやってきたが、2年生、3年生から参加する生徒も少なくは無い。
 西田柚木もそういった生徒の一人だった。彼女は今年、2年生から生徒会に入ってきた生徒だった。
 快活で聡明な彼女はどうやら人気者のようで、また人付き合いも上手な子だ、と見て取れた。
 そして一方の私である。私は生来内気な性格で、周りからは「暗い奴」とレッテルを貼られていた事だろうし、唯一のとりえが勉強だけと言う、典型的な陰の人だった。
 そんな私に、あなたは何故?

「……一人で帰るから良いわ」
「でも、もう仕事ないじゃないですか」
「とにかく――」
「帰りにお茶でも飲みましょう」
「……」
「ね?」
「……今支度するから」
「やったっ」
 どうしてだろう、断れなかった。
 彼女は私を、小洒落た喫茶店へと誘った。
 店内に人はまばらだ。私は落ち着いた気分になれた。
 コーヒーを口に運びながら、彼女は私に語りだした。
「先輩は高校も白川ですか?」
「……そう決めているわ」
「本当ですか? 良かったぁ」
「良い?」
「そうですよ! だって、卒業してもすぐまた会えるじゃないですか」
「……何で」
「はい?」
「何で私なんかと……? あなたには友達だって沢山いるじゃない」
「……先輩は」
「?」
「先輩は、あたしのこと……嫌いですか?」
 言っている意味がよくわからなかった。
 むしろ、あなたは私が嫌いではないのか? こんな陰気な、暗い奴。
 話していて楽しいのか疑問だ。
「私は別に……」
「先輩、あたし先輩ともっと話がしたいんです」
「……私と? 話を?」
「はい……嫌ですか?」
「嫌じゃないけど……あなたは……その、楽しいの?」
「楽しいに決まってるじゃないですか! だって……」
「だって?」
「と、とにかくあの、ほら先輩何か食べませんかっ? ケーキとかありますし」
「……」
 彼女は楽しいと言った。それが理解できなかった。
 私なんかが、あなたといていいのかしら? 心の奥底に、小さくでも確かな背徳感というか、少し後ろめたい芽が宿っていて、目を離すとあっというまに育ち花を咲かせてしまいそうな感じがあった。胸につっかえているそれは、あなたと時間を共有している限り、常に私と共にあり続けるかもしれない。
 でも、それでも、私もほんの少しだけ、本当にほんの少しだけだ――"楽しい"気持ちが、いつしか芽生えていた事。
 あなたは、気づいてた?
8, 7

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