昔々あるところにおじいさんとおばあさんが仲悪げに
暮らしていました。
ある日、おじいさんはキャバクラへ年金をつぎ込みに
おばあさんは川へ喉の渇きを潤しにいきました。
川へ向かったおばあさんが必死の形相で水を飲んでいると
川上の方から直径2m程度の長細い、桃と呼ぶか否か
迷ってしまうような桃が横回転しながら流れて来ました。
おばあさんはあっけに取られていました。
桃はおばあさんの前を素通りするかのように思えましたが
直前で静止し、突然、宙に浮き始めたではありませんか。
おばあさんは腰を抜かして
「ひぎゃぁぁぁぁ(((;゜Д゜)))」
と叫びました。
宙に浮いた桃は地上1m程度で破裂。
中から二十代前半の全裸のイケメンが現れました。
腰を抜かしていたおばあさんでしたが
久々にみた若い異性の体に興奮して濡れていました。
「そんな風貌ではみっともない。とりあえず
わたしの家に来なさい。」
とおばあさんは冷静な判断を下しました。
イケメンは真剣な表情でコクリと頷きました。
家に行く途中、婆の後ろから付いていく全裸のイケメンという
奇妙な組み合わせは、村の興味の的になり
何?鈴木さんちのおばあさん不倫?あんなに堂々と?
という噂が町を二秒で駆け巡りました。
家に着くとまずおばあさんは名前を尋ねました。
イケメンは
「桃から飛び出た桃太郎とは俺のことだ。」
と誇らしげに親指で自分を指さして言いました。
しかしおばあさんの反応は薄いものでした。
冷めた雰囲気の中おばあさんはおもむろに
タンスの引き出しからウェットスーツを持ち出して
桃太郎に着るように命じました。
サイズは明らかに違いぴちぴちでしたが
何もないよりはましだなと桃太郎は思い
快くそれに従いました。
ウェットスーツを着た桃太郎は
ちょっと出かけてくると
婆に告げ家を後にしました。
特に用事はありませんでしたが
婆との異様な空間で時を過ごすよりは
数倍、気が楽でした。
村の注目の的である桃太郎は
自分の一挙手一投足を全て観察されているようで
中指を立てたい気持ちを抑えきれず
常に胸の前で中指を立て村の中を闊歩しました。
しばらくするとタバコの自販機が見えてきました。
自販機の傍にはメガネをかけた
卓球が強そうな陰湿キャラがいました。
桃太郎は中指を立てながら真顔で
「けつの穴に中指を突っ込まれたくなかったら
三百円出せ。」
と脅しました。
メガネは
「ヒィィィィ」
と言って財布をポケットから出しました。
メガネは財布の小銭入れをアタフタしながら
急いで百円玉を探していましたが
数秒後
「自販機でお札を崩してもよろしいでしょうか?」
と尋ねてきたので桃太郎は
「あまり俺を待たせるな。」
と益々中指に力を漲らせ迫りました。
メガネはアタフタしながら千円札を自販機に
突っ込みました。
しかしお札のしわが激しく
メガネは何度も何度もお札の出し入れを繰り返しました。
桃太郎は1回目にお札が戻ってきたときに
既に冷めていました。
メガネに
「俺に付き合ってくれてありがとう。」
と礼を言ってその場を立ち去りました。
おばあさんの家に帰ると部屋の中には
二つの布団が並んで敷かれていました。
おばあさんは布団の横に正座をして座っていました。
「さぁ寝ましょうか。」
とおばあさんはいいました。
桃太郎は本能で危険を察知し
「俺はあんたと同じ空間で同じ空気を吸いたくない。」
と言って縁側で月夜にひたりながら寝ることを
選択しました。
その夜、桃太郎は一人自分の存在意義について
考えながら目を閉じていました。
自分が桃から飛び出た桃太郎である事実。
なぜウェットスーツを着ているのかという事。
鬼が島はどこにあるのかという疑問。
目が覚めたら横に婆がいたらどうしようという恐れ。
考えることは山ほどありました。
それを考えているうちに桃太郎は眠りにつきました。