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コツン…、コツン…、
足音が冷たく静まり返った廊下に木霊する、
何者の気配も感じられぬ長い道のりを、一人の少女が歩いていく。

コツン…、コツン…、
全身を白銀の鎧に包み、頭には光り輝くサークレットを着け、
その腰に差す剣には、聖なる神を象った翼を広げる白馬の姿が描かれている。
魔力によって淡く輝くそれらと、端正にして高貴な面持ちが合わさり、
少女が只者では無いことを慮らせる。

コツン……、
少女は突き当たった部屋の前で足を止めた。扉は無く、中は見通せる。
部屋の中は簡素だった。窓も無く家具も無く、ただ幾つかの松明だけが部屋内を明々と照らすのみ。
そして、その部屋の中央には一人の少年が、椅子に座って侵入者である少女を見つめていた。

「ようこそ、勇者よ。よくぞここまで……」
「死ねぇーーーッ!!!」

言うや否や、薙ぎ払いの一閃。
剣は一瞬強く輝くと、払われた剣の先から衝撃波を放った。
少年はヒラリと舞い上がりそれをかわす。
少年の座っていた椅子は衝撃波がぶつかり、派手な音を立てて四散した。

「こらこら。いきなり、何をするかね」
「黙れ。貴様のせいで皇女の私がこんな所まで来る事になったんだろうが。
 ちっとは反省しろ、ボケナス!」
「はっはっは、これは参ったね。
 反省と言う言葉は僕の辞書には他人がするものと記述されている」

もう一発衝撃波が放たれる。
ボケナスと呼ばれた少年はニヤリと笑うと、それを片手で受け止めて、

衝撃を受け止めきれず、そのまま、後ろに吹っ飛ばされ、
派手な壊音を立てて、壁に突っ込んだ。
しかし、少年はケロリとして起き上がると、
体の埃を払いながら、少女に向けて笑いかけた。

「痛いじゃないか」
「やかましい、そのまま死ね、死んでしまえ」

可愛い顔と裏腹に毒舌な少女の言葉を受け、少年はコキコキと首を鳴らす。

「そこまで恨まれるような事した覚えは無いのだが」
「ほっほ~う、魔物を使ってゴミを城の周りに撒き散らしたり、
 深夜無駄に大騒ぎしたりしておいて、よく言うな」
「何言うかね、姫が僕の楽しみにしていたおやつをうっかり食べてしまったのが悪い。
 あの時の怒り、悲しみ、それは決して忘れられないだろう。
 僕はあの時、悪魔に魂を売ったんだ」
「そんな事で売るな! だいたい、貴様は我が城の宮廷魔術師だろうが!」

少年は、ニヤリと笑みを浮かべると、フワリと浮かび上がった。
その時、飛びすぎて天井に頭をぶつけたので、
多少高度調整した後、漆黒のマントを翻し高らかに宣言した。

「そのっ通り! アブランス王国第一宮廷魔術師、
 天才、歴代最強、至高の魔法使い、無敵の魔道士、白い魔王、
 様々な呼び名で呼ばれし、我が名はロンド!!
 ロンド・ハアラなりぃぃ!!!」
「ついでに、最低の大ボケ魔術士だという事も付け加えておけ。」
「ハハハ、相変わらずツンだね、セス姫」

セスと呼ばれた少女は、剣を心底嫌そうに顔をしかめながら、
空中にいるロンドに向けて剣を突きつけた。

「認めたくは無いが、貴様の力をわが国は今必要としている。
 今までの、嫌がらせは特例で多めに見てやるから、すぐに降りて私について来い」
「言ったはずだよ、セス姫。僕を動かせるのは信念だけさ」

ロンドの軽口を聞いてるのかいないのか、
セスは剣を構え、まるで聖母のような優しげな笑みを浮かべた。

「わかったわかった、つまり殴り倒されて連れて行って欲しいんだな」
「WOW」

言うが早いか、セスは鎧と剣を身につけているにも関わらず、軽やかに飛び上がり、
空中にいる魔術師に向けて剣を振り落ろした、
ロンドは迫る刃を右手に持った杖で受け止めると、
浮遊の魔法を解き、重力に流されるままにセスと共に落下する。
着地の瞬間、セスの体が揺らめいた僅かな隙を逃さず、
左手に籠めた魔力弾をセスの腹部に叩き込む。
しかし、その攻撃は、いつの間にか両手持ちから、
片手に剣を持ち替えていたセスの左手によって押えられた上に、
腕をねじりあげられ、為す術も無く、ロンドは床に組み伏せられた。

「痛い! めちゃ痛い!」
「そうか、よかったな」
「セス姫さんや、どう見ても初撃は殺す気だったろ」
「……さぁ、いくぞ」
「うわ、答えないし。具体的な回答を早急に求め……、
 いたいいたい! すんませんすんません!」

セスに腕をねじりあげられたまま、
憲兵に連行されるコソドロの如く、
ロンドは魔法封じの縄で縛られ、城まで連行された。
こうして、歴代最強と謳われた魔術師の反乱は、
銀色の戦乙女セス姫の活躍によって鎮圧された。
がんばれセス姫、負けるなセス姫。

ちなみに、この後、
城に帰ったセス姫は、隣国ミスピアの侵攻によって、
滅ぼされた王都を目にして、復讐を誓うのだが、
それは、また別の物語である。



え、こっちが本編じゃないかって?
馬鹿を言ってはいけない、ギャグ小説に欝シーンはナンセンスなのである。
作者も面倒なのである。

次回があれば続く
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