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第十四話ノ二『Charisma Break』

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窓から射す星明りに当てられ、絶望を告げるかのように銀色の銃身が鈍く光る。

三木と新人に挟まれる形となったナイトに逃げ場等ない。

端から見れば、三木とナイトの距離よりナイトとハルの距離の方が短い。

一か八かの賭けに出てハルの目の前に立ち塞がった新人に突っ込みに
来るという選択肢もない訳ではないのだろう・・・・・・。

――――――但し、それは背後を狙う人物が“並程度”であればの話だ。

新人もナイトも先程目の前で見せ付けられた“物”を目にして
あそこに立つ人物が只者じゃない事を認識させられている。

“背を向けたら最後、背後から死を告げる凶弾が襲い掛かる”

三木が言い放った言葉は的確。

――――――打つ手なし。 まさに言葉通り、ジ・エンド

「おまえの言う通りこのままではジ遠藤なのは確定的に明らかだが」

ナイトが、三木に向かって降伏を表すかのように両手を挙げる。
だが、ナイトのその格好を見ても何も感じなかった。
いや、感じないというよりは・・・・・・分かっているのだ。

その行動に違和感を感じて察知するのではなく、あからさまにそれが分かる。
その両手を挙げた状態の姿勢から次に奴が何かを仕掛けて来るのは明白だった。

三木の瞳が険しくなり、握るグリップに自然と力が籠められる。

「切り抜けようとして切り抜けるのではなく、
こんな窮地でさえアサリと切り抜けてしまう者が“ナイト”」

「――――――ッ!」

・・・・・・・・・一瞬の出来事であった。

突如、ナイトが掲げていた両腕を瞬時に下へと下げ、そのまま綺麗に弧を描いて
後方へと両手を反らしたかと思うと再び腕を上げてクロスさせていた。

後ろ側に位置していた新人にはその一連の動作が何を表す物かすぐに分かった。

両手を反らした時に、裾から二つの黒色の大クナイがスッと出て来て
手に収まるのが見えたからだ。

「み、みきさん!!」

呼びかけた時には、既に二つの大クナイは投げ放たれていた。

同時に、ナイトは脇差を腰から抜いて三木へと疾駆する。

三木さんの銃の腕前を見るのは今日が初めてだったが
先程の遠距離から投げ放たれたクナイを弾いて見せた事から見て
かなりの腕前だと見ている。

が、流石にこれは無理だ。

その光景を見て、依頼者そっちのけで走り出す。

動く二つの標的を先程と同じ様に狙って当ててみせる何て不可能。
ましてや、目の前には刃を握り締めて迫って来る怪人が見えるのだ。
それだけでも、大変なプレッシャーがかかっている筈


「・・・・一々、喚くな。」

一秒遅れで一つの轟音が、耳に入ってくる。

「こんな“曲芸”、何度だって魅せてやる。」







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―――――認めよう。

ここで引き下がれば“信頼”がどうだとかいう考えはもう棄てるしかない。

癪だが、認めよう。  ・・・・・しくじった。 

自身の右肩から鮮血が吹き飛ぶのが見える。

そのままくの字に体が崩れようとする。

前のめりに崩れながら、其れを見据える。

見据えた先には、硝煙を吐き出す銃を片手に崩れていく自身と同じく
風貌が怪奇な狩人の眼光が己を射竦めていた。

狩人は、自身とは違って何ら負傷した後が見られないのが分かった。

・・・・・・・・・・・やはりか。

心の中で、自身の投げ放った二つのクナイを撃ち落すだけでなく駆けて来た
自身にまで弾丸を撃ち放ってみせたその“神業”に敵ながら素直に感嘆する。

―――――だが、やはりどうでもいい。

「おぉ、新人。  どうよ、さっきの俺は。 少しは見直し――」

後ろから駆けて来たサイボーグの男の方へと先程まで倒れる寸前の
自身へと向いていた視線が向いたのが分かった。
  
どうせ、だ・・・・・。

―――――最後には己が斃しているッッ!!!







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「みきさん、あぶっ!!!」

数メートル先で安堵しきって自慢話をしようとしていた男の顔が
打ち上げロケットの如く宙へと浮く。

パァンッと綺麗な音を立てると同時に鮮やかな程に左斜めから
垂直に放たれた掌底が三木さんの顎に入り、突き上がる。

そのまま通路の奥へと吹き飛ばされ、強い衝撃音と共に地面に落下。

三木さんは、大の字になって横たわって倒れたままで動かない。

数十秒前まで物凄い“カリスマ”を溢れんばかりに辺りに放っていた
三木さんの気絶した姿がそこには、ある。

その当の三木さんをぶっ飛ばした鬼面の男は、息を切らしながら
一瞬だけ外をチラリと見たかと思えば俺の方へと向き直り、

「この男が来てくれて良かったな、もしコレがいなければお前はもう死んでるぞ」

とだけ言い、通路の窓に足を掛けてそのまま飛び降りた。

その数十秒後、ほったらかしにしていた依頼主の元へと戻ると
同時に漸く本館の執事達が通路まで辿り着いたのが見えた。

無線機による伝達が明確に出来なかった俺にも責はあるのかも
しれないがこれは流石におかしい。

閃光音響手榴弾が爆発してからかなり経っている筈。

何にせよ、二つだけ確かな事がある。

これであのデタラメな怪文書が正しかったという事が立証されたという事と、
俺達は、確かに依頼は全うしているが依頼主の命を狙う“アイツ”を
中途半端に返り討ちにしただけでブタ箱に入れ損なってる事だ。

とりあえず、今後について色々と依頼主様と話し合う必要がある事も確かだ。

俺は、腰が抜けて立ち上がれないと言う涙の後で顔が真っ赤なハルを抱え
ながら大の字のまま気絶している三木さんを蹴飛ばした。

所で、俺はさっきから何かを忘れている気がする。

とても重要なようで決して思い出したくない事な気がするんだが・・・・・。

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