追放、そして
反乱軍が軍を退いた。この戦は、勝ちも負けもない。俺のただの自己満足で完結した戦だった。
死んだ者が二百、負傷兵が六百。厳しい戦だった。
「神王から、お咎めがあるでしょうな」
「気にするな、ギリ。処罰が発生したら、俺が全てを負う」
勝ってもいなければ、皆殺しにもしていない。それなりの覚悟はしているつもりだ。
「しかし、何故、敵将を生かしておいたのです。あの男は天才です。遠目から見ても分かりました。後の災厄となり得ます」
「辺境に楽しみを作っただけだ」
一騎討ち。今まで生きてきた中で、あれほど生を感じた時は無かった。やはり俺は、戦人なのだ。
「強い人が言う事は、私には理解できません」
ギリが駆けて行った。
「辺境に戦友が出来た。それだけの事だ」
空を見上げ、呟いた。
エクセラが見えてきた。改めて見ると、壮観だった。堅固な城壁に囲まれ、まさに難攻不落と表現するにふさわしい城だ。
「全軍、歩を緩めろ」
神王がうるさい。馬蹄が気に食わないらしいのだ。
城門が見えてきた。鉄扉。だが、妙に静かだ。様子がおかしい。
「軍神ラムサスが帰国した。開門を願うッ」
沈黙。何かあったのか。俺が居なくても、他の将軍が居る。敵が攻め入ってきても、大軍で押し潰せるはずだ。
次の瞬間だった。矢の嵐。上からだ。
「なっ」
すぐさま鞘から剣を抜き、迫り来る矢を払い落とす。同時に見上げた。弓兵。城壁に何人も居る。
「どういう事だッ」
再び矢の嵐。一体、何が起こっている。
「全軍、下がれッ」
同時に馬首を巡らせた。駆ける。
「ラムサス、神王の命に背いたなッ」
聞き覚えのある声。
「ルースかッ」
カルサス軍の参謀、ルーファスの息子だ。戦神カルサスの脳、とまで言われていた。その縁で、俺とも仲が良い。だが何故。
「ルース、何でこんな事をする。神王の命に背くとはどういう事だ」
「とぼけるのか、ラムサス。お前は、神王からどういう命令を受けた」
「反乱軍を鎮圧しろ、という命令だ」
「先ほど、諜報員から聞いたぞ。お前、反乱軍を見逃したそうじゃないか」
見逃す? 結果は確かにそうだが、決して無策で見逃したわけではない。
「違う、それは」
「それに神王は、六万で討伐しろ、と命令したと仰られていた。今のお前の軍、どう見ても六万ではあるまい」
初耳だ。なんだそれは。
「何を言っている。神王は数の指定はして来なかったぞ」
「お前と神王の言葉、どちらが正しいかなど、今更言うことでもなかろう」
何を言っている。話が噛み合わない。
「俺の話を聞け、ルース」
「神王は六万と言っている。ならば、六万の軍を連れていなければおかしいだろう」
「それは神王の」
虚言ではないのか。だが、言えば不敬罪となる。
「ラムサス、お前はエクセラの軍神だ。私は、お前の右腕となるべく努力をしたと言うのに・・・・・・」
「話を聞け、ルース。お前は何か勘違いをしている」
「すでに、お前の処罰は決まっている。命令違反は本来、斬首刑だ。だが、お前には偉大な父が居た」
一体、何が起きているのだ。俺は、反乱軍を鎮圧しに行っただけだ。戦に勝たなかったから? 皆殺しにしなかったから?
「その父に免じて、神王はお前をエクセラ追放で済ませる、と仰られている」
何故、こんな事になっている。不意に、ランドの姿が思い浮かぶ。出陣前のあの慌てようが頭に浮かんだ。
「だが、お前の兵たちは無罪だ。お前だけを追放する。後は、どことなりと消えるが良い」
ルースが背を向けた。歩き出す。
「待て、ルースッ」
見えなくなった。
ランド。あいつ、何か知っていたのか。知っていた? 何を? ダメだ、頭が混乱している。
「ルースッ」
デンコウに鞭を入れる。矢嵐。デンコウが棹立ちになる。進めない、そう言っている。
「何なんだ、説明しろッ」
心臓の鼓動が、妙に高鳴っていた。
死んだ者が二百、負傷兵が六百。厳しい戦だった。
「神王から、お咎めがあるでしょうな」
「気にするな、ギリ。処罰が発生したら、俺が全てを負う」
勝ってもいなければ、皆殺しにもしていない。それなりの覚悟はしているつもりだ。
「しかし、何故、敵将を生かしておいたのです。あの男は天才です。遠目から見ても分かりました。後の災厄となり得ます」
「辺境に楽しみを作っただけだ」
一騎討ち。今まで生きてきた中で、あれほど生を感じた時は無かった。やはり俺は、戦人なのだ。
「強い人が言う事は、私には理解できません」
ギリが駆けて行った。
「辺境に戦友が出来た。それだけの事だ」
空を見上げ、呟いた。
エクセラが見えてきた。改めて見ると、壮観だった。堅固な城壁に囲まれ、まさに難攻不落と表現するにふさわしい城だ。
「全軍、歩を緩めろ」
神王がうるさい。馬蹄が気に食わないらしいのだ。
城門が見えてきた。鉄扉。だが、妙に静かだ。様子がおかしい。
「軍神ラムサスが帰国した。開門を願うッ」
沈黙。何かあったのか。俺が居なくても、他の将軍が居る。敵が攻め入ってきても、大軍で押し潰せるはずだ。
次の瞬間だった。矢の嵐。上からだ。
「なっ」
すぐさま鞘から剣を抜き、迫り来る矢を払い落とす。同時に見上げた。弓兵。城壁に何人も居る。
「どういう事だッ」
再び矢の嵐。一体、何が起こっている。
「全軍、下がれッ」
同時に馬首を巡らせた。駆ける。
「ラムサス、神王の命に背いたなッ」
聞き覚えのある声。
「ルースかッ」
カルサス軍の参謀、ルーファスの息子だ。戦神カルサスの脳、とまで言われていた。その縁で、俺とも仲が良い。だが何故。
「ルース、何でこんな事をする。神王の命に背くとはどういう事だ」
「とぼけるのか、ラムサス。お前は、神王からどういう命令を受けた」
「反乱軍を鎮圧しろ、という命令だ」
「先ほど、諜報員から聞いたぞ。お前、反乱軍を見逃したそうじゃないか」
見逃す? 結果は確かにそうだが、決して無策で見逃したわけではない。
「違う、それは」
「それに神王は、六万で討伐しろ、と命令したと仰られていた。今のお前の軍、どう見ても六万ではあるまい」
初耳だ。なんだそれは。
「何を言っている。神王は数の指定はして来なかったぞ」
「お前と神王の言葉、どちらが正しいかなど、今更言うことでもなかろう」
何を言っている。話が噛み合わない。
「俺の話を聞け、ルース」
「神王は六万と言っている。ならば、六万の軍を連れていなければおかしいだろう」
「それは神王の」
虚言ではないのか。だが、言えば不敬罪となる。
「ラムサス、お前はエクセラの軍神だ。私は、お前の右腕となるべく努力をしたと言うのに・・・・・・」
「話を聞け、ルース。お前は何か勘違いをしている」
「すでに、お前の処罰は決まっている。命令違反は本来、斬首刑だ。だが、お前には偉大な父が居た」
一体、何が起きているのだ。俺は、反乱軍を鎮圧しに行っただけだ。戦に勝たなかったから? 皆殺しにしなかったから?
「その父に免じて、神王はお前をエクセラ追放で済ませる、と仰られている」
何故、こんな事になっている。不意に、ランドの姿が思い浮かぶ。出陣前のあの慌てようが頭に浮かんだ。
「だが、お前の兵たちは無罪だ。お前だけを追放する。後は、どことなりと消えるが良い」
ルースが背を向けた。歩き出す。
「待て、ルースッ」
見えなくなった。
ランド。あいつ、何か知っていたのか。知っていた? 何を? ダメだ、頭が混乱している。
「ルースッ」
デンコウに鞭を入れる。矢嵐。デンコウが棹立ちになる。進めない、そう言っている。
「何なんだ、説明しろッ」
心臓の鼓動が、妙に高鳴っていた。
全身が熱い。悔しさ、怒り、不安、さまざまな感情が入り交じり、身体の中を駆け巡る。
落ち着け。何の事はない。落ち着け。自分に言い聞かせる。
「俺は、神王のために働き尽くしてきた。それが・・・・・・」
大きく息を吐く。目を閉じた。
ランドの事を思い浮かべる。あいつは、俺が出陣する前、ひどく慌てていた。まるで、今回の戦には行くな、と言わんばかりだった。
何かを知っていたのだろう。こうなる事を、おそらく知っていた。俺が少数の兵力を率いると言った時、あいつは六万連れて行け、と言っていた。
仮の話になるが、神王は俺を疎ましく思っていたのではないか。親の七光りと言えど、俺は軍神と持てはやされていた。自惚れになるが、俺より有能な将軍はエクセラには居ない。軍権も完全に掌握しているのだ。疎ましく思っていて当然だ。
そうなれば、排除したい。だが、失態がない。だったら、作り出せば良い。
神王は、軍の数の指定をして来なかった。これが罠だった。俺は、自分の力を示したかった。神王は、それを知っていたはずだ。だから、ここに罠を仕掛けた。そして俺は、それに見事に嵌った。
そして、反乱軍との苦戦。これは、仕組まれてはいなかったはずだ。だが、監視されていた。ルースが、諜報員から聞いた、と言っていたのだ。
どんな細かな事でも良い。神王は、俺の失態を手に入れたかったのだろう。
ルース・・・・・・良い友人だと思っていたが、やはり神王を取るか・・・・・・。そしてランド、最後に怒鳴ってしまった。俺の事を心配していたと言うのに。
「すまない・・・・・・」
もう口を利く事もできない。俺のために、ひどい目に遭っていなければ良いが・・・・・。
追放。もう俺は、エクセラの将軍どころか、国民ですらない。兵たちに言わなければ。
「みんな、よく聞いてくれッ」
原野。声がよく通る。
「さっきルース参謀が言った通り、俺はエクセラを追放されたッ」
とてつもなく悔しい。これが、軍神ラムサスの言葉か。堕ちた。底の底まで堕ちた。
「だが、これは俺一人の問題だ。お前たちは、城に戻り、いつものように生活してくれれば良いッ」
兵たちは真っ直ぐ、俺を見ていた。戸惑いなど、感じさせない。俺が鍛えた騎馬隊。
「今まで、俺に付き従ってくれた事、感謝する。だが、それも今日までだ」
さらばだ、エクセラ。そして騎馬隊。
その時だった。
「ラムサス将軍、いや、元将軍ですかな」
ギリだ。前へ出てきた。笑っている。当然か。何しろ、追放されたのだ。
「私は、あなたにお供いたします」
耳を疑った。何だと。
「ギリ、何を言ってる」
「元々、私はエクセラに反感を抱いておりました。いや、正しくは神王にです。大した能力もない癖に、アゴで人を使う。自分の手を汚さず、目的を達成する。反吐が出る人種ですよ」
「お前、処刑されるぞ」
「構いませんよ。もう私も、エクセラの民ではありませんから」
ギリ・・・・・・。目頭が熱くなる。
「皆の者、聞いての通りだ。私は、ラムサス様に付き従う。私と同じように反感・疑問を抱いている者は付いて来いッ」
兵は静まり返ったままだ。ギリの声が、原野全体に響いている。
「ラムサス様、早くここを離れましょう。神王のことです。大軍を率いてくるかもしれません」
「だが、ギリ」
これは俺の問題なんだぞ。
「良いのです。私は、あの一騎討ちで心を打たれました。あなたこそ、戦神であり軍神です。それに付き従う。結構な事です」
親の七光り。いや、もうエクセラを追放された。今この瞬間から、ラムサスという一人の男の人生が始まるのだ。
「分かった。後悔するなよ。俺は、戦が何よりも好きな男だ」
「承知の上です」
ギリが笑う。俺はそれに対して頷いた。
「デンコウ、付き合ってくれるな」
デンコウが首をぶるんっと振るわせた。
「よし、駆けるぞ。まずはここを離れるッ」
かかとで腹を蹴った。疾風。肌を切り裂くその風は、勇ましい気持ちにさせてくれる。
「やぁ、ラムサス様、あなたの求心力は大したものですよ」
ギリが笑っている。俺の耳に入ってくる馬蹄、地鳴り。
不意に涙がこぼれた。
「必ず、必ず報いてみせる」
涙で、視界が曇っていた。
落ち着け。何の事はない。落ち着け。自分に言い聞かせる。
「俺は、神王のために働き尽くしてきた。それが・・・・・・」
大きく息を吐く。目を閉じた。
ランドの事を思い浮かべる。あいつは、俺が出陣する前、ひどく慌てていた。まるで、今回の戦には行くな、と言わんばかりだった。
何かを知っていたのだろう。こうなる事を、おそらく知っていた。俺が少数の兵力を率いると言った時、あいつは六万連れて行け、と言っていた。
仮の話になるが、神王は俺を疎ましく思っていたのではないか。親の七光りと言えど、俺は軍神と持てはやされていた。自惚れになるが、俺より有能な将軍はエクセラには居ない。軍権も完全に掌握しているのだ。疎ましく思っていて当然だ。
そうなれば、排除したい。だが、失態がない。だったら、作り出せば良い。
神王は、軍の数の指定をして来なかった。これが罠だった。俺は、自分の力を示したかった。神王は、それを知っていたはずだ。だから、ここに罠を仕掛けた。そして俺は、それに見事に嵌った。
そして、反乱軍との苦戦。これは、仕組まれてはいなかったはずだ。だが、監視されていた。ルースが、諜報員から聞いた、と言っていたのだ。
どんな細かな事でも良い。神王は、俺の失態を手に入れたかったのだろう。
ルース・・・・・・良い友人だと思っていたが、やはり神王を取るか・・・・・・。そしてランド、最後に怒鳴ってしまった。俺の事を心配していたと言うのに。
「すまない・・・・・・」
もう口を利く事もできない。俺のために、ひどい目に遭っていなければ良いが・・・・・。
追放。もう俺は、エクセラの将軍どころか、国民ですらない。兵たちに言わなければ。
「みんな、よく聞いてくれッ」
原野。声がよく通る。
「さっきルース参謀が言った通り、俺はエクセラを追放されたッ」
とてつもなく悔しい。これが、軍神ラムサスの言葉か。堕ちた。底の底まで堕ちた。
「だが、これは俺一人の問題だ。お前たちは、城に戻り、いつものように生活してくれれば良いッ」
兵たちは真っ直ぐ、俺を見ていた。戸惑いなど、感じさせない。俺が鍛えた騎馬隊。
「今まで、俺に付き従ってくれた事、感謝する。だが、それも今日までだ」
さらばだ、エクセラ。そして騎馬隊。
その時だった。
「ラムサス将軍、いや、元将軍ですかな」
ギリだ。前へ出てきた。笑っている。当然か。何しろ、追放されたのだ。
「私は、あなたにお供いたします」
耳を疑った。何だと。
「ギリ、何を言ってる」
「元々、私はエクセラに反感を抱いておりました。いや、正しくは神王にです。大した能力もない癖に、アゴで人を使う。自分の手を汚さず、目的を達成する。反吐が出る人種ですよ」
「お前、処刑されるぞ」
「構いませんよ。もう私も、エクセラの民ではありませんから」
ギリ・・・・・・。目頭が熱くなる。
「皆の者、聞いての通りだ。私は、ラムサス様に付き従う。私と同じように反感・疑問を抱いている者は付いて来いッ」
兵は静まり返ったままだ。ギリの声が、原野全体に響いている。
「ラムサス様、早くここを離れましょう。神王のことです。大軍を率いてくるかもしれません」
「だが、ギリ」
これは俺の問題なんだぞ。
「良いのです。私は、あの一騎討ちで心を打たれました。あなたこそ、戦神であり軍神です。それに付き従う。結構な事です」
親の七光り。いや、もうエクセラを追放された。今この瞬間から、ラムサスという一人の男の人生が始まるのだ。
「分かった。後悔するなよ。俺は、戦が何よりも好きな男だ」
「承知の上です」
ギリが笑う。俺はそれに対して頷いた。
「デンコウ、付き合ってくれるな」
デンコウが首をぶるんっと振るわせた。
「よし、駆けるぞ。まずはここを離れるッ」
かかとで腹を蹴った。疾風。肌を切り裂くその風は、勇ましい気持ちにさせてくれる。
「やぁ、ラムサス様、あなたの求心力は大したものですよ」
ギリが笑っている。俺の耳に入ってくる馬蹄、地鳴り。
不意に涙がこぼれた。
「必ず、必ず報いてみせる」
涙で、視界が曇っていた。
関所から兵を退いて、二週間。作戦失敗の報を聞いた兵たちの表情は、まだ暗い。
「ハンスさん、僕の稽古相手になってくださいよ」
ローレンだけが、妙に明るかった。
「冗談はよせ。もう私では、お前の相手は務まらん。アイオンに頼め」
「アイオンさんは元気がないみたいなんですよ」
アイオンは、南から攻め入る軍の総大将だった。西、つまり我らの軍を囮にし、南から大挙して攻め寄せる作戦。成功の見込みはあった。だが、囮になるはずだった西に現れたエクセラ軍は、わずかに二千五百だった。
「方便に決まっているだろう。お前の稽古相手は疲れる。やりたくないだけだ」
「どの道、ダメじゃないですか」
「みんながみんな、お前のように武芸好きではないという事だよ」
「あのエクセラの将軍、ラムサスでしたっけ。あんなに強い男は始めて見ました」
「反乱軍では、お前が最強だがな。世界は広いという事だ」
「馬の差で負けただけです」
「なら、何故槍を持ってる。馬の差を埋めるなら、馬術を鍛えれば良いだろう」
「手厳しいなぁ、ハンスさんは」
互いに笑う。戦が終われば、こんなものだった。ゆとりが出来る。緊張から解放されるのだ。
反乱軍・・・・・・いや、グロリアス。私たちの国の名だ。エクセラ軍は、我らのことを反乱軍と呼んでいた。大衆はエクセラに付いている。だから、便宜上で我らも反乱軍と呼んでいるのだ。だがいつしか、胸を張って国名を叫ぶ。自由を取り戻すのだ。
「次の戦は、冬が明けてからになるな。もう秋も終わる」
グロリアスは山岳に囲まれた国だった。山は季節をうつし出す。季節の度に、顔色を変える。
エクセラは原野が中心の国で、気候も穏やかだ。それだけに、人が集まる。商業が発達する。国が栄える。グロリアスはそうではない。日中でも日差しが弱く、冬は寒さが厳しい。戦には向いてない国だ。だが、守りに強かった。天然の要塞と言っても良いだろう。
「エクセラの恐怖政治なんて、許せるものか」
ローレンの顔つきが厳しくなった。そうだ。許してはいけない。エクセラがグロリアスを飲み込むと言うのなら、それに対抗するまでだ。
「ローレン、騎馬隊を鍛えておけよ。私たち反乱軍は兵力が少ない。質でカバーするしかないのだ」
「はい」
「それとアイオンに、元気を出すように伝えてくれ。参謀がその調子では、軍の士気は落ちる一方だ、と」
「分かりました」
作戦は潰えた。だが、まだ生きている。国がある。民もいる。まだ終わってはいないのだ。
それから一週間が過ぎた。
「多くは聞くまい。何故、お前がグロリアス領に居る? いや、何故来た?」
私の目の前に座っている、この偉丈夫。三週間前、軍を交えたばかりだ。
この男、近くでみると、圧巻だった。阿修羅の如き肉体とでも言えば良いか。鎧の上からでも、それが分かった。
今朝、グロリアスの国境に、白旗を掲げたエクセラ軍がやって来た。いや、正確にはエクセラ軍と思われる軍だ。千程度の軍で、エクセラの国旗は半分千切れていた。
そして、この座っている男こそが、エクセラの将軍、ラムサスだ。
「エクセラを追放されたのだ」
「ふん」
思わず、鼻で笑った。何を言い出すかと思えば。
「それで、我がグロリアスに降伏か。わずか三週間前、殺し合いをした仲だぞ?」
「馬鹿な事をしているのは分かっている。だが、ここしか来る所がなかった」
確かにそうだろう。エクセラにあえて対抗している国は、グロリアスぐらいなものだ。
「お前の判断か?」
「そうだ。俺の副官が提案し、俺が決めた」
「何故、追放された?」
目を見る。嘘を言っているかどうかは、これである程度分かる。まるで、人を食い殺しそうな目だ。
「神王に謀られた。俺の存在が疎ましかったのだろう」
わずかに威圧を感じるが、嘘を言っているわけではない。そう思った。
「エクセラの計略だろ、僕にはわかってる」
今まで黙っていたローレンが、吐き捨てるように言った。だが、正当な意見だ。そして、最も有り得る事でもある。
「事実を証明する術を、俺は持っていない。だが、降伏を受け入れてくれるのであれば、俺はグロリアスのために剣を振るう。兵も一緒だ。共に、エクセラを叩き潰してみせる」
威圧感。この男、底が見えない。
「今すぐには判断を下すことはできない。こちらにはこちらの都合がある」
「わかっている」
「だが、追放の件が本当であるならば、もうエクセラ領に戻る事はできまい。グロリアスに駐屯するのを許可する」
「ハンスさんッ」
ローレン。手で制止する。
「感謝する。良い返事を期待している」
立ち上がる。本当に大きな男だ。思わず見上げてしまった。
「駐屯地まで、監視がつく。構わないか?」
「あぁ、好きにしてくれ」
背を向け、屋敷を出て行った。
「さて、どうするか」
「僕は反対ですよ。大体、グロリアス領に入れる事自体が無防備過ぎます」
まだ若い意見だ。
「アイオン、お前はどうだ」
「良いんじゃないですかね。どの道、俺らの軍は戦力不足です。あの男の軍は強かったんでしょう。たった千でも、貴重な戦力になりますよ」
私と同意見だ。だが、信用していいものかどうか。
「アイオンさん、正気ですかっ」
「ローレン、考えてもみろ。圧倒的な国力を誇るエクセラの将軍、しかも名の知れた将軍だ。その将軍が、地位を投げ打ってグロリアスに投降するのに、何の得がある?」
「それは」
「あれはおそらく真実。そして、神王はそれをやる人間だ。器量も小さく、ずる賢い、カスみたいな人間だからな」
「でも僕は」
「ハンスさん、どうするんです」
ローレンとアイオン、二人が目を見てきた。
「ハンスさん、僕の稽古相手になってくださいよ」
ローレンだけが、妙に明るかった。
「冗談はよせ。もう私では、お前の相手は務まらん。アイオンに頼め」
「アイオンさんは元気がないみたいなんですよ」
アイオンは、南から攻め入る軍の総大将だった。西、つまり我らの軍を囮にし、南から大挙して攻め寄せる作戦。成功の見込みはあった。だが、囮になるはずだった西に現れたエクセラ軍は、わずかに二千五百だった。
「方便に決まっているだろう。お前の稽古相手は疲れる。やりたくないだけだ」
「どの道、ダメじゃないですか」
「みんながみんな、お前のように武芸好きではないという事だよ」
「あのエクセラの将軍、ラムサスでしたっけ。あんなに強い男は始めて見ました」
「反乱軍では、お前が最強だがな。世界は広いという事だ」
「馬の差で負けただけです」
「なら、何故槍を持ってる。馬の差を埋めるなら、馬術を鍛えれば良いだろう」
「手厳しいなぁ、ハンスさんは」
互いに笑う。戦が終われば、こんなものだった。ゆとりが出来る。緊張から解放されるのだ。
反乱軍・・・・・・いや、グロリアス。私たちの国の名だ。エクセラ軍は、我らのことを反乱軍と呼んでいた。大衆はエクセラに付いている。だから、便宜上で我らも反乱軍と呼んでいるのだ。だがいつしか、胸を張って国名を叫ぶ。自由を取り戻すのだ。
「次の戦は、冬が明けてからになるな。もう秋も終わる」
グロリアスは山岳に囲まれた国だった。山は季節をうつし出す。季節の度に、顔色を変える。
エクセラは原野が中心の国で、気候も穏やかだ。それだけに、人が集まる。商業が発達する。国が栄える。グロリアスはそうではない。日中でも日差しが弱く、冬は寒さが厳しい。戦には向いてない国だ。だが、守りに強かった。天然の要塞と言っても良いだろう。
「エクセラの恐怖政治なんて、許せるものか」
ローレンの顔つきが厳しくなった。そうだ。許してはいけない。エクセラがグロリアスを飲み込むと言うのなら、それに対抗するまでだ。
「ローレン、騎馬隊を鍛えておけよ。私たち反乱軍は兵力が少ない。質でカバーするしかないのだ」
「はい」
「それとアイオンに、元気を出すように伝えてくれ。参謀がその調子では、軍の士気は落ちる一方だ、と」
「分かりました」
作戦は潰えた。だが、まだ生きている。国がある。民もいる。まだ終わってはいないのだ。
それから一週間が過ぎた。
「多くは聞くまい。何故、お前がグロリアス領に居る? いや、何故来た?」
私の目の前に座っている、この偉丈夫。三週間前、軍を交えたばかりだ。
この男、近くでみると、圧巻だった。阿修羅の如き肉体とでも言えば良いか。鎧の上からでも、それが分かった。
今朝、グロリアスの国境に、白旗を掲げたエクセラ軍がやって来た。いや、正確にはエクセラ軍と思われる軍だ。千程度の軍で、エクセラの国旗は半分千切れていた。
そして、この座っている男こそが、エクセラの将軍、ラムサスだ。
「エクセラを追放されたのだ」
「ふん」
思わず、鼻で笑った。何を言い出すかと思えば。
「それで、我がグロリアスに降伏か。わずか三週間前、殺し合いをした仲だぞ?」
「馬鹿な事をしているのは分かっている。だが、ここしか来る所がなかった」
確かにそうだろう。エクセラにあえて対抗している国は、グロリアスぐらいなものだ。
「お前の判断か?」
「そうだ。俺の副官が提案し、俺が決めた」
「何故、追放された?」
目を見る。嘘を言っているかどうかは、これである程度分かる。まるで、人を食い殺しそうな目だ。
「神王に謀られた。俺の存在が疎ましかったのだろう」
わずかに威圧を感じるが、嘘を言っているわけではない。そう思った。
「エクセラの計略だろ、僕にはわかってる」
今まで黙っていたローレンが、吐き捨てるように言った。だが、正当な意見だ。そして、最も有り得る事でもある。
「事実を証明する術を、俺は持っていない。だが、降伏を受け入れてくれるのであれば、俺はグロリアスのために剣を振るう。兵も一緒だ。共に、エクセラを叩き潰してみせる」
威圧感。この男、底が見えない。
「今すぐには判断を下すことはできない。こちらにはこちらの都合がある」
「わかっている」
「だが、追放の件が本当であるならば、もうエクセラ領に戻る事はできまい。グロリアスに駐屯するのを許可する」
「ハンスさんッ」
ローレン。手で制止する。
「感謝する。良い返事を期待している」
立ち上がる。本当に大きな男だ。思わず見上げてしまった。
「駐屯地まで、監視がつく。構わないか?」
「あぁ、好きにしてくれ」
背を向け、屋敷を出て行った。
「さて、どうするか」
「僕は反対ですよ。大体、グロリアス領に入れる事自体が無防備過ぎます」
まだ若い意見だ。
「アイオン、お前はどうだ」
「良いんじゃないですかね。どの道、俺らの軍は戦力不足です。あの男の軍は強かったんでしょう。たった千でも、貴重な戦力になりますよ」
私と同意見だ。だが、信用していいものかどうか。
「アイオンさん、正気ですかっ」
「ローレン、考えてもみろ。圧倒的な国力を誇るエクセラの将軍、しかも名の知れた将軍だ。その将軍が、地位を投げ打ってグロリアスに投降するのに、何の得がある?」
「それは」
「あれはおそらく真実。そして、神王はそれをやる人間だ。器量も小さく、ずる賢い、カスみたいな人間だからな」
「でも僕は」
「ハンスさん、どうするんです」
ローレンとアイオン、二人が目を見てきた。
俺の軍が受け入れられたのは、次の日の朝だった。
「待たせたな。話し合った結果、お前をグロリアスに迎え入れる事に決まった」
ハンスという男が、こう言った。情けない奴だと思っていたが、度量はあるようだ。元敵将を、あれだけの質問で迎え入れる。たやすく出来る事ではない。
「だが、やはり最初は誰かの下についてもらう事になるぞ」
「それは構わん」
「そうか。なら、アイオンの下についてもらう。上手くやってくれ」
感謝する。目で言った。
「俺は戦ができれば、それで良い」
「血気盛んな事だな。エクセラでもそうだったのか?」
「そうだ」
「ラムサス、エクセラの情報を喋ってもらうぞ。僕らにはそれが必要なんだ」
一騎討ちした男だ。こうしてみると、まだまだ幼い。髭も生え揃っていないのだ。
だが、強かった。強さに年齢は関係ない。天才、ギリはそう言っていた。
「分かっている。俺はエクセラの軍権を握っていた。少しは詳しいつもりだ」
軍神。エクセラではそう呼ばれていた。そして、十万という大軍を動かす事も出来たのだ。だが、今ではもうそれも地に堕ちた。だが、失意は無かった。新たな人生。今、それを歩もうとしているのだ。
「それじゃ、ここからは俺と話だ。ローレン、お前が居るとうるさい。兵の調練でもしていろ」
長髪の男。ブロンドの髪の毛が、肩まで伸びていた。
「何を言ってるんですか、アイオンさん。僕も将軍です」
「お前はラムサスと遊んで欲しいだけだろう。話が終われば、いくらでも貸してやる」
この男、口が悪い。これが俺の上官になるのか。俺は苦笑していた。
「決着をつけたいだけですよ。馬無しでやれば、どっちが強いかが分かりますから」
「それを遊びだと言っているんだ。ほら、さっさと調練に行って来い」
アイオンは面倒そうに、出口の方へアゴをしゃくった。ローレンは不服そうな表情だ。
「わかりましたよ」
出て行く。
「ガキの相手は疲れる」
「何歳なのですか」
「なんだ、敬語が喋れるのか」
目を丸くして、聞いてきた。当たり前だろう。何を言ってる。
「ハンスさんに敬語を使わず、俺に使うとは変わった奴だな」
「そう言ってやるな。私は気にしていない」
二人が笑い合う。エクセラとは勝手が違う。慣れだろうが、やりにくさを感じる。
「ローレンはまだ十七のガキだ」
十七。十七歳で、あの強さなのか。末恐ろしい男だ。
「お前はいくつだ」
「私は二十歳です」
アイオンが吹き出した。何がおかしい。
「敬語を使うな。お前ほど敬語の似合わない奴は見たことがないぞ」
どういう意味だ。
「ラムサス、ここはエクセラと違う。上下関係はあるが、気にするほどのものでもない。自由の国だ」
ハンスがなだめるように言った。ダメだ。勝手が違う。しばらくは、ストレスとの戦になりそうだ。
「わかった」
「で、本題だ。まず、エクセラの軍力は? 五十万だと推定しているが、どうだ」
そんなものだろう。毎回、エクセラは反乱軍を万単位で叩き潰していた。見せていた軍力から推定すれば、妥当な数字だ。国土も広い。十分に養えると考えられる。
「二十万だ。お前たちが思っている程、エクセラの兵力は強大ではない」
「では何故、万単位で軍を出してくる? そんなに余裕があるとは思えんがな」
「分からない。だが、反乱軍を叩き潰す見せしめだ、と神王は言っていた」
正直な所、神王は何を考えているか分からない時がある。特に軍事はそうだった。
「なるほど。所で、俺たちの作戦が看破されていたようだが、どこで漏れた?」
作戦? 何の事だ?
「何の事だ、それは」
「あ? 西の軍は囮で、南から大挙して攻め寄せる。城までは攻められずとも、グロリアスの領地拡大は可能だったはずだ」
初耳だ。そうか、それで三週間前の戦の時、作戦は失敗だ、と言っていたのか。
「いや、俺は知らなかった。そして、神王も知らないはずだ」
「話が噛み合わんな。ハンスさん、どういう事です」
「ラムサス、いつもは万単位で出てくる所を、あの時は二千五百だった。何故だ?」
力を示したかった。神王に、エクセラに。親の七光りを返上したかったのだ。
「こちらの事情だ」
「言えないということか?」
「言いたくないんでしょう。プライドが高そうな男ですよ、こいつは」
口は悪いが、よく見ている。アイオンという男、ただ者では無さそうだ。
「失礼致しますッ」
グロリアスの兵だ。慌てているようだ。
「なんだ、今は話中だ。急用で無いなら、後にしろ」
「え、エクセラが、エクセラが攻めて参りましたッ」
部屋中に緊張が走るのが分かった。
「待たせたな。話し合った結果、お前をグロリアスに迎え入れる事に決まった」
ハンスという男が、こう言った。情けない奴だと思っていたが、度量はあるようだ。元敵将を、あれだけの質問で迎え入れる。たやすく出来る事ではない。
「だが、やはり最初は誰かの下についてもらう事になるぞ」
「それは構わん」
「そうか。なら、アイオンの下についてもらう。上手くやってくれ」
感謝する。目で言った。
「俺は戦ができれば、それで良い」
「血気盛んな事だな。エクセラでもそうだったのか?」
「そうだ」
「ラムサス、エクセラの情報を喋ってもらうぞ。僕らにはそれが必要なんだ」
一騎討ちした男だ。こうしてみると、まだまだ幼い。髭も生え揃っていないのだ。
だが、強かった。強さに年齢は関係ない。天才、ギリはそう言っていた。
「分かっている。俺はエクセラの軍権を握っていた。少しは詳しいつもりだ」
軍神。エクセラではそう呼ばれていた。そして、十万という大軍を動かす事も出来たのだ。だが、今ではもうそれも地に堕ちた。だが、失意は無かった。新たな人生。今、それを歩もうとしているのだ。
「それじゃ、ここからは俺と話だ。ローレン、お前が居るとうるさい。兵の調練でもしていろ」
長髪の男。ブロンドの髪の毛が、肩まで伸びていた。
「何を言ってるんですか、アイオンさん。僕も将軍です」
「お前はラムサスと遊んで欲しいだけだろう。話が終われば、いくらでも貸してやる」
この男、口が悪い。これが俺の上官になるのか。俺は苦笑していた。
「決着をつけたいだけですよ。馬無しでやれば、どっちが強いかが分かりますから」
「それを遊びだと言っているんだ。ほら、さっさと調練に行って来い」
アイオンは面倒そうに、出口の方へアゴをしゃくった。ローレンは不服そうな表情だ。
「わかりましたよ」
出て行く。
「ガキの相手は疲れる」
「何歳なのですか」
「なんだ、敬語が喋れるのか」
目を丸くして、聞いてきた。当たり前だろう。何を言ってる。
「ハンスさんに敬語を使わず、俺に使うとは変わった奴だな」
「そう言ってやるな。私は気にしていない」
二人が笑い合う。エクセラとは勝手が違う。慣れだろうが、やりにくさを感じる。
「ローレンはまだ十七のガキだ」
十七。十七歳で、あの強さなのか。末恐ろしい男だ。
「お前はいくつだ」
「私は二十歳です」
アイオンが吹き出した。何がおかしい。
「敬語を使うな。お前ほど敬語の似合わない奴は見たことがないぞ」
どういう意味だ。
「ラムサス、ここはエクセラと違う。上下関係はあるが、気にするほどのものでもない。自由の国だ」
ハンスがなだめるように言った。ダメだ。勝手が違う。しばらくは、ストレスとの戦になりそうだ。
「わかった」
「で、本題だ。まず、エクセラの軍力は? 五十万だと推定しているが、どうだ」
そんなものだろう。毎回、エクセラは反乱軍を万単位で叩き潰していた。見せていた軍力から推定すれば、妥当な数字だ。国土も広い。十分に養えると考えられる。
「二十万だ。お前たちが思っている程、エクセラの兵力は強大ではない」
「では何故、万単位で軍を出してくる? そんなに余裕があるとは思えんがな」
「分からない。だが、反乱軍を叩き潰す見せしめだ、と神王は言っていた」
正直な所、神王は何を考えているか分からない時がある。特に軍事はそうだった。
「なるほど。所で、俺たちの作戦が看破されていたようだが、どこで漏れた?」
作戦? 何の事だ?
「何の事だ、それは」
「あ? 西の軍は囮で、南から大挙して攻め寄せる。城までは攻められずとも、グロリアスの領地拡大は可能だったはずだ」
初耳だ。そうか、それで三週間前の戦の時、作戦は失敗だ、と言っていたのか。
「いや、俺は知らなかった。そして、神王も知らないはずだ」
「話が噛み合わんな。ハンスさん、どういう事です」
「ラムサス、いつもは万単位で出てくる所を、あの時は二千五百だった。何故だ?」
力を示したかった。神王に、エクセラに。親の七光りを返上したかったのだ。
「こちらの事情だ」
「言えないということか?」
「言いたくないんでしょう。プライドが高そうな男ですよ、こいつは」
口は悪いが、よく見ている。アイオンという男、ただ者では無さそうだ。
「失礼致しますッ」
グロリアスの兵だ。慌てているようだ。
「なんだ、今は話中だ。急用で無いなら、後にしろ」
「え、エクセラが、エクセラが攻めて参りましたッ」
部屋中に緊張が走るのが分かった。