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変人にふさわしい死

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彼は変人だ。

少なくとも本人はそう信じている。
周囲の大部分は、それを信じてはいない。
親友と思われる人にしても、それを信じてはいない。
なんといっても、人当たりの好い人物であるから、
誰もが彼の核心を見抜けなかったのである。

しかし、彼は変人なのである。
線状のものを見るたびに、縊死体を思う。
高い所に昇るたびに、飛び降り死体を思う。
線路を見るたびに、轢死体を思う。
刃物を見るたびに、割腹死体を思う。

悲痛と苦悶と信念が、己の命をも破壊するエネルギーに変換されることは、
純朴な彼にとっては大きな驚きだった。
同時に、そのエネルギーによって破壊された肉体及び破壊に至る方法は
その人物の一生を如実に語るものに他ならないことを理解し、
尊敬の念を含め、彼は変死体を「美しいもの」と見做した。

或る日、彼の眼の前に人間が落ちてきた。
彼は、寝転がる肉体の前で息を呑んだ。

美しかった。
なにものよりも美しかった。
自然と涙がほろほろと流れた。
そして合掌し、目を瞑った。
こうやって飛び降りた人物に対し、敬虔なる思いを伝えた。

いつか、自分もこうなりたい。自分を解放したい。自分のすべてを示したい。
飛び降り自殺を眼の前で見た後、その念はいよいよ強くなった。

こうして彼は、自殺を決心した。

なるべく多くの人の目に付く場所でなければならない。
そして、より美しい死姿にならねばならない。
とはいえ、彼には単純なところがあるから、中々最適な場所と方法が見つからない。
結局、この人物と同様に飛び降りにしよう、場所は人が多そうな場所にしようと決めた。

決定するや否や、彼の行動は早かった。
都心の百貨店の屋上に上り、警備員の制止を振り切ってフェンスをよじ登り、飛んだ。

爽やかだった。
時間が止まっていた。
永遠にこうであって欲しかった。

しかし、現実は無常である。
そんな体験もすぐに終わってしまった。
すべては無に帰した。
だが彼は満足だった。すべてを示し、世界でもっとも美しいものになれたのだから。





と思ったら、目を覚ませば、そこは病院だった。
他人を巻き添えにして、自分だけ助かったらしい。




しかも、その巻き添えにされたのが、組長さんだった。
怖い兄ちゃんたちが銃口を彼に向けた。

こういう最期だったし、何発も撃ち込まれたものだから、
かれはあまり美しいものにはなれなかった。
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