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200

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正直5p~10pにするには長いと思いますので、描いてくれる方いらっしゃれば
ネーム作り用に短くしたりできます。とりあえずふいんき(何故かry)だけ感じていただければ

それと105号(真)の785さんありがとうございました
「200」

とある少女の部屋。パジャマ姿の少女が新聞記事を片手に電話をしている。
ミカは受話器の向こうの相手に、つい最近知った怖い話をしてみることにした。
「最近ね、こんな噂があるの。知ってる?」
「何?どんなの?」
「呪われたお話があってね、それを聞くと死ぬより酷い目に遭うらしいんだ」
「死ぬより酷い目?」
疑問符のついた答が返ってくる。ミカの唇は蒼ざめていた。
しかし、彼女にはこうするしかもう残された道はないのだ。
「本当に、死ぬより怖い目に遭うんだ」
「何?ミカ、もしかしてその話知っててビビっちゃったとか?」
受話器の向こうから馬鹿笑いが聞こえる。
ミカは体の震えを押さえるようにぎゅっと縮こまった。
「××××××××××××」



ざわざわと警察署前に人だかり。
「おら!いつまでもダラダラしてないでとっとと外いけ!外!」
警察ではいま未曾有の大混乱となっていた。
中年の貫禄ある初老の警部 別府司郎(べっぷ しろう)が若手の刑事達に檄を飛ばす。
刑事達はいそいそと支度をして外に飛び出していった。
「別府警部、マスコミがまた来ていますが」
「知らん!調査中といっておけ!俺も調べに出る!」
若い女性職員はその叫び声にびくっとした。
「あ、いや、すまん。気がたってな。テレビ屋は丁重にお返ししてくれ」
「は、はい……」
半分なみだ目で去っていく彼女を見て別府は深くため息をついた。
なにしろあちらこちらで人が死んでいる。正確に言えば、殺されているのだ。
数ヶ月前に確認しうる最初の被害者がでてから現在で既に死者数十人。その全員が体中をめちゃくちゃに切り裂かれて死んでいる。
こんな狂気の沙汰、まともな人間にできるはずもない。できるはずもないのだが手口は同じ。
そして多くが自分達の管轄内、遠くても隣の県までしか及んでいないのだ。
検死課の話では「全ての死体がほぼ同一の力で切り裂かれている。」との事。
しかし、彼の経験上そんなことをしでかした人間は一人としていない。
「いや、もう人間と言うべきではないな」
彼はぽつりと言うとデスクの上に乗っている写真たてを見た。
そこには彼と同年代ぐらいの女性、そしてかわいらしい十六歳ぐらいの少女が写っていた。
彼女は別府の愛娘だった。しかし2ヶ月前、この事件に巻き込まれその命を散らしていた。
「……父さんに任せろ。絶対に犯人を捕まえてやる」
別府はそういうと茶色いくたびれたコートを引っつかみ外に出た。


彼が向ったのはとある少女の家。彼女もまた、昨日この事件に巻き込まれ部屋で惨殺死体となっていた。
しかし、彼女には今までと違うことがひとつあった。それが彼をここに向わせたのだ。
それは、
「殺害される直前、彼女は電話をかけている」
別府はファイルを閉じると呟いた。
現場にいた刑事に手帳を見せて状況をうかがう。
手口は今までとまったく同じ。部屋にはカギ、窓も閉まっておりカーテンすら閉まっていたそうだ。
「また密室か。まいったな」
別府はやれやれ、と首を振ると刑事に渡された詳細に目を通した。

被害者 周防ミカ(すおう みか)
死体の状況
全身に数十箇所の切り傷。死因は失血によるショック死。
被害者は死の直前まで右手に持った電話で知人と会話をしていた。
また、左手には昨日の夕刊を握っていた。

「電話の相手は?」
「はっ、被害者の持っていた電話は既に壊れていたため、只今電話会社に調べさせています」
「ふむ、それと昨日の夕刊を頼む」
別府は新聞を受け取ると一面に目を落とした。
そこには若い男性がやはり惨殺死体で発見された事件載っていた。
「二日続けて、か。珍しいケースだが今までもないわけではなかったな。が、ガイシャがこの記事を持っていたのは……」
「あ、警部。それは恐らくガイシャがその男性と恋愛関係にあったことが原因では、と思われます」
「何、ソレは本当か!」
「は、はい。被害者の母親も語っておりました」
それが本当だとしたらすごい繋がりだ。別府は行く末に希望を感じた。
ちょどその時、刑事の携帯に連絡が入った。
「はい…、はい、はい、分かりました。ご協力感謝します」
ぴ、と軽い電子音を立てて携帯を切ると、刑事は別府に報告した。
「被害者が電話していた相手が分かりました。今から私が聞き込みをしてきます」
「いや、俺が行く。場所を教えろ」
別府はいてもたってもいられない気分だった。このつながりは確実に真相につながっている。
ついに犯人を捕まえられるかもしれないのだ。
場所を聞くと、別府は急いでそこに向った。幸い場所は近い。年老いた自分でも走っていけば10分とかかるまい。

「私は刑事だ!話をさせてくれ!」
別府はドンドンと扉を叩いた。
ここは昨日の被害者、周防ミカが最後に連絡を取っていた相手の部屋前。
彼女の親に了承を得て家に入ったはいいものの、
肝心の彼女が部屋から出てきてくれない以上どうしようもない。
電話の相手、加藤ナナ。昨晩、ミカとの電話以降部屋から出てこないらしい。
「頼む!話をさせてくれ!」
「帰ってよ!」
と、扉の向こうからヒステリックじみた返答がする。
この様子、おそらく重要な何かを知っている。別府の手に力がこもる。
「お願いだ!君の親友も死んだ!私の娘も死んだ!沢山の人間が死んだ!
終わらせるんだ!君はそのための何かを知っているはずだ!」
「……」
がちゃ、と部屋の扉があいた。


「ありがとう、話してくれるんだね」
部屋に入る。ずいぶんと女の子らしい部屋だ。娘の部屋もこんな感じであった。
と別府は思った。
机をはさんで座るやつれた少女、加藤ナナ。
元気そうにしていればかわいいだろう彼女がここまでやつれている。
親友が死んだ、というだけではないだろう。
ならば真っ先に電話をしていた彼女が警察に連絡をいれるべきである。
しかし通報があったのは被害者の母親から。
おそらく、加藤ナナは事件の根幹に関わる何かを握っている。
「いったい、なにがあったんだ」
「……けいじさん、」
ぼそぼそ、と聞き取りにくい声で彼女は言った。
「このじけんにかかわらないほうが、いいよ」
「……やっぱり、何か知っているんだな」
彼女はより一層深く俯いた。
「頼む。教えてくれ」
「……死ぬより、怖い目に遭うの」
「何がだ?」
「言えない!」
加藤ナナは恐ろしい形相でそう叫んだ。
「言えない!これ以上は、絶対!」
「何か、あるんだな」
彼女はそれきり黙りこんでしまった。


「ふぅ、結局大きな成果はなしか」
加藤ナナはとりあえず重要参考人ではあるが、現在の精神状況から取調べは先送りとなった。
とりあえず自分の携帯の電話番号だけ渡しておいて、
何かあったら連絡するように言っておいたが、
別府がそんな事を考えていると、ピリリリ、と携帯がなった。
「ん、はい、もしもし」
「……わたしです」
「ナナさん」
電話の相手は加藤ナナだった。話す気になってくれたのだろうか。
「けいじさん、怖い、怖い話があるんです」
「怖い、話?」
「……」
ブツン、と電話は途切れた。怖い……話?


同日の夕方、大惨事が起こった。
「駅前で数百人が死亡だと!!」
別府の思考は真っ白になった。数百人?いままでの死者の数倍だぞ?
「それに、各地でも同様に死者が出ているようです。
現在の報告では、124件。まだまだ増える勢いです」
馬鹿な…、いったいどうなってる。一度にこんな数が死ぬなんて……。
マスコミが情報をよこせと騒ぎ立てる、がこっちにだってわからんのだ。
とにかく、現場に向おう。
コートを引っつかんで再度外に出ようとする別府をとめて別の刑事が報告をした。
「電話で確認しました死者は現在で182人で一度止まりました」
「ありがとう。引き続き待機してくれ。」
ちっ、と舌打ちをする。一体何人が死んだ。


「これは……、ひどいな」
吐き気がするほど血の匂いが広がっている。駅前はまさに惨状だった。
「警部、生存者の確保が終了しました。目撃者を探しましたが、こんな場所でのこんな事件にもかかわらず、ゼロです
恐らく全てを知っているのは生存者の200人しかいないでしょう……」
「200”しか”なかっただって!?200人も見てるんだ!!落ち着かせて少しでもいい、事情を聞き出せ!」
ほんとうにはらわたが煮えくり返るような気分だ。こんなことをできる人間がいるのか……
その時、携帯電話がなった。加藤ナナの母親だった。
「ナナが……、ナナが……」
別府は頭の中をすっと冷たいものが流れていく感じを覚えた。また、なのか……
「わかりました。今から向います」


加藤ナナの部屋に入る。部屋の中心でズタズタになっている少女。いや、もはや本当に人かと疑いたくなるぐらいだ。
別府が部屋に入ると、机の上に封筒が置いてあるのが見えた。手にとると、宛名のところには彼の名前が記されていた。
下には、「死ぬ前に真実を書いておきました 絶対に開けてはいけない」と書かれている。
これが、真相?この事件の?震える手が封筒を開けようとする。
しかし、絶対に開けてはいけない?どういうことだ。真相が中にあるのに開けてはいけない、だと?
とにかく、いったん署に戻るか。


「あ、警部。駅前以外の死者ですが、199名だそうです」
「あぁ、わかった。……199だと?」
「えぇ、そうですけど」
199人?加藤ナナを加えれば200人だ。200人……だと?
「生存者は何か喋ったか?」
「いえ、皆口を閉ざしています。それも頑なに。何故かはわからないのですが」
「生存者は、たしか200人だったな」
「え?あ、はい。たしかに」
この奇妙な一致、ただの偶然か?真実に近づけば近づくほどそこはとても暗い。
真相はただ、この封筒の中に。




別府は屋上に上って、封筒の封を切った。
彼は真相とついに向き合う運びとなる。
そして、知ってしまった。本当に、怖い話を。

周防ミカの死。その前日のミカの彼氏の死。ミカと電話で話していたナナの知った恐怖。

怖い話。死ぬより怖い目に遭う。

駅前での大量惨殺。駅前での200人の生存者。あらゆる地域での200人の死亡。そして、ナナの死。

ぴりりり、ぴりりり、ぴりりり、ぴりりり、

ぴ、

「警部!生存者の一人が今!少し目を放した隙に!!」

誰も真相を語りたがらないわけだ。
別府は知らぬうちに携帯を取り落としていた。
別府の番が来るまで、あと200人。
9

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