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 へフナーベースを弾いてる。弦はビニール縄跳びのようなものでできていて赤色だった。ストラップもそのひもで、ボディは驚くほど軽かった。シールドも赤い、けどアンプには通ってなかったと思う。
 僕は自宅の玄関前の小さい引き戸の押入れの前でベースを弾いている。たくさんの知り合いが居て、それでたしか飲みに行くとかいかないとか、もしかしたら行っていた。けれどそんなことは関係ない。僕はたしかにベースを弾いている。
 記憶の中にそれは無かった。ただそれだけをしていれば一日が充実していて他の事は抜け落ちているような生活。もしかしたら僕にもそのような日々があったかもしれない。けれどその感じは思い出せない。だが今僕は確かにそういった気分でベースを弾いてる。
 その押入れで見たとき最初はただヘフナーかとだけ思った。次に物質によって満たされる気持ち、そして最後はベースを弾いているというだけの感慨。ポールマッカートニーは頭のなかには居なかったし、別にビートルズの曲を弾いたりするわけではない。そのやわらかい弦をめいいっぱいスライドさせて右手ではじく。そうするともはやベースを弾いているというだけで頭がいっぱいで他には何も存在しなかった。
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