「おい、どこでそんなにいい筋のパンチを習ったんだ……」
「見に来るの遅すぎ。もう終わる直前だったじゃない」
俺は強打された頬をさすりながら、葵をちょっといじめてみた。
「そんなに見てほしかったのか?晴れ舞台」
「ばか……」
そそくさと一人で教室から出て行ってしまった。
さすがにやりすぎたか?やべ、機嫌悪くさせると――。
俺は脇目も振らず葵の後を追って囲碁部の教室を飛び出した。
大股でつかつかと音を立てて歩き去っていく後姿を見て、軽く苦笑がこぼれた。
葵は少しちらと後ろを確認するように振り向き、俺と目が合った瞬間すぐに視線を前に戻した。
なんだよ……追って来てるのか確認したのか。意外と可愛いところもあるんだな。
「葵!」
呼び止めるとピタっと足を止めて振り向く。表情はまだ怒ってそうだな。
なるべく近くまで歩を進め対面する。少し紅潮した感じのほっぺがまた凶悪だ。
俺はそのまま葵の横を通り過ぎて歩き去る。通り過ぎたとき、小さく驚きの声を漏らしたのは聞き逃さない。
ちょっと抜かしたところで振り向き、軽く右手を手を差し出して。
「早くネットカフェ行こうぜ!」
「……ばか。――言われなくても行くわよ」
最初の方は小さすぎて聞き取れなかったが、何とか許してくれたみたいだな。
離れないようお互いに力強く手を握り合う。って、なぜ!?
「あの……手を繋いだまま行くの?」
「あ」
そこまで言うと顔を真っ赤に爆発させ、思いっきり腕を振りほどく。
俺はただ苦笑するしかなかったが、葵はこっちが熱くなるくらい顔を赤めている。
はぁ、扱いに困るな、こいつ。
未だ放心状態の葵の背を押す感じで学校を後にした。
「ここよ、学校や家から近いでしょ」
何とか回復した感じな葵だが、まだ少しフラフラしている。
なるほど、ゲーセンの2階にこんなもんがあったのか。
灯台もと暗しっていうか……俺もともとここ知らなかったか。
俺は募る好奇心を抑えるので精いっぱいだった。
騒々しいフロアを滑るように俺たちは進んでいく。
傍から見ればおかしなカップルに見えただろう。――カップルに見られるのか?
そんな関係ないことを考えながら、俺は階段を上っていった。