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第3話『乗り換えだって必要なのに』

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 あ~…気分が悪い。昨日親父に怒られたからな…後遺症(?)が残ってるんだろ。とりあえず、時計確認。7時30分。え?7時…30分……だと………?つまり、簡潔に言うと、寝坊したァァァァ!!ヤベェ、どうしよう!と、とりあえず歯磨きしながら着替えだ。そうだ、器用な俺ならできる!信じれば、できる!!ギャアアアアア!!できなかった、信じてもできなかった!ボタボタと部屋のカーペットや制服につく。親父に見られたらどうしよう…アイツ極度の潔癖症でもあるからな~…性質が悪い。あぁ!考えるのはあと!よし!支度完了!今は、7時55分。ヤベェ、ウチの学校は8時10分登校完了のはず。家から学校までは歩いて20分、走って15分。走るしかねぇ。そ、その前に飯!急いで下に駆け下りる。
 良かった、今日はパンだ。これなら少女漫画のベタな展開みたいに食べながら学校に行ける。
「母さん!これ貰ってくよ!」
「ちゃんと食べてから行きなさい!」
「遅刻するんだって!!」
「あら、まあ…」
あら、まあ…じゃねえ!何で起こしてくれなかったんだ!?帰ってから問いだそう。7割方親父の指示だろうけど。ゲフッ!?ゴフッ!?ゴフッ!!パンくわえて走ると息できねぇ…失敗した、こりゃ…あぁ!もう!最低でも遅刻しなきゃいいんだ!最悪学校で食えばいい。担任は軽い人だからな、大丈夫だろう。
 やっと学校に、教室に着いた。遅刻は何とか免れた。右手には通学鞄、左手には程よく焼けたパン。俺一体どんな格好で登校してるんだよ…
「ど、どーしたんだ?お前」
俺の右斜め前の席の充が言う
「ハァ…ハァ…寝坊…して…ハァ…ハァ…」
「わかった。それ以上言うな。なんだかこっちまで疲れてくる。それとパン食っちまえ」
「ど、どーしたの!?」
今日は戸田、ではなく、戸田と仲の良い千倉慧子(ちくらけいこ)が話し掛けてきた。
「へほうひへ、ひほふひほうひはっははは」
「え?な、なんて?」
「寝坊して、遅刻しそうになったから、だとよ」
「そ、そーなんだ…大変だね。」
千倉と充のたわいのない話を聞きながらパンを食った。こいつらデキてるんじゃないだろうな。
 ホームルームを告げるチャイムが鳴った。今日は遅刻しそうになったけど、なんとか乗り切った。絶対親父が母さんに命令して今日起こさせなかったな。どうせ「自分で起きるくらいの事させろ。そうやってお前が過保護だから、子ども達がダメになっていくんじゃないか」とか言ってたんだろう。勝手に人のことをダメ人間扱いすんじゃねぇ。あぁ!朝から腹立ってきた!!
「二見?」
「お、おう?」
急に戸田が話し掛けてきた。
「春田と慧子って付き合ってるのかな?」
あぁ、そのことね。俺も気にはしていたが、あまり興味はない。
「さぁ?どうだろう。そんな話聞いたこともないからな~」
「だよね。でも、なんかいい雰囲気じゃない?今朝も仲良さげに話してたし。」
「もう、戸田がくっつけちゃえば?」
「は!?無理だし!!そんなの絶対無理だし!!」
そこまで、否定するかね。キミは…でも、充にとっては絶好のチャンス!!頑張れ充!!
「だって、慧子好きな人いるって言ってたんだよね~」
え?いるんですか…でもそれが充って可能性も
「それにこのクラスじゃないとも言ってたし」
ハイ!なくなりました!!キレイサッパリなくなりました!!
 ホームルームが終わった。俺は充の席に直行した。
「充、お前は全然悪くないぞ」
とだけ言っておいた。
「は?何が?」
と言われたが、さっきの戸田との会話を言えるはずもなく、スルーしておいた。
 
 なんやかんやで放課後

 放課後、千浩たちに遊びに誘われたが、夜の親父への対策が大事だと思い、帰宅した。
「ただいま~」
「おかえり」
今日の朝の事を母さんに尋ねると予想的中した。「自分で起きるくらいの事させろ。そうやってお前が過保護だから、子ども達がダメになっていくんじゃないか」と言われたらしい。朝はだいぶ機嫌が悪かったらしい。ウチの親父は朝、機嫌が悪いと高確率で夜も機嫌が悪い。そのため、朝のアイツの機嫌は夜平和に暮らせるかどうかに影響してくる。今日は危険と察知し、自分の部屋、リビング、キッチンを全力で片付けた。だいぶ、キレイになった。が、その努力も無駄に終わった。
 なんと、今日の夜。親父は飲んで帰ってくるそうだ。その電話がきて、切れた瞬間、俺と妹は喜んだ。神は俺達家族を見捨てなかった。とまでは言い過ぎか。
 おかげで今日の夜は楽しかった。勉強だって一分もしていない。なぜなら自分の部屋にこもる必要がないからだ。
「平和だね~」
母さんが言った。
「当たり前じゃん。パパいないんだから」
「美紗、まだお前『ママ、パパ』って呼んでんのか?小6だろ」
「別にいいじゃん。お兄ちゃんには関係ないじゃん」
紹介が遅れた。コイツは美紗(みさ)。俺の妹で今年で小6だ。前にも言ったと思うが、美紗は俺よりできる。勉強もスポーツも。去年なんか小5で陸上経験ナシで100M走で県大会に行った。勉強だって、学力テストで最低点数が88点だった。目を疑った。しかし、その裏には安堵感があった。美紗がこんなにできるなら親父も俺より美紗に期待するだろうと。それでも親父は俺にプレッシャーをかけ続けた。一度、
「俺より美紗のほうができるから、美紗を東大生かせればいいじゃん」
と、言ったが
「美紗は女だから、ダメだ」
と言われた。その時、何がダメなんだ?女とか関係ないだろ。性別より、能力を見ろよ。俺より可能性が随分高いぞ?と思った。口には出せなかった。伝達力と勇気が足りなかった。言ったところで結果は見えてるけどな。それに俺はその期待に押し潰されそうになったが、いつも無視して避けてきた。これからもそうするつもりだ。
 だけど、たまに思う。普通に東大に受からず、普通のサラリーマンになったときに、親父からは何て言われるだろうかと。ぐちぐち嫌味を言われながら生きるのか、その日以降無視されていくのか。妥協してくれるという選択肢は最初から存在しない。
 親父が居ないというのに、嫌な事を考えてしまった。これから先の事は、先に進まなきゃわからない。今日はもう寝よう。寝れる時に寝とかないと、いつ親父に叩き起こされるかわからないしな。
 寝た、2時間後くらいに親父は酔っ払って帰ってきた。親父は酒に強い方だと思うが、今日は機嫌も悪かったし、ヤケになって飲んだのだろう。
3

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