チン人類の手記(再)
これはかくも珍しい多頭症チンパンジーについての手記である。私はその風貌や行動がどれほど奇妙なものかを語る前に、一つだけ忠告をしておきたい。それは、彼らもまた膨大なる資本主義のシステムの被害者にすぎないということである。彼らの先祖はバナナに含まれる農薬を体内に蓄積し続けた結果このような種を生み出すに至った。我々は何がそれに至らしめたのかをまず考えなければならない。
彼らの主食はバナナである。彼らはその他のものをほとんど口にしない。これは遺伝子あるいは環境によって条件付けられた性質によるものである。また、一説によると右脳と左脳が分割され二極化されてしまい、彼らが考えうる最大限の記号情報が”バナナ”なのだと言う。特にこれらは昨今よく口にされる”スーパーマーケット型多頭症チンパンジー種”に顕著である。
彼らの食習慣はおよそ風変わりなものである。まず彼らはバナナの皮をむく時に最大限の注意をもってこれを行う。専門家が言うには彼らはいかにしてバナナの皮を分割するのかに執着しているらしい。彼らはそれが四つに分かれて剥けたことや全く分かれないまま裂け目から実が出ているのを仔細に眺める。時には摂食行動すら放棄してそれを続けることもある。
また、彼らはバナナの皮の模様がいかにして変化するかの原理を知らないためか、その皮がどれほど鮮やかな色をしているかに固執し、収集する。そして彼らはその皮を襟首に巻きつけて自己の存在を顕示しようとする。しかし彼らは次第にその皮の色が浅黒くなっていっても自分ではそれが全く見えないのでほとんど気にしないのである。
彼らはその複数の頭同士で罵り合うように叫んだかと思うと、ある時は頬擦りをし、更には接吻に至る時もあると言う。その間に彼らの首から下はほとんど動くことが無い。彼らの腕はバナナの捕食あるいは選別行為のみにしか動くことが無い。
とある研究者は彼らにタイプライターを叩かせる実験を行った。最初はタイプをする度にバナナを与え、次第に文字列が形成された時のみ与えるようにする。もちろんそれはシェイクスピアを書かせるには至らなかったが、しかし偶然にも一文を完成させた個体が存在したらしい。最後にその文章を掲載してこの手記を締めようではないか。
「洗練とは奇形化である」