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YAMAKIO

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ベタが死ぬ


身体が横たわって上を向いたその鈍いレンズが映す絵とはどんなものなんだろう。

 日がな一日小さな立方体の水槽の隅に沈んでいる。ときどきその豪奢な尾ひれを揺らして水面まで上がってきて空気を吸う。近くまで寄って見るとその肉感を感じさせる頬をわずかに膨らます。

 もう餌をあまり食わなくなってから大分日が経つ。以前は5,6粒の餌を与えるとすぐにそれをつつくようにして平らげたものだった。今では2,3粒でも食べない時がある。食べなかった餌は最初は水面に浮いているがだんだんと水分を含んで沈んでいく。そのまま何日か放置しておくと餌の周りに胞子のようなものが付いてくる。あるいは餌の成分が八方に拡散しているのかもしれない。それが蛙の卵のように見えて、もしかしたらベタの卵なんじゃないかと面白半分で思うが、あまり衛生上良くないだろうから網ですくって捨てた。

 誰かがその姿を見て太りすぎで動けないんじゃないかと言った。そう言われれば確かにそう見えるし、怠けていて動かないようにも見える、重そうな瞼のせいでなんだかやる気の無いような表情をしているし。

 そう考えてたらなんだか楽観的な気分になってきた。1年くらい経つしもうどうせしばらくしたら死んでしまうのだろう。今のうちに写真でも撮っておこうか、それともベタをジャケットにしたあのレコードでも買って部屋に飾ろうか。まさにベタの永遠化である。けどそれをやってしまったらベタを殺すことと同じだろう。永遠化とはなんとも死と似たような響きだ。
喉が枯れる


たぶんこのまま今のようなことを続けたら仕舞には声が出なくなってしまうだろう。

 腋臭なのかそれとも芥子のような調味料なのかがよくわからない鈍い刺激臭、それと作業着を着た労働者達の埃の匂い。それらにまみれた空気の牛丼屋でぼんやりとそんなことを思っていた。隣の席には二人の少年、顔が見える方は黒い上下のスウェットがゆったりとその白くて細い体躯を隠そうとしていた。こけた頬の上に載せたようなギョロギョロとした目玉で周囲を威嚇しようとするのがなんとも情けなく思える。知性を見せないジョン・ライドンだ。

 僕らの机だけ時間が止まったような雰囲気をもう一度動かそうとして何か話しかける。どうにもこのバンドのメンバー達と居ると先が見えない感が拭えない。何度もセッションをしても音がまとまる様子がなく、僕のがなり声はただ虚しく安っぽい練習スタジオの天井に逃げていく。おそらくは自分の責任もあっての結果なのだろうが、それにしても周りの彼らはそんなことを全く感じさせない。無理やり話面を合わせようと口に出したジャンルやバンド名がそのままの形で辺りに響く。

 こういった出来事がずるずると日々を引きずっていく。誰かに声をかけようとするが思ったように自分の声が出ず、相手は気づくこともない。だんだんと変わっていく声に愛着を覚える、自分の声は前から嫌いだった。しかしもし人間の活動が何かのコンプレックスの裏返しだとして、そのコンプレックス自体が消滅したら活動のエネルギーは失せていくだろう。そうすると薄ぼんやりと先のことが見えてくる。

 恐れや不安といったものはだんだんと僕に何も感じさせなくなってきた。ときどきそれがあることすら忘れてしまったりする。けれどいつだって見ようと思えばそれだけは見えた。
7, 6

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