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先祖より脈々と受け継がれてきた、輝かしい輝き

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☆2

「あれ、おかしいな……」
 しかし、踏み切り近くのくさむらの中を探せども探せども、女性の首なし死体なんて出てきやしない。
「やっぱりバラバラになっちゃったんじゃないの」
「いや、どこかにあるはずです。確かに見たんですから」
 彼女はオレの腕の中でショートカットを揺らして、首だけなのに頑張ってあたりを見渡している。
 ふと気づくとバケツを持った駅員風のおじさんがオレたちと同じようにくさむらのあたりをうろうろしている。
「すみません、さっきここで飛び込みがあったと思うんですけど、その死体ってもう片付けちゃいましたかね?」
「キミ不謹慎な質問するねえ。いやね、さっきから探してるんだけどどうにもパーツが足りなくて……」
「パーツって、もしかして頭ですか?」
「そう、頭」
 ああ、やっぱりと思う。しかしおじさんはさらに続けて、
「それと、腕と脚と胴体と……ほとんど見つかっていないね。もしかしたら飛び込んだのは幽霊だったのかもね」
 いや、それはないと思うけど言うに言えない。
「じゃあ、見つかったパーツってなんですか?」
 おじさんは白い布を取り出す。
「見つかったのはこの下着だけだね。スーハースーハー」
「なんでパンツの匂いかいでんの!」
「男ってのはね、いくつになっても隠された宝物を探すトレジャーハンターなんだよ」
「おじさん……!」
 感動した。そうだ、いつだってオレたちは何かを探して生きてきた。今だからこそ、探すべき宝物はあるんじゃないか?
「おじさん、オレも探すよ――手が!」
「何馬鹿なこと言ってるんですか!」
 見ると顔を真っ赤にした首子がオレの手に歯をたてていた。
「そ、そうだな……ありがとう、お前のおかげで目が覚めたよ。この戦いが終わったら故郷に戻って結婚しよう」
「ヘンなフラグ立てようとしなくていいから、ほら!」
「おうおう、おじさん! そいつをこっちに渡してもらおうか!」
「え……なんでキミに渡さなきゃいけないんだよ」
「そ、それもそうだな……」
「こういうの欲しいんならしかるべきところに行きなよ」
 下着を売ってそうなところ……
「ジャスコとか?」
「いや、ジャスコには売ってないだろう……もっとほら、アングラっぽいさ」
「ドンキホーテとか?」
「いや、売ってそうだけど売ってないよ!」
「えー、じゃあいかがわしい下着屋? ああいうところで売ってるやつって使用済みとかそういうのじゃないの? オレああいうのヤダなー」
「ああ、うん、そうか……」
「それならまだ着用済みセーラー服とか――手が!」
「いいから殺れ!」
 という号令が聞こえたのでとりあえずおじさんにドロップキックをお見舞いしておく。
 見事顎に命中。確かな手ごたえがあった。
「これは危険です! 下手をすると顎の骨が砕けていてもおかしくない。しかしレスラーたるもの、その程度でダウンしていては通用しません。みてください、おじさんが立ち上がろうとしています!」
 首子の実況がひびく。
 立派なレスラーであるおじさんはなおも闘志十分の構えでこちらへ向き直る。だがその足元は怪しい。先ほどのドロップキックによる衝撃が抜けきっていないようだ。
 勝負をかける!
 走り出すオレ。
 だがそれはおじさんの罠だった。
 弱ってなんかいない!
 レスラーはいつも、ダメージは覚悟しているもの! そして、カウンターを準備しているもの!
 瞬間、重力を失う!
「出たァァァァ!! 駅員のおじさん必殺の原爆落としだァー!」
 担ぎ上げられて、投げ飛ばされる。背中に衝撃がある。二度、三度、バウンドしたように感じる。
 気づけば二人は踏み切りの中にいる。
 かんかんかんかん警告音が鳴り響いている。
 トレインマッチか、面白い!
 おじさんは勢いよく拳を突き出してくる。
 その勢いをかわして、おじさんの巨体を一気にかつぎあげる!
 パワーボムだ!
 しかし、ああ、なんということだろう! おじさんは空中で身を捻り、ほぼ逆立ちのような状態にまで身体を持ち上げて、オレの首に手を回しフライングネックブリーカードロップで返す!
 背中から砂利の上へ叩きつけられる。衝撃が上半身を貫き、肺から息が強制排出。
 なんという身体能力! やはり、このおじさんただものではなかった!
「ぐぅっ……」
 おじさんの巨体が鉄柵をよじ登る。
「まずい、このままでは……!」
「ここで突然ですがコメント返信の時間です!」
>[1] 期待。そういえば首だけの恋人?が出てくるようなゲームかなんかあったな <'2008 09/28 15:07> 9ICGp9J0P
「韓国製の生首育成美少女ゲームTomakのことですねhttp://park12.wakwak.com/~pusai/sekai/tomak01.htm。飾り立てたりなでなでしたり、そうして親睦を深めてハッピーエンドへ向かうゲームのようです。わたしもこんなふうに大事に扱ってもらいたいものです」
「得体の知れない生首の死体捜索に付き合ってやってるだけでも感謝しろよ」
「死体じゃないです! まだ生きてます!」
「身体の方はさすがに死んでるだろ……」
「首が生きてるんだから身体が死んでるとは限らないです! ほら、戦闘に集中して!」
 そうだった。今やオレは絶体絶命のピンチ。
 おじさんは鉄柵の上で両手を真一文字に広げ、フィニッシュブローの予備動作の真っ最中だ。
 向こうからはこちらへ猛スピードで向かってくる特急列車。そのヘッドライトが視界に飛び込んでくる。
 そこでオレは思いつく。この事態を打開する方法を。
 だけど、それは奥の手だ。場合によっては全てを失う可能性すらある。
 だけど、
 首子の方をちらりと見る。わくわくした表情でおじさんのことを見ていた。死ね。
 決定。あいつしばくまでは死ねん。
「うおおっ!」
 オレは頭頂部に手をかける!
「た、ただおさん、まさか!」
「貴様……!」
 やるしかない。
 やるしかないんだ!
 オレの手が頭頂部を覆っていた拘束具を勢いよく取り去る! 特急列車の光が乱反射。瞬間、あたりは光に包まれる。遺伝の力によって祖父から父へ、父からオレへ受け継がれてきた神秘の光が解き放たれる。
 叫ぶ!
「バルスwwwwwww」
「目が!」
 鉄柵から落ちるおじさん。いまだとばかりに駆け寄り、足を掴む。
 トドメだ! とんでけ! ジャイアントスイング!
 おじさんまっすぐ線路へダイブ、丁度通りかかった特急かいじがおじさんの肉体を秒でミンチ。それがトレインマッチ敗者の末路。
 おじさん……あんたは優れたレスラーだったよ。だが、日本では二番目だった。
 オレは路上に放置されていた首子の下へ歩み寄る。
「ただおさん、さすが――きゃぁっ」
 首子の頭頂部にチョップ一閃。
「お前、最後の方はおじさんのこと応援してただろ!」
「だってわたし、ヒールレスラーは嫌いなんです……」
 誰がヒール! 喰らいやがれオレの怒り!
「でゅくし!」
「あ痛!」
 抵抗できない首子は抗議の声をあげるが、オレは攻撃の手を緩めない。
「でゅくし! でゅくし! でゅくし!」
「やめてください! やめてください!」
 彼女は大声を出す。周囲の民家の窓がいくつか開かれる。この夜中に路上で繰り広げられているランチキ騒ぎを不審に思ったのかもしれない。下手すると赤い光をともなった白黒車とともに国家権力が参上してしまうかもしれないので、ここらでやめにしておく。
「はうう、酷いですー……」
 首子は真っ赤な顔で涙目になっていた。
 もう少しくらいいじめてやってもいいかもしれない。
「よし、じゃあオレは帰って寝る。お前も明るくなる前に帰ってこいよ」
 すたすたと歩き出すオレ。すると彼女は不満げに、
「ただおさーん、勘弁してくださいよー。こちとら生首なんですよー。思いやりをもって接してくださいよー」
 生意気なヤツだなんて思いながら、それでも足を止めない。
「えぇっ、ちょ、ちょっと、ホントに待ってくださいよ!」
 それでも構わず歩いていこうとすると、
「え、ちょっと、ごめんなさい! なにか気に障ることしたんなら謝りますから! 置いてかないでくださいよーう!」
 立ち止まり、くるりと踵を返す。安堵している彼女の顔が目に入る。が、そこでやっぱり立ち去る素振りを見せると、
「あぁっ!」
 なんて声をあげたりして。
 カワイイところもあるじゃないかと思いながら、足早に駆け寄り、彼女のことを抱き上げる。
「やめてくださいよう、驚かすのは……」
「悪い悪い」
 オレの家に向かって歩き出す。しかし、なぜだか知らないけど、オレが通りかかるたびに犬に吼えられたり、民家の窓が開いたりする。
「あ、あの……」
 彼女の視線がちらちらとオレの頭頂部あたりへ注がれている。
 ああそうか。そういえば、拘束具を戻し忘れていた。道理であたりが明るいと思った。落ちていた拘束具を拾い上げそっと頭頂部へ戻し、オレは呟く。
「男には誰にでも、秘密の一つや二つ、あるもんだ……」
「あの、でも……ただおさん、とっても輝いてましたよ!」
「輝いてたとかいうな!」
「えー、励ましてるんですようー」
「ハゲっていうな!」
 夫婦漫才ひとしきり。
 オレたちはもう一度線路周辺を見渡す。
「しかし、回収されていないとなるとわたしの体はどこへ行ってしまったんでしょう?」
「それは謎だな……」
「腑に落ちないですねえ……腑なんてもうないけど」
 うまいこと言ったつもりか。
「申し訳ないんですけど、一緒にわたしの体を探してはもらえないでしょうか?」
「探すよ。なんだかよくわからないけど、乗りかかった船だ。できればすっきり終わらせたい」
 それに。
 キミがいったいもともとはどういう人で、どうして電車になんて飛び込んだのか、オレはそれを突き止めたい。
 なんてことは胸の中にしまっておいた。クサいから。
 困っている女の子を助けるのは、悪いことじゃない。そうだろう?
 そのときのオレは、そういう風にこの事件のことを酷く簡単に考えていた。
 そう、オレはまだ気づいていなかったんだ。
 この事件が、地球の存亡をかけた戦いになっていくなんて。
「そういえばクロレラが頭髪に効くっての、嘘らしいですね」
「やめて! この世の醜い真実を暴かないで!」
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