「――だからですね、私は思うわけですよ。今の若者、いや、今の世の中ってヤツがですね」
「…………」
「意味がわからないでしょう? 本人たちはそりゃ……こんなもんにね、なんか……なんていうんでしょうか。欲情? 欲情っていったらおかしいですか? まぁこんなもんに夢中になってるわけですよ。現実の女が嫌だとかなんとか……。だからってねぇ、こんな人形に走ることはないでしょう? 脆弱というかなんというかね、そのへんどう思います、加藤さん?」
「まぁ、そうですね。彼らがそういう二次元、いわゆるゲーム、アニメ、それからあと……そこにあるフィギュアですとか、そういう空想の人物像、架空のキャラクターに依存するというのは端から見ると異常には見えますよね。ですが、彼らにとってそれらの少女像というかキャラクターというか、そういう理想の少女というのが彼らには見えているわけなんですね。自分を傷つけない、自分だけ見てくれる、自分にとって都合にいい少女がこの世界にはあるわけです。まぁ本人の今までの人生観、性格にもよるんでしょうけど、仕方ないという見方もありますね」
「そうですかー。いや、私には理解できませんねぇ、ホントに。昔はそんな、ねぇ? 好きな女の子には勇気をもって告白してましたよ。そりゃフラれたらつらいですけどね? それでもみんながんばってね、いや成功したとしても、ちゃんと女の子とは付き合ってましたよ? ケンカもしたし、嫌いなところだってありましたしね。人と人なんてねぇ、一緒に時間を過ごしてからお互いのいいところやいやな部分をわかっていって、その上で付き合っていくんですから。それがこんな都合がいいからって、こんな人形や漫画なんかに一生懸命になるってもうそんなねぇ。わかりませんよ」
「まぁ、そうですね。結局は先ほど野(の)見(み)さんがいったように心が弱いんだと思います。まぁようするに女の子と付き合う、あるいは告白するだとか、それぞれに伴う『失敗』が怖いんですね。傷つきたくないんですよ。だから、傷つくぐらいなら女の子とは付き合わない。だからこういう空想に走ってしまうんですね。まぁだから免疫がないぶん、性の対象も自然と空想よりになって、こう、ストレス解消ですとか、マスターベーションなどの対象にもなっているんでしょうね」
「そうですかぁ……。そうですよねぇ。いい大人が『萌えー!』なんて。気色悪いったらありゃしない。いったいなにを見つめて生きているのかねぇ。おかしいと思いませんかみなさん? これが日本の若者ですよ? こんな人形に、『エリィザちゃぁん』なんて言ってる。いやもうホントに、同じ日本男児として恥ずかしいですね、ホントに」
「――すいませんちょっといいですか野見さん」
「ん? ああはい、美和さんどうぞ」
「はい、私は女として思うんですけど、正直信じられないですよねー。そもそもなんで漫画なんでしょうねぇ? 現実に女性なんていっぱいいるじゃないですか。それが傷つきたくないからって避けるなんて異常ですよね。全然わかりません」
「はっは。美和さんはどうですか? こんな男は」
「いやいやいやいやいや、ちょっとじゃないけど遠慮したいですね、ふふ。こんなねぇ、生身の女より漫画のほうがいいだなんて、許せませんよ女として。それに少し、生理的にも受け付けがたいですよね。こんなものの何が楽しいのかって、正直私は思っちゃいます」
「まったくですよねぇ……。いかがですか堺さんは」
「僕もやっぱりわからないですよねぇ。恣意的というかなんというか。人形は人形、現実は現実じゃないですか、やっぱり」
「ふんふん……。熊谷さんは」
「ま、僕も……子どもの頃は漫画のキャラとかに憧れてはいましたけどね。でもこの歳で夢中になるのもおかしいですよね。しかもなんか……すごく少女マンガみたいじゃないですか、これ。すごっ……なんていうか、僕が女の人だったら引きますねぇ……。速攻で」
「ねぇー……。ホントにそうですよ。熱田さん、どうでしょう」
「……むかつくよ。吐き気がするなぁ、ほんとに。情けねぇよ。大体なんだ? 『ご主人様』だぁ? バカじゃねぇのか。やるほうもやるほうだけどよ、喜ぶやつもバカ野郎だよ。あいつらどっかオカシイんじゃねぇかなぁ? ほんとにこんなヤツらが結構いんの? ほんっとに情けねぇよなあ。ここ呼んできて説教してやりてぇよ」
「そうですよねぇー、熱田さんの言う通り! 情けないですよこんな若者が……。これからの世の中背負っていくと思ったらねぇ……、ははっ。泣きたくなるってもんですよ」
「とっちめてぶん殴って目ぇ覚まさしてやったらいいんだよ」
「やりたいですよホントにねぇ。ねぇ加藤さん」
「ふふ……そうですね。でもそれらは男性だけではなくて、最近は女性にもその傾向があるともいわれているんですね。美男子の空想キャラクター同士のゲイというか、専門的に言うと『やおい』と呼ばれているんですが、そういうものも、オタクと呼ばれる女性たちの間では、そこはかとなく流行っているようです」
「ゲイ……。そんなホモなんか見てどうすんですか」
「いや、僕もあまり詳しくはわからないんですけど、性的興味の対象としてみる女性もいると聞きますね」
「……ますますわからない。ほらみてください、ほら。みなさん黙っちゃいましたよ、はっは」
「まぁ結論から言うに、彼らはヒヨコみたいなものなんですよ。大人になりきれていないんでしょうね。ありもしない妄想を描いて、それのために、欲望を満たすために行動している。現実を見れていないというか、いつまでも子どものままで居たいんじゃないですかね。だからああいうゲームの世界に入り込んでいくのだと思います」
「……ははぁ、なるほど。ヒヨコ。確かにそうですよねぇ。いつまでも幼稚なまま、ヒヨコのまま、ニワトリにもなろうとせずのうのうと妄想を貪っていると、そのまま世に出てしまったからああなったと。はっはぁぁ……、なるほどねぇ……――って、ちょっと待ってください? テレビの前のみなさん、わかりますか? これは危機ですよ! 日本の危機! 考えても見てください。こんな人形やらなんやらにホダされている文化の相場が、こんなに高くなってるんです。こんなものが世に常識化されたら、日本はダメになっちゃいますよ!? 一体どうなってるんでしょうかね。こんなのが許されるんですか? 私はこんな文化は危ういと感じますね。だってそうでしょう? ここに居る全員がおかしいと感じているんです。絶対におかしい。だから私は敢えて考えます。この文化は、死滅させるべき――」
ブツン。
ユウジはこの耳障りなテレビを消した。