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アカイ傘と心の歯車

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《アカイ傘と心の歯車》

雨の日に赤い傘を見ると、胸の中に感じるモノがある。
それは憐憫なのか哀愁なのか、それとも別のなにかなのかは分からないけど、僕の感情を確かに揺さぶる。
それはきっと、あの日、あの場所で赤い傘をさした少女と出会ったときから始まった衝動。


***

雨は嫌いだ。
傘を差さなければ濡れてしまうから。
雨は嫌いだ。
アスファルトの臭いに吐き気をおぼえるから。
雨は嫌いだ。
汚れを洗い流す救いのように感じるから。

交差点で信号待ちをしながら、空を眺めた。
街を覆い尽くして、そのまま世界中でも包んでしまいそうなくらいの曇り空。
そして、雨。
思わずため息がもれる。
コンビニで買ったビニル傘が風に煽られて頼りなく揺れる。
霧のような雨に傘は意味を為してくれず、僕の格好はすでに濡れ鼠のようになってしまっている。
家まで走って帰れば、二十分と少し。
傘なんて捨ててしまえばよかったのに、その時の僕は何故かそうしようとは思わなかった。

『オニーサン、信号かわってるよ』

物思いにふけっていたせいか、突然投げかけられた言葉に驚き、僕はその姿を探した。

『……ドコ見てんのさ?』

どうやら自分でも思っていたよりも随分と惚けていたらしい。
視線は下、腰丈よりも少し高い程度の少女が呆れたように僕を見つめていた。

『ぼーっとしてると風邪ひくよ?』

赤い傘をクルクルと回しながら少女は笑った。
ドクン、と心の中にある歯車が回り始める。

「雨宿りをしているんだよ」

沸き上がってくる感情を押し隠して、素っ気なく言い放つ。
その言葉に少女がまた笑った。

『こんなところで雨宿り?』

確かに、こんなところで雨宿りはないだろう。
風も雨も遮るものはなく、
車が通ればタイヤに巻き上げられた水が
足下に降ることもないわけじゃない。

でも、

「あぁ、雨にうたれながらの雨宿りさ。 オツなもんだろ?」

『変なの』

「そうだよ、僕はとびっきりの変人なのさ。
 だから、その変人に変なことをされる前にお帰り」

優しく、真綿で絹を包むように優しく、少女の目を見て伝える。

『オニーサンは変な人だね』

「そうだね、変な人だ」

少女の傘が回る。
その動きに合わせて、背負った赤い鞄が揺れた。
赤い傘に赤い鞄。
ワンピースだけが自身の存在を強調するように白い。
なんだか笑えた。

『雨宿りするならいい場所があるよ』

子供にしては、
というより子供だからか物怖じしない態度で少女は僕の手を掴み駆け出す。
その手を離さないよう、僕も走り出す。
少女の手は細く小さく、脆そうだな、なんてことを思った。


***

『ココ、私の秘密基地なのよ』

少女は宝物でも自慢するように胸を張りながら言う。
いや、実際の話、少女にとってココは宝物なのだろう。
バブル期に無計画に建設され、途中で廃棄された雑居ビルになる予定だった建物。
子供の秘密基地にしては上等で、そうでなければ学園にいるあのクズ共のような連中の溜まり場にでもなっていたことだろう。

『ココなら雨宿りしても濡れないでしょ?』

そうだね、なんて応えながら僕の視線と思考は一点を捉えて放さない。
薄い胸板、細い首筋、濡れたワンピース。
ドクン、と心の中にある歯車が回り加速する。
どこから溢れ出したのかわからない情動。
止めようなんて思わないし、くだらない。
別に最初からそんなつもりじゃなかったし、ただの思いつき、素敵な恋心にも似た破壊衝動。

『……オニー、さん?』

流石に喋らない僕を不信に思ったのか、少女の形のいい眉がひそめられる。
そんなところも充分に僕の情欲を誘ってくれる。

でも、残念。

その他諸々、様々に色々なものまで含めて、―――いただきます。

***

嬲った、

殴った、

犯した、

気の済むまで、

気の果てるまで、

少女が何も言わなくなるまで、

少女が何も言わなくなってから、

吐き出して、

塗りつけて、

暴虐の限りを、

暴力のたぎりを、

獣欲のお気に召すままに、

少女を汚し続けた。

***

すっかり雨はやんで、心の陰鬱は消えた。
少女は泣くのをやめて、静かに呼吸だけを繰り返している。
虚ろな視線は誰に助けを求めているのか、そう考えて僕は笑った。
背を向けて、立ち去ろうとして肝心なことを忘れていたのを思い出し、
僕は笑って振り返った。

「雨宿りの場所、ありがとう」

少女は何も言わず、静かに呼吸を繰り返すだけ。
股間に突き込まれた傘の柄が痛々しく、華々しかった。

それだけに、また心の中にある歯車が回りはじめるのを感じた。

***

雨の日に赤い傘を見ると、胸の中に感じるモノがある。
それは憐憫なのか哀愁なのか、それとも別のなにかなのかは分からないけど、僕の感情を確かに揺さぶる。
それはきっと、あの日、あの場所で赤い傘をさした少女と出会ったときから始まった衝動。

学校の帰り道、赤い傘をさした少女とすれ違う。

ドクン、と心の中にある歯車が回り始める。

さて、今回はどうやって声をかけようか、かけてもらおうか。

考えて、苦笑して、僕は少女の後をつけ始めた。

【終】
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