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第三話

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東高校、文芸部。
見渡す限りの本とそれを整理するための本棚、長テブールにパイプ椅子。
図書室といった方がまだしっくりくるような、本意外何も無い部屋で俺たち文芸部員所属のものが全員集まっていた。
俺の左隣には時雨、右隣には先輩がいる。
そして目の前には、文芸部顧問の天宮先生が黙って腕組したまま微動だにしない。いや、正確には俺を直視したままというのが正しいのだろう。
しかし、それにしても気まずい。俺が何かしたのだろうか。
天宮先生はショートカットに加え容姿も幼く背も小さい。綺麗と言うよりは可愛いに分類されるのだが本人はそれを至って気にしている。それと大分控えめな胸。いや、そんなに小さい訳ではないのだ。たぶんおそらくきっと。
まぁ、それはいいのだが、気性の荒い人として有名らしい。授業中私語や居眠りしていたものにチョークを投げるとか。それで額が割れ病院送りに至ったものもいるとまで聞く。担当がニ学年なので噂しか耳にはいらないので信憑性は低いけど。
助けを求めようと右を向くが相変わらず先輩は官能小説に熱中している。
ここで下手に話し掛けると延々と凄く恥ずかしい朗読を聞かせられる羽目になるだろう。この人はたとえ教師の前でも態度を変えない人だということを入部後のこの三週間で嫌と言うほど俺は身に染みて思い知らされた。
先輩は役に立ちそうに無い。しかたなく時雨の方を見る。
時雨は時雨で相変わらず表情は窺えない。というか多分見えても無表情だろう。うん。
しかしこの状況で時雨ほど便りになる奴はいないだろう。
意を決し時雨に声をかけようとした時、それよりも早く天宮先生が口を開いた。
「三人は少なすぎる。これでは廃部は免れんな」
女性としては声の低い方に分類される声をさらに低くしていった。
大体突然廃部だなんて。いや、突然すぎる。前置きも前触れも無い。
「えっ……廃部なんですか?」
「ああ。だが、それを止める方法があるぞ」
我に秘策アリという風に言う天宮先生。
「なんですかそれは?」
先輩は変態だがまだ俺は先輩に会えたことを快く思っている。だからこの居場所をなくしたくは無い。
「言ってもいいが……お前はそれがなんだとしても受け止める覚悟はあるか?」
「あります」
念を押す先生に対して俺は力強く応えた。
「そうか。なら教えてやろう」
ごくりとだれかが息を呑む音が聞こえた。って俺以外いる訳ないんだけどね。
「それは今お前が履いているパンツを私に渡す事だ」
・……………………は?

「えっと、もう一度だけお願いします」
「だから、お前のパンツを私によこせといっている。なんなら交換するか? 私の下着と」
どうやら俺にはつくづく運がないようだ。
学校にいる二人の変態を知ることになるとは。
しかし俺も大分耐性がついたのだろうか。あんまり驚かなかった。
「それはいただけないね」
不意に先輩が本から顔を上げ会話に参加してくる。
時雨も一cmほど顎を動かしてそれに応じる。
「あ? 何を言ってんだ城島。お前は今関係ないだろうが」
それにすぐにとってかかる天宮先生。なんだか先輩の事が気に入らないような言動が節々構えから見えると思っていたがどうやら先輩の事が嫌いなようだ。
同じ変態同士同類嫌悪という奴だろうか。
「いや、僕にも関係あるはずだ。なぜなら僕は文芸部部長であるのだから文芸部部員であるエイジ君は僕の支配下にあると言っても良い。なら彼のパンツも僕の所有物という事になる」
「いや、なりません」
もっともらしい事を言っているようだがいやいや。よく読んでみろ。全く見当違いなことを言っている。
要は、俺のパンツは先輩のものという理論らしい。
「お前何言ってんだ。宮本のパンツは私のもんだ」
「違う。エイジ君のパンツは僕のものでありこれは絶対神聖不可領域のものであるといっても良い」
何をおかしな口論を始めてるんだ。
時雨も何か助け舟を出してくれまいかと横目で見たが無関心のようだった。
仕方ないので俺が無駄だとは知りつつ反論する。
「違います。俺のパンツは俺のものです」
しかし、ものの見事に無視され二人は激論を繰り広げている。
何で俺のパンツ如きでそこまで熱くなれるんだ。さっさと終わってくれ。いい加減帰りたい。
しかし俺の思惑とは裏腹にどんどん二人の口論はエスカレートしていくのみだった。
「いいか宮本はお前のものでも何でもないんだ。だから私が宮本のパンツを貰う」
「確かにエイジ君はエイジ君であって誰のものでもない。個々の物体として認識してもいいだろう。しかしながら今現在彼は文芸部の一部員であって何の権力も無い。それに対し僕は部長という肩書きがある。これは僕の方が格上という事だ。また、彼は文芸部なのだから僕の管轄下にあるという事だ。よってこれらの―――」
先輩の言葉を途中で遮るように大声で天宮先生が喚く。
実際遮るために喚いたのだろう。
「うるせぇうるせえ! いいかそれを言うなら私は顧問だぞ。私のほうが上じゃないか!」
天宮先生の言葉に対して先輩は冷静に言い放つ。
「貴方の言っている事はおかしい。正しくは認識を誤っている。顧問というのは団体などで相談を受け、それについて述べるもののことを言うんだよ。それに対して僕の部長というのは部の事務を統括し部下を監察する役割の人物だ」
ううむ。なんだか先輩が押しているようだ。
ていうかさっきからおんなじ主張ばっかりだけどそれで丸め込まれてる先生も先生だな。
「もう我慢ならん。丁度良い、前からお前の事は気に入らなかったんだ城島。私の授業を出ないとことか特にな!」
「別に僕は貴方の授業だけ出てないのではないんだけれど、やるというのなら仕方ない」
「上等!」
二人とも既に戦闘体制には言っている。
ああ、なんてくだらない事でこの人たちは喧嘩してんだ。ていうか後始末誰がすると思ってんだ。
「ちなみに僕は合気道をやっているから素手相手なら負ける気はしないよ」
「………ちっ。竹刀でも持ってればこっちのもんなんだがな。まぁいいさ、宮本後でパンツよこせよ。後部員二人増やさなきゃ廃部にしてやるからな」
そう言って雨宮先生は去っていった。
ていうか、パンツ渡しても廃部になるのなら渡さない方が得策じゃないか。
まぁいい。そんなこと些細な事だ。うん。早く帰ろう。
俺が帰りの準備をすすめていると先輩が話し掛けてきた。
「ところでエイジ君話があるんだけど」
「なんですか?」

6, 5

  

「僕は君の自尊心と言うものを見事に護りきるという事に成功したんだ。
 さらに言うならば悪評や徒名が立つようなことを未然に防いだということだ。そしてこれらの事はこれからの君の学園生活に支障をきたすものでこれを未然に防いだという功績について僕は大いに賞賛されるべきだ。
 ここで少し話は変わるが人間というものは感情で動く人間と理性で動く人間がいる。一見理性で動く人間は冷徹な人間や自己利益で動く人間に見られやすい。実際そうだろう。しかしだ、感情で動く人間も無意識かで自己の利益を考えているといっても良い。たとえばの話をしよう。いじめられている人間がいるとして理性派の人は多分見ないふりをするだろう。それは道徳的にどうとかの前にいじめられているものを助けて自分にも被害が及んだのでは冗談じゃないという風に考えているだろう。また、自分に関係ないと考えている人間も助けても自己に利益はないと判断してでの行動だ。
 ここで感情派の人間の話をしよう。助けなければならない。可哀想。許せない。色々あると思うが基本は正義感で動くものだと思われる。しかし彼らも自己利益を考えての行動なのだ。無意識だとしてもそれは確実だ。たとえば助けなければならないと考えたものは助ける事によっての利益とは何か。それは自己満足という奴だ。自分は良いことをしたのだ。という事を考えての行動だ。次に可哀想と考えるものは同情する事で一見真摯に考えているようだが実際は無意識でも何でも優越感というものに浸っているのものだ。そして許せないと考える人間は自分が見てみぬ不利をしなければならないという事について憤りを感じからであって他者に憤りを感じている訳ではない。自分は正しい事をするのだという自己の正当化だ。結局はこれらの人間は全員自己満足なために動いているといっても過言ではない。
 しかし私はそれらがわるいとは思わない。なぜならそれで救われる人間も大勢いるのも事実なのだからだ。
 このように人間は常に利益を求めて行動するということであって……」
「結局何が言いたいんですか?」
先輩は心底楽しみなように声を弾ませていった。
「ご褒美に君のパンツが欲しい」
次の瞬間時雨が前に出て無言で首を左右に振った。
ああ。とうぶん帰れそうに無い。
7

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