関節が痛い。
待ちに待った金曜日だというのに、腰から下半身にわたるまで、くまなく気だるい。俺は数年間罹っていなかった風邪というものを患ったようだ。
会社の救急箱に体温計が見当たらない。股間にぶら下がった莫邪の宝剣も完全に鞘に納まっている。
考えたら一人暮らしを始めてから、風邪を引いたのは初めてだ。
辛過ぎる、誰か助けてくれ。
>>鞘に納まるってお前、仮性だったんだな
会社でお姉さんと仲良くなったのに凹られた
「セカンド・ファーストキス」
~セカンド・ファーストキス~
○早退だ、早退しか今の俺を救ってくれるものは無い。
向井に見つからないところで工場長に早退の旨を告げる。向井に風邪で早退したことを気付かれるときっと看病イベントが強制発動し、鉄火にあらぬ誤解を抱かせる、と住人様がたに早退しろと助言されたからだ。
事務所を退出し、ふらふらと車まで向かう。腰が痛くて爺さまのようだ。
車までようやく到着するとボンネットに市販の風邪薬が近所の薬局の袋に入れて置いてあるのが見える。
ワイパーにはメモ書きも添えてある。
「早く直してな 向井」
>>よっぽど辛そうだったんだな、凹 てか即バレしてんじゃねえかww
>>つうか、わざわざここまでするって、、、向井、、実にいい女じゃねえかww
>>凹、お前風邪を治すなら実家帰らなきゃ、
>>どう考えても悪い方にしか話進まないな
>>はちあわせだな。向井と鉄火
実家か、それが出来れば苦労はしないのだが、
あいにくおふくろは泊まりで不在だ、本当にあいにくなんだが。
>>なあ、じゃあ親父は風邪引いた息子の面倒も見られないわけなのか?
>>だよな、凹って実家臭が実の姉貴しかしないんだが
>>親父に電話して迎えに来てもらえよ。
さ、とりあえず栄養のあるものを買って、家でゆっくりとした休養を取るとするか。今日中に治して、明日からは素敵な終末だ。
>>なんか凹って意固地な時あるな、親父はどうした
>>住人には言えない事情もあるんだろ、聞くまいよ
帰宅後、折角なので向井のくれた風邪薬を飲み、少し永眠する。
眼を覚まし、イージス艦衝突事故の件が気になったので二ュースを見ようとTVを点けたところ、時間は6時を過ぎたところだった。
こんな時に鉄火が看病に来てくれたらな、などと希望を持ちもしたが、そんな希望を持ったところで、ファミレスで告白してから大した日にちも経たず、向井ともきちんと話が出来ていない状況で、鉄火がわざわざ俺の部屋を訪ねてくれるとは考えられなかった。
だがここで予想を裏切る鉄火のメールが届く。
鉄火
「早退したんだってね。大丈夫?」
俺
「いんや、風邪だよ姉さん 永眠しちゃうぞ鉄火さんよ、でもまあ家に薬あるから大丈夫やで」
鉄火
「永眠って(笑)そうなの?じゃあ行けたらいくよ。」
俺
「心配無用!むしろ伝染ったらあかんからな、どうしてもってなったら助け呼ぶわ」
鉄火
「おっけ!(ニコニコ顔マーク)しっかり寝なよ~」
これでいい、とりあえず今は誰とも接せずにとにかく眠りたいんだ。
俺のために鉄火だろうが向井だろうが着てくれるのは非常に嬉しいのだが、
現状俺の部屋はゴミ箱から発せられる、お握り処理に使われたティッシュのたけのこの水煮臭によって汚染されている。そんなものの片付けをしていたら、風邪が悪化してしまう。
とにかく今日は誰一人部屋には入れない。俺の風邪は俺が治す。
市販薬を飲み、電気を消してからじっと布団に入っているといつの間にかウトウトしだした俺は、
全てを拒絶するかの様に永眠していた。
どのくらい眠っていたのだろうか、真っ暗な部屋の玄関側から聞こえてくる物音が俺の意識を現実に引き戻す。
ひんやりとした空気が部屋のドアの隙間から緩やかに流れ、俺の意識をより鮮明に覚醒させていく。
霧がかった様な視界のまま玄関側を見ると部屋のドアの不透明ガラスの向こうから明かりが見える。
鍵をかけるのを忘れていたのか、泥棒か。はっきりとした緊張感で、現実に改めて帰還する。
玄関の極小の土間から、がぼがぼというブーツの摺れる音が聞こえる。この音
「凹、いるの?寝てる?」
鉄火の声だ、体を起こそうとして、強烈な関節の痛みと息苦しさに気づく。
動かしにくい体を横たえたまま、返事をする。たけのこの水煮だけは臭われたくない。
「鉄火か?なんで来たんよ?感染るから駄目やで」
彼女がブーツを脱ぎ、入ってきたのが分かる。静かな足音がドアの前で止まった。
「じゃあ、ここで話すよ凹。」
「ごめんな、せっかく来てくれたのに」
「それはいいんだけど、おかゆ作ってきたからここに置、、キッチン汚なっ!!」
水の流れる音。洗い物をしてくれているのか。
しばらくし、ドア越しのまま鉄火が俺に話しかける。
「洗い物終わり!水冷たいねぇ。じゃおかゆ食べてね。よく寝て元気にならないとね」
「ありがと、鉄火」
「いえいえ、じゃあ伝染るといけないから帰るよ」
がさがさと物音の後、彼女は部屋から出て行った。部屋に入られなかったのを安心した俺は這うようにしてキッチンへ向かう。
シンクの横に、おかゆ入りの小さな土鍋と、大きめの柑橘類、100%のオレンジジュースを捕捉し、彼女らしいな、と俺は床にへたばりながら呟いた。
部屋の鍵を掛け、時間を確認するとPM9:00前、まだまだ眠れる。
電気を再び消し、ベッドに潜り込む。携帯でパー速を確認しいつものごとく俺を叩くネタで荒れ始めていたので携帯を閉じる。
しばらくはベッドでごろごろしてはいたのだが、10時頃、再び物音で俺は我に返った。
耳を澄ませていると、ノックの音がドアの向こうから聞こえる。
しばらく声も物音もしないよう息を殺していると、深い吐息の音が聞こえてきた。
手を温めようとしているのか、ため息なのか。
玄関向こうの廊下で足を擦る音が、ブーツとは違う。おそらく向井だ。
やがて物音の正体は俺の部屋のドアに持たれかけ、しゃがんだようだ。
しばらく様子を伺っていたが、流石に寒空のした女性を待たせるのは性に合わない。白々しく物音が聞こえたからと理由とともにドアを開け、向井に軽く謝りながら話しかけた。
「全然平気やで。今来たとこやから。ほなこれ熱さまシートとリポD、飲んでよ」
「ほんでこれが明日の朝ごはん」
向井はランチパックの卵サンドの入った買い物袋を俺に手渡し、中を覗こうとする。
「誰も居てないよw真っ暗やろ?」
「うん、しんどそうやね、大丈夫?少し入っていい?」
「うーん、男グッズがいっぱいあるからなあ」
「じゃ、やめよっかw」
向井はそういうと踵を返し、階段を降りて行った。
俺はぼーっとした頭で床につき、そのまま熱でうなされながら眠った。
次の日、せっかくの休日にもかかわらず熱は下がらず、俺はうなされていた。
混沌とした意識の中に、メールの着信音が混じり、俺は携帯を取り上げた。
向井メール
「AM8:00 風邪大丈夫?治った?今実家に帰ってる?」
「AM9:15 部屋の前まで来てるねんけど、居てない?」
今は10:30、俺はやおら立ち上がり玄関に向かい、ドアノブを掴む。
ドアが開き切る前に、ドアが何かに衝突し、完全に開かなくなり、
「キャ」という声とともに尻をドアに突然突かれた向井が立ち上がった。
雪が降ってもおかしくない寒さの中、俺を1時間も待っていたのが気の毒になり、
また自分が玄関に立ち続けるのも不可能なため、彼女を部屋に迎え入れた。
彼女持参の体温計で熱を測ると37.8度。自分にとっては十分な高熱だ。
フゥフゥと荒い息で体を横たえ、俺は彼女の話しかけにやっとの思いで応答する。
初めは体調に関する話をしていたのだが、突然向井の弁が猛威を奮う。
向井
「お姉ちゃん、来てたんやね。」
俺
「エ?エエ・・?いつ?」
向井
「白々しいなぁ。そこのおかゆの土鍋、こないだ見た柄なんやけどね」
俺
「うん・・・・」
平静を装い息をフゥフゥ鳴らし、俺は沈黙することがその場を繕う最適な方法であるかのごとく押し黙ってしまった。
彼女は続ける。
向井
「お姉ちゃんは付き合ってくれるの?」
俺
「いや、分からへんよ・・・」
その後俺は熱のおかげと言うべきか、所為と言うべきか、比較的慌てずに自分の思いを伝えた。
鉄火を好きだということ、自分の気持ちに嘘はつけない事を丁寧に、ゆっくりと。
向井
「そう・・でもお姉ちゃんは付き合う気はないって。」
向井は突然荷物を持ち、部屋から出ていこうとする。
俺もそれを制止し、その発言の意図を問いただそうとした。
中腰の彼女を引き留めようとしてベッドから摺り出た俺だが、今のままでは追いつけない。
すると彼女は突然振り返り、俺の上半身を抱え支えようとし、そのまま
俺にキスをした。
ほんの数秒、俺の思考を完全停止させた向井は俺の体を再びベッドに戻るよう促し、
慌てて鞄を拾い上げ、俺の部屋から出て行った。
ドアを静かに閉める向井、このままでは相談と称して鉄火に話されるかもしれない。
我に返った俺は玄関までよろめきながらたどり着き、ドアを開けた。
向井はすでに階段を降りており、部屋から飛び出した俺に気づくと小さく手を振り彼女は帰って行った。
>>向井怖いな
>>これ、鉄火姉さんにばれたら誤解解くの大変じゃね?
>>つか凹、お前二人の関係ぶち壊してねぇ?
>>つかなんで家に入れたし
>>1時間も玄関に待たせたんだ、入れるのが男だろ
折角、折角鉄火に気持ちを伝えたところなのにこういう事態に陥るんだ俺は。
鉄火に振られることなんか最早恐れてなど居ないのに、こんな外部的な過失が関わるとは。
なあ、住人様がた、こんな時おまいらならどうするって聞きたいんだけど
キスされたことは鉄火に俺から言っといた方がいいのか?
>>なんか凹、お前不誠実じゃね?舐めてんの?
>>だから弧男なんだろ
向井に見つからないところで工場長に早退の旨を告げる。向井に風邪で早退したことを気付かれるときっと看病イベントが強制発動し、鉄火にあらぬ誤解を抱かせる、と住人様がたに早退しろと助言されたからだ。
事務所を退出し、ふらふらと車まで向かう。腰が痛くて爺さまのようだ。
車までようやく到着するとボンネットに市販の風邪薬が近所の薬局の袋に入れて置いてあるのが見える。
ワイパーにはメモ書きも添えてある。
「早く直してな 向井」
>>よっぽど辛そうだったんだな、凹 てか即バレしてんじゃねえかww
>>つうか、わざわざここまでするって、、、向井、、実にいい女じゃねえかww
>>凹、お前風邪を治すなら実家帰らなきゃ、
>>どう考えても悪い方にしか話進まないな
>>はちあわせだな。向井と鉄火
実家か、それが出来れば苦労はしないのだが、
あいにくおふくろは泊まりで不在だ、本当にあいにくなんだが。
>>なあ、じゃあ親父は風邪引いた息子の面倒も見られないわけなのか?
>>だよな、凹って実家臭が実の姉貴しかしないんだが
>>親父に電話して迎えに来てもらえよ。
さ、とりあえず栄養のあるものを買って、家でゆっくりとした休養を取るとするか。今日中に治して、明日からは素敵な終末だ。
>>なんか凹って意固地な時あるな、親父はどうした
>>住人には言えない事情もあるんだろ、聞くまいよ
帰宅後、折角なので向井のくれた風邪薬を飲み、少し永眠する。
眼を覚まし、イージス艦衝突事故の件が気になったので二ュースを見ようとTVを点けたところ、時間は6時を過ぎたところだった。
こんな時に鉄火が看病に来てくれたらな、などと希望を持ちもしたが、そんな希望を持ったところで、ファミレスで告白してから大した日にちも経たず、向井ともきちんと話が出来ていない状況で、鉄火がわざわざ俺の部屋を訪ねてくれるとは考えられなかった。
だがここで予想を裏切る鉄火のメールが届く。
鉄火
「早退したんだってね。大丈夫?」
俺
「いんや、風邪だよ姉さん 永眠しちゃうぞ鉄火さんよ、でもまあ家に薬あるから大丈夫やで」
鉄火
「永眠って(笑)そうなの?じゃあ行けたらいくよ。」
俺
「心配無用!むしろ伝染ったらあかんからな、どうしてもってなったら助け呼ぶわ」
鉄火
「おっけ!(ニコニコ顔マーク)しっかり寝なよ~」
これでいい、とりあえず今は誰とも接せずにとにかく眠りたいんだ。
俺のために鉄火だろうが向井だろうが着てくれるのは非常に嬉しいのだが、
現状俺の部屋はゴミ箱から発せられる、お握り処理に使われたティッシュのたけのこの水煮臭によって汚染されている。そんなものの片付けをしていたら、風邪が悪化してしまう。
とにかく今日は誰一人部屋には入れない。俺の風邪は俺が治す。
市販薬を飲み、電気を消してからじっと布団に入っているといつの間にかウトウトしだした俺は、
全てを拒絶するかの様に永眠していた。
どのくらい眠っていたのだろうか、真っ暗な部屋の玄関側から聞こえてくる物音が俺の意識を現実に引き戻す。
ひんやりとした空気が部屋のドアの隙間から緩やかに流れ、俺の意識をより鮮明に覚醒させていく。
霧がかった様な視界のまま玄関側を見ると部屋のドアの不透明ガラスの向こうから明かりが見える。
鍵をかけるのを忘れていたのか、泥棒か。はっきりとした緊張感で、現実に改めて帰還する。
玄関の極小の土間から、がぼがぼというブーツの摺れる音が聞こえる。この音
「凹、いるの?寝てる?」
鉄火の声だ、体を起こそうとして、強烈な関節の痛みと息苦しさに気づく。
動かしにくい体を横たえたまま、返事をする。たけのこの水煮だけは臭われたくない。
「鉄火か?なんで来たんよ?感染るから駄目やで」
彼女がブーツを脱ぎ、入ってきたのが分かる。静かな足音がドアの前で止まった。
「じゃあ、ここで話すよ凹。」
「ごめんな、せっかく来てくれたのに」
「それはいいんだけど、おかゆ作ってきたからここに置、、キッチン汚なっ!!」
水の流れる音。洗い物をしてくれているのか。
しばらくし、ドア越しのまま鉄火が俺に話しかける。
「洗い物終わり!水冷たいねぇ。じゃおかゆ食べてね。よく寝て元気にならないとね」
「ありがと、鉄火」
「いえいえ、じゃあ伝染るといけないから帰るよ」
がさがさと物音の後、彼女は部屋から出て行った。部屋に入られなかったのを安心した俺は這うようにしてキッチンへ向かう。
シンクの横に、おかゆ入りの小さな土鍋と、大きめの柑橘類、100%のオレンジジュースを捕捉し、彼女らしいな、と俺は床にへたばりながら呟いた。
部屋の鍵を掛け、時間を確認するとPM9:00前、まだまだ眠れる。
電気を再び消し、ベッドに潜り込む。携帯でパー速を確認しいつものごとく俺を叩くネタで荒れ始めていたので携帯を閉じる。
しばらくはベッドでごろごろしてはいたのだが、10時頃、再び物音で俺は我に返った。
耳を澄ませていると、ノックの音がドアの向こうから聞こえる。
しばらく声も物音もしないよう息を殺していると、深い吐息の音が聞こえてきた。
手を温めようとしているのか、ため息なのか。
玄関向こうの廊下で足を擦る音が、ブーツとは違う。おそらく向井だ。
やがて物音の正体は俺の部屋のドアに持たれかけ、しゃがんだようだ。
しばらく様子を伺っていたが、流石に寒空のした女性を待たせるのは性に合わない。白々しく物音が聞こえたからと理由とともにドアを開け、向井に軽く謝りながら話しかけた。
「全然平気やで。今来たとこやから。ほなこれ熱さまシートとリポD、飲んでよ」
「ほんでこれが明日の朝ごはん」
向井はランチパックの卵サンドの入った買い物袋を俺に手渡し、中を覗こうとする。
「誰も居てないよw真っ暗やろ?」
「うん、しんどそうやね、大丈夫?少し入っていい?」
「うーん、男グッズがいっぱいあるからなあ」
「じゃ、やめよっかw」
向井はそういうと踵を返し、階段を降りて行った。
俺はぼーっとした頭で床につき、そのまま熱でうなされながら眠った。
次の日、せっかくの休日にもかかわらず熱は下がらず、俺はうなされていた。
混沌とした意識の中に、メールの着信音が混じり、俺は携帯を取り上げた。
向井メール
「AM8:00 風邪大丈夫?治った?今実家に帰ってる?」
「AM9:15 部屋の前まで来てるねんけど、居てない?」
今は10:30、俺はやおら立ち上がり玄関に向かい、ドアノブを掴む。
ドアが開き切る前に、ドアが何かに衝突し、完全に開かなくなり、
「キャ」という声とともに尻をドアに突然突かれた向井が立ち上がった。
雪が降ってもおかしくない寒さの中、俺を1時間も待っていたのが気の毒になり、
また自分が玄関に立ち続けるのも不可能なため、彼女を部屋に迎え入れた。
彼女持参の体温計で熱を測ると37.8度。自分にとっては十分な高熱だ。
フゥフゥと荒い息で体を横たえ、俺は彼女の話しかけにやっとの思いで応答する。
初めは体調に関する話をしていたのだが、突然向井の弁が猛威を奮う。
向井
「お姉ちゃん、来てたんやね。」
俺
「エ?エエ・・?いつ?」
向井
「白々しいなぁ。そこのおかゆの土鍋、こないだ見た柄なんやけどね」
俺
「うん・・・・」
平静を装い息をフゥフゥ鳴らし、俺は沈黙することがその場を繕う最適な方法であるかのごとく押し黙ってしまった。
彼女は続ける。
向井
「お姉ちゃんは付き合ってくれるの?」
俺
「いや、分からへんよ・・・」
その後俺は熱のおかげと言うべきか、所為と言うべきか、比較的慌てずに自分の思いを伝えた。
鉄火を好きだということ、自分の気持ちに嘘はつけない事を丁寧に、ゆっくりと。
向井
「そう・・でもお姉ちゃんは付き合う気はないって。」
向井は突然荷物を持ち、部屋から出ていこうとする。
俺もそれを制止し、その発言の意図を問いただそうとした。
中腰の彼女を引き留めようとしてベッドから摺り出た俺だが、今のままでは追いつけない。
すると彼女は突然振り返り、俺の上半身を抱え支えようとし、そのまま
俺にキスをした。
ほんの数秒、俺の思考を完全停止させた向井は俺の体を再びベッドに戻るよう促し、
慌てて鞄を拾い上げ、俺の部屋から出て行った。
ドアを静かに閉める向井、このままでは相談と称して鉄火に話されるかもしれない。
我に返った俺は玄関までよろめきながらたどり着き、ドアを開けた。
向井はすでに階段を降りており、部屋から飛び出した俺に気づくと小さく手を振り彼女は帰って行った。
>>向井怖いな
>>これ、鉄火姉さんにばれたら誤解解くの大変じゃね?
>>つか凹、お前二人の関係ぶち壊してねぇ?
>>つかなんで家に入れたし
>>1時間も玄関に待たせたんだ、入れるのが男だろ
折角、折角鉄火に気持ちを伝えたところなのにこういう事態に陥るんだ俺は。
鉄火に振られることなんか最早恐れてなど居ないのに、こんな外部的な過失が関わるとは。
なあ、住人様がた、こんな時おまいらならどうするって聞きたいんだけど
キスされたことは鉄火に俺から言っといた方がいいのか?
>>なんか凹、お前不誠実じゃね?舐めてんの?
>>だから弧男なんだろ