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カピカピの2年生.

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 世駒高校入学から1年。本日より、この安丸大助(やすまる だいすけ)は2年2組に所属することになる。今朝は幸運なことに、登校途中事故にあったり、
不良に絡まれたり、寝坊して遅刻することも、曲がり角でパンをくわえた女の子にぶつかることもなく学校にたどり着くことができた。
 早めに登校したものの、やはり玄関前は人口密度が高く、新1年生マザー達のおかげで周辺には独特の魔臭がこれでもかと発ち込めている。2,3年生はといえば、自分のクラスは事前に学校から知らされているのにも拘らず、クラス表を眺めて一喜一憂を繰り返すばかり。 ここはスルーで真っ直ぐ教室に向かうが吉だろう。



「よーう、大助!」

 席に着いて早々、見慣れたツンツン頭が近づいて来る。

「啓太(けいた)か。同じクラスは中2以来だな」

 と言っても、この男とはしょっちゅう遊んでる仲で、おまけに小学校前からの腐れ縁も50%配合。全く、こういう役所は是非とも女性にやって貰いたい。

「しっかし早いよなぁ……もう2年だぜ?」
「知ってるか? 人間は老けた分だけ時間の流れを早く感じてしまうそうだ」
「ウッソ!? じゃ今のナシナシ。やっと2年か……」
「いや、手遅れだな。白髪も多いし」
「うっせー! マジマジ見んな!」

 啓太を軽くからかう。尤も他人をからかう自分自身でも『もう2年』と感じている。流石に桃鉄並みという訳じゃないが、あっという間の”1年感”と言って間違いはないだろう。俺も啓太も、部活にでも青春をかけていれば多少なり感じ方が違うのかもしれない。が、2年となった今ではそれこそ手遅れだ。

「前のクラスで仲良かったヤツらがまるでいねーなー……大助、お前は?」
「俺もだな。全然話したことないヤツばっかりだ」

 黒板の座席表を見ながら啓太は生ぬるく息を吐きだした。

「ま、いいや。新しいキャラでデビューできるしな」
「なんじゃそら」

 どうやらこのクラスに配属した元クラスメイトは、一言二言話した程度の『知り合い以上、友達未満』なヤツばかりになったらしい。もちろん俺は、口八丁の八方美人ではなかったし、『友達? 何それ?』な孤高の戦士でもなかったが、前クラスでは仲のいいヤツもちゃんといた。そう考えると今回は少し寂しい気がしなくもない。

「お、明楽いるじゃん」
「アキラ?」
「おら、あそこ」

 聞きなれない男の名前が出て来た。いや、聞きなれないというより『アキラという名前の日本人は多くいるが、少なくとも自分の知人という枠では該当する人物はいない』というのが正しい。某長編SFアニメの傑作が真っ先に頭をよぎる俺の脳は正しいのか怪しいところだ。アゴで大変分かりにくく示してくれたが、恐らく目線的に、後ろ窓際の席の住人と思われる。
 しかし――

「あれって…女? アキラって言ったよな?」
「あ、知らねーの?」
「全然知らないな……」
「では説明してやろう。明楽佳奈(あきら かな)。元1年4組。成績優秀で……」
「待て待て。お前は元3組だろ。何でそんなに詳しい?」
「体育とか美術とかあるだろ」

 ああ、合同授業があったか。それにしても隣りの組に知られ渡るほどなのか?

「続けるぞ?容姿端麗、社交的。まさに才色兼備。結構人気あったんだぜ?」
「ほー、アキラは苗字か……でもあれで社交的ね……」

 教室中の生徒が、ガヤガヤ、ずやずや、ワイワイワールドなのに、先ほどから件の明楽佳奈は、小さな身体に不釣合いなビッグサイズのヘッドフォンを耳にかけ、机とどっぷりイチャついている。 
 あれはまるで友達いない人間のたぬき寝入り……いや、断じて経験談ではない。
 自分から進んであの状態なのか、前夜に(性的な意味で)盛り上がったせいなのか、理由は定かではない。だが少なくとも、周囲に拒絶ととられる態度は改めた方がいいような気がする。
 新しいクラスで出遅れると後がキツイものだ。

「うーん、なんか前と空気違うような……でも本人のハズだぜ?あの長~いツヤツヤサラサラ黒ロングは」

 なるほど。確かに、机を黒い滝で覆っている、あの超長髪では、他人との判別が、非常に簡単そうだ。
 まあ、啓太も直接話したことはないんだろう。百聞は一見に如かずとは言うが、人間に限っては、一談もしないことにはなかなか人物像が見えてこない。

「お、こっち見てねーか?」

 言葉に釣られるまま、ふと明楽を視界に捕らえてしまった。
太めの眉を少し内に寄せつつ、その下にある透き通されるような二つの瞳が確かにこちらに向けられている。愛嬌と美しさを兼ねそろえた鼻スジが覗き、
腕に半分隠れている口は――

「おい…大助!」
「あ…な、なんだ?」
「なんだじゃねぇよ。何回も呼んでんのに」
「ああ、悪い。ちょっとぼーっとして…」
「……ふーん」

 ちょっと待て、真崎(まさき)啓太よ。貴様は何故、意味深にニヤニヤしている……?

「ま、がんばれよ。応援してやっから」

 ……ここは我慢だ。
 今、反論すればコイツは喜んで『あれぇ?なんでそんなにムキになってんのぉ?』と腹の立つ含み笑いで喰いついてくるだろう。ペースを握られるわけにはいかない。

「あらら、また戻っちまった。残念だったな」
「ああ、そうか?」

 生返事一閃。これなら隙はないハズ。
 全く……大体まだ知りもしない相手におかしいだろ。いきなり不愉快そうな顔を向けるし……。それに俺は、自分でシールド張ってるような態度は、かなり好きじゃない方だしな。うん。

「これからの1年は楽しくなりそうだぜ。何かあったら父さんが相談に乗るからな」

 まだ言うかお前は。確かにお前と一緒のクラスになった点では、この先退屈しそうにないのは認める。
 良い意味でも悪い意味でも。
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