二人の男が狭苦しい部屋へ押し込められた。一人は大柄な男でもう一人は金髪の男。
ここは刑務所。刑務所の中でもこの部屋は普通ではない。ここに入れられるのは裁判で
精神鑑定をしたものがほとんど。要するに精神鑑定では通常と判断されたが実際に
普通の刑務所生活を送るのが困難と判断されたものが入れられる。そのため刑務
作業もない。刑務官が部屋の前から去った後大柄の男は小さくつぶやいた。
「無罪になれなかったのは残念だが、ここに入れてよかった。何もしなくていいから楽だ」
その言葉を聞き取った金髪の男は反応した。
「なに。お前もキチガイのまねをしていたのか」
「ああそうだとも。キチガイと一緒にいると思って気がめいると思っていたがあんたがまともな
人間で良かった。キチガイだと脱走に支障が出る」
金髪の男はまたも驚いた。
「なんだと脱走だと。本気か」
大柄な男は平然と答えた。
「ああそうだとも。俺は脱走を何回もした。お前も一緒にするか」
「当たり前だ。こんなところに居たくはない」
それを聞いた大柄な男は愉快そうにいった。
「そうかそうか。ならついて来い。脱走の準備と実行は全部俺がしてやる」
そんなわけで二人は刑務官がいないときは自分のこれまでの人生や脱走後のことを
いろいろしゃべった。なにしろ大柄な男が全部俺に任せておけと自信満々に言うのだ。
口出しはできず、二人でしゃべることといったらこれぐらいしかない。
金髪の男は楽天的に考えていた。もし失敗してもとぼけたふりをすれば何とかなるの
ではないかと思っていたからだ。何しろ刑務官たちは俺たちをキチガイだと思っているのだ。
脱走をする日は決めていた。入ってから一週間後だ。夜にやる。しかしなかなかやらない。
大柄の男によるとタイミングを計っているそうだ。そして金髪の男に
「なかなかいいタイミングが来ない。それまで寝てろ。タイミングが来たら知らせる。来なかったら
明日以降だ」
と知らせた。それを聞いて金髪の男は不満そうに答えた。
「ああ頼むぜ。なるべく早くしてくれ」
その数十分後金髪の男は大柄の男にたたき起こされた。
「おい早く起きろ。鍵が開いたぞ」
金髪の男は寝ぼけながら答えた。
「本当か」
「ああそうだとも」
そういいながら大柄の男は部屋の扉を開けた。金髪の男は喜び勇んで部屋を飛び出した。
その瞬間たくさんの光が浴びせられた。そして金髪の男は刑務官たちに取り押さえられた。
なぜか大柄な男は取り押さえられない。わけがわからぬ状態で男は思わず刑務間に
質問した。
「いったいなんで脱走することが分かったんだ。それになぜあいつを捕まえない」
それに対して刑務官はにやっと笑って答えた。
「簡単さ。あの大柄の男は刑務官なんだ。つまりこれはおとり捜査。これをやったおかげでお前が
キチガイのふりをしているということが分かった。それに脱走を試みる注意人物ということも…」
金髪の男は思わず叫んだ。
「ひどすぎる。脱走する前に普通の部屋に送ればいいものを脱走をたぶらかして…。
まともな人間じゃない」
それに対して大柄な男つまりは刑務官はこう答えた。
「何を言ってるんだ。罪を犯してキチガイのふりをして無罪になろうとし、さらに脱走まで
しようとする。お前こそまともな人間じゃない」