「よしできた」
こぢんまりとした研究室でシー博士はそうつぶやいた。博士は数年前からある画期的な装置を作るべく研究を続けてきた。
その装置とは‥‥犯罪者を見分けることができる装置だった。ポケットに入れられるほどの小型の装置は犯罪者が近づくと鳴り出す。近づけば近づくほど大きな音になる。博士はこの装置はとても便利なものだと考えていた。警察も買い取ってくれるだろう。裁判所も買ってくれるだろう。個人にも売れるかもしれない。市民一人一人が悪人を探し出すのだ。そのうち悪人はいなくなってしまうだろう。
がこの装置はまだ理論的に正しいと証明されただけだった。実際に実験する必要がある。博士は刑務所へと向かった。この装置を囚人に近づけるのだ。この日のために博士は数人の囚人と会う約束をしていた。
博士は刑務所へと向かった。そのとき博士はふと装置のスイッチを入れたくなった。もしかしたら近くに犯罪者がいるかもしれないのだ。人がたくさんいる場所で博士はスイッチを押した。するとけたたましい装置の音が鳴り出した。博士はびっくりした。まさかこんなに身近に犯罪者がいるとは。
博士は次は人の少ない場所で装置のスイッチを入れた。するとまたしても装置は鳴り出した。今度は博士は装置を疑いだした。まさかこんなに犯罪者がたくさんいるわけはない。博士は囚人との面会をキャンセルした。狂った装置では会っても意味がない。
家に帰ってから博士はこの装置をよく調べた。が故障はどこにもなかった。博士は思わずうなだれた。
「故障でないということは自分の理論は間違っていたのか」
スイッチを入れると装置はまたけたたましい音で鳴り出した。そのとき博士はふと自分が数日前に法律を犯したことに気づいた。急いでいるときに赤信号なのに横断歩道を渡ってしまったのだ。何しろ車は一台も通っていなかった。そういえばある研究者を批判したのも名誉毀損になるかもしれない。博士は急に自分の装置が売れないであろう事に気づいた。誰もが大なり小なり罪を犯しているのだ。自分が犯罪者であることを告白する装置を買いたい物好きはそうはいないだろう。警察も国民全員を逮捕することはできないだろう。