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始まりの土地アイシュバルツ

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あれから何日たっただろう……
佐藤が僕につきまとい始めてから、ついに一週間が経った。
はじめの頃は、佐藤を改革することに活き込んでいた僕だったが、日が経つにつれ、僕の自信は無くなっていった。
例えば、佐藤の妙に達観しているような上から目線の口調を直そうとしたときは、私は数百年を生きた魔法使いだから、この口調は仕方がないと言われた。
勿論、そんなことで僕がめげたわけではない。
数百年生きようがここでは、そんなことは関係ない、ちゃんとした女の子口調で話せ、と僕は言った。
すると彼女は、では貴様は目上の人にもため口で話すのか?ならば生活指導の岡部とやらにため口で話してこい、と言った。
勿論、こんなことでめげる僕ではない。
岡部に、ため口を使ってやったさ。
僕の、青春のために。
その結果、僕は反省文五枚を手に入れることになった。
しかし、僕はそのときは全然苦痛じゃなかった。むしろ誇らしい気分だった。
だってそうだろ?青春のために身を犠牲にしたんだ、格好良いことだろう?
その後、佐藤に言ってやった、ほら、岡部にもため口だ。これでお前も口調直せよ?と。
しかし、佐藤は、ならばその反省文はなんだ?つまり、目上と対等に話すにはそれなりの対価が必要だということだ。私と対等に話したく場それなりの対価をよこせ。なんて宣いやがった。
唖然とした。ただただ呆然と立ちつくしていたよ。
その間にいつの間にか佐藤は消えていて、空しさだけが心に残った。





こんなことが何回もあり、僕は結局、この計画を断念することになった。
というより、この一週間で友達が岡田しかいなくなった。
だから、もう何もする必要ない。
ああ、もう引きこもってしまおうかな。






「どうした?そんな干からびた金魚のような顔をして」
「おまえのせいだっ!」
佐藤は相変わらず涼しい顔をして、僕にまとわりついてきている。
畜生……こんなはずじゃなかったのに。
この一週間で数え切れないほどつぶやいた言葉を心に訴える。
もう青春の『せ』の字もありゃしない。
何が悲しくて変態女の相手なんぞしなくてわならないのだろうか。
「そうだ!」
佐藤がいきなり大声をあげた。
佐藤が大声を上げることなんて珍しい。
佐藤はいつもどこか大人びた風に見せているせいか、つねにクールな感じで高校生らしいテンションを見せたことが一度もなかった。
「な、なんだよ?」
急に近くで大声を出されたせいで、僕の心音は高く早く鳴り響いている。
「お前に今日は見せたいものがあったんだ」
「何?」
佐藤が見せたいものとは何なのだろうか。
また厨二的なものだろうか、例えば新聞紙と段ボールで作った剣や盾とか……。
それを持って戦え、とか言われたらどうしよう。
「じゃあ、ついてきてくれ」
佐藤は僕にそう告げ、颯爽と歩き出した。
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