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第十七話@状態回帰(リセット)

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第十七話「リセット」

「ふぁああ……」
 眠たい目をこすって現状を確認する。
 家には知らない美少女が三人。
 一人はナミ。
 苗字はない……らしい。何故か僕と同じ記憶喪失らしく、元々僕と同居だったらしい。
 らしいだらけで、申し訳ないのだが、本当にそういう現状なので仕方がない。
「タクヤ……この鉢植えが、少し邪魔なのですが……」
「ああ、ごめん。そっちの部屋は使って無かったからさあ」
 元は何処で寝ていたのかわからなかったので、とりあえず空いていた部屋を使ってもらっていた。
 観葉植物の鉢植えを取り上げる為に屈むと、ナミの姿がはっきりと垣間見える。
 美人に美人を上乗せしたような美しさ。大きな瞳につり上がった目尻は荘厳な気配を漂わせ、
 黒く長い髪をさらりと払うその姿は流麗に満ちていた。
 男もののワイシャツから覗かせる白い太腿が、僕の劣情をかき立て始める。
「どうかしたのですか? 視線が……」
 やばいっ。いつもの癖で下半身と体臭を確認してしまった。
「ごめんっ、すぐよかすから――うっ」
 いつの間にか反り返っていた股間のものが、直立と同時に突っかかる。
 それに気を取られた僕の体は不意に脚をもつれさせた。
「っ……!」
 しかし、手に持った鉢植えが落ちることも、僕が転ぶこともなかった。
 柔らかい感触が、そっと腰にまわされていることに気づく。
「あ、ありがとう」
「いえ」
 そう言って振り返ると、さっと離れたナミからほのかな青リンゴの香りがした。

「おい、起きてるのか? タクヤ」
 階段から白衣姿で上がってきたのは亜夕花。
 うちのハゲオヤジはついに性転換技術を完全成功させてしまったらしい。
 この完全なる女体。悔しいが、超一級品だ。しかも、元のオリジナルは僕の母だという。
 少し赤みがかった髪は若さ故の手入れいらずを実現しており、
 まん丸とした目は芸能向けの養育本能をくすぐるような愛嬌があった。
 親父と呼ぶか、お袋と呼ぶか。お袋は被害者でしかないので、前者になった。
「親父、頼む。股を掻くな」

 良い意味で、中身が変わっていなかったのが、唯一の救われる点だろう。
「ん。おっと、これは失礼。それより落ち着いたか?
 見立てによると相当激しい戦いのだようだったしな」
「え? ああ……それよりもあの子は大丈夫なのか?」
「あの子? ん、ああ、しかし犯しておいてよく言うな、流石我が息子だ」
「本当にあの時はどうかしていたんだ。あれは、僕じゃない……」
「『あれは、僕じゃない……』って――」
 ダハハハと節操のない笑いを飛ばす美少女兼、僕の親父。
「まぁ、しばらくあいつのことは忘れろ。
 あれはもともとこの世にいていい存在ではないのでな」
 急に笑いを止めた親父は真摯な表情をつくって僕に言った。
「でな、タクヤよ。少し、真剣な話しをすると、お前、本当にワシの息子か?」
「――え?」
 自分の父親に息子か? と聞かれてもどう答えたものかわからない。
 この亜夕花という少女は親父しか知らないような知識を五万と披露し、僕に納得のいく説明をくれた。
 しかし、僕自身はどうだろうか? いや、外見は何も変わっていないはずだ。
 だとすれば――。
「親父……僕の中身が変わるような危険があるものを開発したんだね」
「……」

 それは肯定とも捉えられる強い眼差しだった。
「そして、恐らくその開発したものを僕に渡したんだ」
 でなければ、親父がそんなことを言うはずもないし、
 自分に危険が降りかからないよう僕を隔離したりするはずである。
 親父はこれでも端くれの親としての愛情はある方だ。
「流石、我が息子だな」
 親父はこれまでの事の顛末を話し始めた。
 この世界が今、異常な状態にあること。
 それは僕の仕業であったこと。
 今はどういうわけかその間の記憶がないようだということ。
 戦いに出る前は自分に女性を演じるように言ったことから、僕が偽物でないかと疑ったことなど。
「にわかには信じられないなあ。じゃあ、前の口調はどんなだったのさ?」
「私、これでも心配して言ってるんだからね?」
「絶対嘘だろ……」
 ……あるまじきギャルゲーだった。

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 ナミは僕たちの会話には微塵も興味がなかったのか、リビングで膝を抱えてテレビを見ていた。
「ちゃんと椅子に座ったらいいよ」
「……はい」
 まるで小動物か何かだ。
 近づくと何をしていても必ず上目遣いで指示を待つようにじっと見つめてくる。
 そして何故か、亜夕花の言うことは聞かない。
「タクヤぁ……」
 厨房の奧から艶めかしい声色で僕を呼ぶ少女の声。
 朝陽鈴音。どういうわけか、ツンデレを卒業し、僕の家の居候に――なったのか?
「昨日も思ったけど、ど、どうして鈴音さんがうちにいるんだ?」
 しかもなんだか凄くエロっぽい!
「これはささやかなワシからのプレゼントなのだよ」
 親父が笑って言う。
 鈴音はナミと同じ格好で、僕の腕に絡みつくと頬擦りするようにすりすりと柔らかいものを押しつけてきた。
「朝陽鈴音の地はこっちなのだ。ワシもこの地を引き出すまでには苦労したわ」
「ふふ、タクヤぁ」
 ナミの背中が一瞬、殺気立ったように思えた。
「でも、鈴音さんとは一度もそういう関係には……」
「わかっておる。わかっておるとも、『今』のタクヤにそういう甲斐性がないことはわかっておるのだ」
「なんかむかつくけど、じゃあ、もしかして僕の記憶がない頃の僕は……」
「いや? その娘は処女だぞ? 臭い嗅いでみぃ」
 確かにまだ誘う臭いが残っていた。
「って――、なんで親父がそのことを!」
「ふふ、何でもお見通しなのだよ。お前の精子でDNA解析もしたしな」
 これ以上は聞かない方が良いみたいだった。
「ねえ、タクヤのためにご飯作ったの。食べてくれる?」
 酷い有様だ。これが、本当にあの金髪リアルツンデレ、
 まず現実ではありえないで賞を僕から受賞された鈴音さんなのだろうか?
「た、食べます」

 食卓を囲った僕ら四人は他愛もない鈴音のぶっちぎりデレデレ会話を聞かされた。
 亜夕花は鈴音が一頻り満足し、食器を下げ始めたところで僕に切り出した。


「タクヤ、お前今、『想像創造(イマジンクリエイト)』できるか?」
「は――?」
 イマジンクリエイトってなんぞや? としか思わない。
「やはり忘れているのか……」
 話しによると、イマジンクリエイトとは想像したものほぼ全てを実現可能な能力だという。
 そんな厨の考えそうな妄想が、この親父の頭脳では実現可能なのだと改めて畏敬の念を抱かざるを得なかった。
「そんな馬鹿げた能力を僕が?」
「そうじゃよ。それで事の全ては始まった」
「はあ――」
 そんなものに手を出してしまうとは、僕はよほど何かに焦っていたに違いない。
 多分それは、今では思い出しそうにもなかった……。
「何故、お前がこの力を手にいれ、何をしたかったのか、
 答えを言うのは簡単だが……そろそろ登校の時間じゃな」
「うわっ、本当だ」
 僕は慌てて二階へ上がって支度を済ませる。
 リビングには既に制服を着た二人の姿が待っていた。
「え? 鈴音さんはわかるけど、ナミ……も通うのか」
「……うん」
 さん付けしようとしたら昨日はいらないと言われた。
「さ、行きましょ。タクヤ」
 鈴音さんがまた腕に絡む。外見がハーフで、愛嬌のある仕草で振る舞われると、どうしてもにやけてしまう。
「タクヤ、これを持っていけ」
 亜夕花が手渡したのは一眼のカラーコンタクトだった。
「なにこれ」
「通信機兼、聴覚乃至視覚拡張器兼、データ通信――」
「ああ、もういい」
 僕はそのレンズを右目に着装した。
「どうだ? 痛いとか大きいとかないか」
「ないよ。それよりなんでこんなものつける必要があるんだよ」
「登校しながら説明してやる。それより早く出た方がいいぞい」
「行ってくる!」
 気を付けてなと言い終わらないうちに、タクヤの姿は玄関口へと消えた。
「何もなければいいが……」
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