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沼渡り

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足を取られて引き抜いて

必死こいての沼渡り

ぬめぬめぐちゃぐちゃ

ぬめぬめぐちゃぐちゃ

生きてることが恥ずかしいから

自分の腕を切りました

けれどちっともしねません

ぬめぬめぐちゃぐちゃ

ぬめぬめぐちゃぐちゃ

体が溶けていくようだ

誰かの足に絡みつき

足を引っ張るだけのもの

ぬめぬめぐちゃぐちゃ

ぬめぬめぐちゃぐちゃ



「・・・」

気持ちの悪い汗がべっとりとシャツに染み付いていた
気持ちを落ち着かせながら起き上がると
見慣れない風景にいたことで、さらに頭が混乱した

「ああ」

声を出すと、まとわりついていた不快感のようなものと
自分の混乱が一度に吹き飛んだ。

しん、と静かで真っ暗な、何も変わりの無い自分の部屋だ。

カチカチと規則的に鳴る時計の針を見上げると
まだ草木も眠る真夜中である。
ぼぅっとした頭のまま、また枕へと体を預けた。



また、変な夢を見た。
気持ち悪い、吐き気がするようで
それでいてどこか心地よい気もする夢だった。
内容は勿論覚えていないが


おかげで朝はまた複雑な気分で起き上がる事になった。
一番手のピッチャー。
自他共にエースのはずだった。
しかし、それが最近揺らぎ始めた。

2番手ピッチャーのここにきての急成長
後ろから猛追、あるいは抜かれかけている俺は
背を焼くような焦燥感に常に襲われていた。

高校野球は連投制限がある。

自分が、2番手で使われるとしたら。
この3年間積み上げてきたものが一挙に否定される

夜中の夢も相まって、朝は複雑であった。
朝練のために、誰よりも早く家を出る。
もう慣れた物だった。

春の朝

既に冬の様相から離れている町並みは
この複雑な気分を穏やかに癒してくれた

「ああ」

思わず声が漏れた。

この絡みつくような沼の感触
焦燥感というものの存在を一瞬だけでも忘れさせてくれたのだ
これほどうれしいものがあるだろうか

駅へ行く途中の道、通学中に人にほとんど会わない道を一人行くと
珍しく同じぐらいの年齢の男性がぽつん、と立っていた。
春だというのに、ロングコートを着ている
暑くないんだろうか

不思議に思いながら、駅へと急ぐ。








「全治、2ヶ月ってところですね」

ロングコートの男、通り魔に滅多打ちにされ
利き腕を数ヶ月失うことになった俺は
ぼんやりと医者の説明を聞いていた

ギプスに固められ、吊るされた腕のまま病院を出ると
何故か焦燥感を失っていたことに気がついた


これで、ゆっくり休める。


正直言うと、俺は1番の座を譲る事になるだろうとの事はとうの昔に気づいていた
ただ、「不慮の事故」の形でそれを失う、ということは予想外であったのだが
そのことで、自らの自尊心を守ることができた。

野球部を退部すると、髪の毛を伸ばし
残り少ない高校生活を楽しんだ。
歯を食いしばって、誰かと争うほどに
俺は強くはなかった。

人生を奪おうとした、あの男。
同級生だとあとで知ったのだが
彼は、俺の人生を奪い損ねたらしい。
4, 3

帰ってきた生物筆頭 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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