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なぜいるの?

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 見たところここらへんでは見かけない少女だ。
 髪はマッキンキン。
 背は……小学生並みで服装に関してはあまり詳しくはないが素人のボクが見てもセレブが着てそうな超リッチな服を着こなしている。

「どうしたの?」
 いつのまにか声をかけていた。
 少女は一瞬ドキっとした表情になったのだが瞬間安堵の表情に変わる。
「何しているのかな?」
 少女と同じ目線にしようとしゃがみこむ。
「えと………あの……ケーキ」
 それにしてもあきらかに日本の人じゃないのに日本語がうまいな、と適当に感心する。
「ケーキか……それじゃあ、ボクのあげるよ」
「えぇ!」
 驚きながらも嬉しそうな声をあげた。
 家に帰ってもすることがないし、食べるといってもこんなに大きなケーキだ。食えるはずがない。それならいっそのことこいつを嬉しそうに食べてくれる人たちのほうがいいに決まっている。
 はい、と片手に持っているビニールを差し出す。
「……いいの?」
「うん。いいよ。ボク一人じゃ大きなケーキ食べられないからさ。あげる」
 渡す時、ひんやりとした手の感触が伝わる。そんなに必死になって走ってきたのだろうか。
 最後にありがとう!と気持ちのいいくらいの挨拶をかまして帰っていった。

「ただいま~」
 帰ってみると靴が……一、二、三……結構あるな。
「おかえりぃ~。ちょっと話あるからこっちこい」
 手だけが招き入れる仕草をする。
 リビングに入るとさっきいた少女がテレビにかじりついていた。
「……あれ?」
 首を傾げる。何でこの子いるのだろ?
「ん?なんだ、燕尾。会ったことあんのか?」
「うん。さっきマークレーヌの店で会った子だよ」
「あぁ、なるほど。さっき言っていたかっこいいお兄ちゃんってのはお前か。どこがかっこいいんだか全然わっかんねえな」
 ぶっきら棒な言い草。とてもボクの父親にはみえない。
 服はヤンキーチックな派手な服………だったのだが……?
 あれ?なんで絶対に着そうにない苦しそうなタキシード着ているんだ?
「あ?これか?まぁ、待て。これには理由あっからよ」
 コツコツと聞きなれない音を聞き足元を見るといつも裸足の父親が革靴を履いて歩いているではないか。
「どうも。ワタクシ、アーミー・キキュロスでス」
 なれない日本語を使う美しい女性がリビングに置いてある椅子に座っていた。
 その女性は明らかにここの家には似合わずまさにマンガで見るようなドレスだ。
「……とーちゃん。全然理解できないから説明お願い」
 しょうがないな、としぶしぶ口を開く。
「まぁ、簡単に言うとだ。アーミーは俺の再婚相手でしかも超セレブ。一応籍は入れているから。
んで、隣にいるのが今日からお前の義妹になる……」

「ラミア・キキュロスです。よろしくお願いします」
「あ、あぁ……よろしく」
 え?籍もういれたの?
 あまりにも多く言われて少し頭を抱える。
「ちなみにお前の一個しただから」
 こ、この身長で!?高校生なの!?
 ボクはびっくりして何もいえない。
「……てか、とーちゃん外国行っていたんだね」
「ん?言わなかったっけ?」
 あんたはいつもボクに何も言わずにフラフラしているよ。
「さて……アーミー、そろそろ行こうか」
「オー!もうそんなジカンですか!?」
 慌てて椅子から立ち上がる。
「ちょ!どこ行くんだよ!?」
 足早にリビングから出るドアに立ちふさがる。
「いきなり帰ってきていきなりどこか行くなよ!」
 はあ、とため息をつくウチの父親。
「あのな、さっき言ったようにアーミーは超セレブに対して俺はただの庶民。そんなの親が許してくれると思うか?」
 確かに許さないだろうな。むしろ日本にまで来そうだ。
「日本にまで追ってくる可能性がある。
勝手に結婚したんだ。燕尾にまで迷惑はかけられんだろう?」
 ……後ろめたい気持ちはあったんだ…
「それじゃあ、俺たちは行くから。燕尾、家のこと頼んだぞ」
 ポン、とボクの頭に置く手は温かくとても大きく感じた。

 扉が閉まる。今まであった出来事が嘘のように。ボクは後ろを向けなかった。向きたくなかった。
 ポタポタと床に落ちる雫はキラキラ輝いて見えた。
 車が出る音が聞こえその音は時間の経過と共に遠ざかって行く。
「大丈夫?お義兄ちゃん?」
「どわぁ!!」
 びっくりしてドアに後頭部をぶつけてしまう。
「って~!!」
 後頭部を抱えそのまましゃがみ込む。
ピリリリ ピリリリ
 ボクの携帯が鳴る。
 片手は後頭部をさすりながら音の鳴る方向へ向かう。
「もしもし」
 少し不機嫌気味に電話に出る。
『あ。燕尾か?ラミアそっちにいるか?』
「いるよ。当たり前のように」
 ジロリ、とラミアを睨む。
 彼女は睨んでいることに気づいてないのだろう。だって赤く頬を染めながらニッコリと笑ってきたからだ。
「どういうこと?」
 電話越しにいる父に聞いてみる。
『どうしてだろうな?最初はラミアも俺たちについて行くって聞かなかったんだがな……
ちょっとラミアに代わってくれないか?』
 ラミアを呼び、携帯を渡す。
「もしもし?パパ?」
 パパはないだろう。パパは。
 本当なら笑うところを必死に我慢する。
「って、あの。ラミアって言うんだっけ?携帯逆さまだから、こうやって持つんだよ」
 手と手が触れる。
「よっと。ほら、どうぞ」
「アリガト……ゴザイマス……」
 ? 何で今更カタコトなんだろう?
 何やらラミアと父はかなり話し込んでいる。
 三十分後、ラミアは携帯を耳から外しボクに渡してくる。
『もしもし?燕尾。ラミア、家に住むって聞かないからしばらくそっちに住んでもいいか?』
 ん~。確かに家にはボクしかいないし何にもやましいことはない。
 だが、仮にもボクは健全な男子高校生だ。あんな可愛い子にいつ狼になっても変じゃない。
「別に構わないけど……襲っても文句言わないでね?」
 冗談気味に父に話す。
『ああ、それはラミアも了承済みだから。いつ襲っても構わないそうだ』
「へ?」
 父はいたって真面目に返しボクは間抜けな声を漏らす。
『むしろいますぐ襲っていい、と自分から言っていたぞ? まったく困った娘だ。っとそろそろ飛行機が出るから電話が切れるぞ。じゃな』
 ツーツー、と音がなり通話時間が三時間も経っていたことに驚いた。
 同時に少女と二人きりの空間が酷く沈黙していた。
「あのさ、二階の部屋勝手に使っていいから」
「その……いっしょに寝ることはできないんですか?」
 衝撃が走る。なにを言っているんだこの娘!
「無理! 絶対無理! それじゃあ、ボクもう寝るから! なんかあったら一階の部屋に来てね! それじゃ!」
 和室の部屋に閉じこもる。埃だらけなのはまともに使ったことがないからだ。
「あの……」
「な、なななな、なに!?」
 さすがにマナーを守って二回ノックをしてから用件を言う。
「お義兄ちゃんは彼女、いるんですか?」
 直球だな。
「……彼女か……いるよ。それとお義兄ちゃんはやめてくれ。燕尾でいいよ」
「そう……ですか」
 その一言は酷く落胆した声だった。
 最後にケーキありがとうございました、とお礼を言って階段を上る音が聞こえた。
 彼女がいるのは本当の事だ。仕方がない。
 こんなにも困惑した頭をいまさらどうしようもないので寝て明日、夢であることを願うばかりであった。
2

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