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お礼

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「コーヒー飲む?」
「うん。ありがと」
 そういってポットではなく小さな鍋に水を入れて沸かす。
「ごめんね……ボクん家も貧乏だからあんまり出来ないことも多いんだ」
 何の脈絡も無く燕尾は謝る。
「いいよ。ていうか、聞きたいこと山ほどあるけど……聞かないや」
 なんとなく、を付け足した。本当は気になる。だけど聞いてもはぐらかすような気もした。
 これでよかったのか、そんな気持ちが湧き出てくる。
 今はいいのかもしれない。だけど、後のことは?
 きっと怒ったあいつらは弟たちをどうにかするだろう。
 だったら大人しく捕まっておけば……
「なぁ、私……」
 途端に二つの腕が私の体を締める。
「別に、ボクは止めはしない。あんなところで働いたっていい。でも、自分が嫌なのに働こうとするな」
 腕の締めつけが緩くなった。
「燕尾……」
「お湯沸いたからコーヒー入れるね?」
「燕尾……こっちこい」
 私は小さく呟く。
「? どうして?」
「いいから早く」
 訳も分からずコーヒーを持って来てくれた。
「ありがとう」
 唇と唇を重ねる。
「!?」
「………」
 ほんの短い間。沈黙した。
「それだけだ。それじゃあ、行くよ」
「え? まだダメだよ!!」
 見つかるかもしれないのに、彼は口に出す。
 それでもいつまでもここにいれば燕尾に大きな被害が来るかもしれない。だったら私は帰ろう。家族の所へ。

「すごいね………キミは」
 ルーちゃんがいなくなりボクは呟いた。きっと寂しかったせいもあるんだろう。
「多分、きっと、独りでも生きていける強さがあるんだろうな」
 ボクは? ボクは、ダメだ。人に頼らなきゃ意味が無い。人に頼らなきゃ生きていけない。人に頼らなきゃ………
「おい、燕尾。そろそろ行くぞ」
 車と一人の男がこちらに呼びかける。
「わかってるよ……親父」
 そう言ってボクは車に飛び乗った。
 外灯が過ぎ去っていく。ボクの過去の思い出が全部なくなるように。
 ボクの住んでいた家が小さくなっていく。誰かとの別れを惜しむように。
 さよならも言えなかったボクだけど。ありがとうも言えなかったボクだけど。
 キミから貰った強さでこれからも生き抜くよ。
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