8月23日 1時 北海道 貝塚通りと武佐桂恋通りの交差点
プラッツは貝塚通りを北上していた。
交通量は、事件のせいか、確実にいつもよりも減っていた。おかげで、時間をかけずに二人はここまでくることができた。
武佐桂恋通りの交差点を右折すれば、そこからは現場である。
来るまでの間、警察無線からよせられる情報は、着実に感染者のいる地域が広がっているということだけであった。
「武佐に感染者がいたってことは、なんらかの形で感染者が根室本線に乗車したということでしょうか・・・」
嘉田が視線を目の前に向けたまま、訊ねる。
「だろうな」
澤山の短い返事に続くかのようにして、警察無線がノイズを放った。
『通達、武佐小学校周辺でも感染者による事件と思われる通報が入った。全車警戒せよ』
はっとしたように、嘉田が澤山に視線を投げかける。
「武佐小学校っていったら、もう目と鼻の先じゃないですか!」
澤山は、もう返事をしなかった。
プラッツは貝塚通りを右折、武佐桂恋通りへと進入した。
すでにそこらでは逃げ惑う人々であふれていた。
感染者の中には警官もいた。
「機動隊の到着を待ちましょう!自分らだけではもう手に負えませんよ!」
澤山もそれを理解したのか、プラッツは突如として停車、バックをし、貝塚通りへと戻り始めた。
バックで貝塚通りにもどったときであった、二人の乗るプラッツを横殴りの衝撃が襲う。
直後に金属同士がこすれあう金切り声があがった。
二人はそこで、車かなにかと衝突したことを悟る。
プラッツは衝突の衝撃でぐるぐると回転をし、信号機にボンネットをねじこませると、ようやく回るのをやめた。
ボンネットからは白い煙があがっている。衝突した車両はトラックであるようだった。
プラッツのわずか十数メートル先で停車しているのを、バックミラーで確認することができた。
嘉田はエアバックを押しのけると、ベルトをはずし、車から這い出る。そのまま運転席へと回り込む。
ドアを開けると、澤山はハンドルにもたれるようにして身を伏していた。額からはうっすらと血すら流れている。
嘉田は、澤山のベルトをはずし、彼を引きずり出した。
「澤山さん!しっかりしてください!」
その声に気がついたのであろう、澤山はうめき声を上げると、徐々に足取りをはっきりとさせた。
「車はもうあきらめてください。とにかく今はあそこへ退避しましょう!」
嘉田が、貝塚通りをはさんだ反対側を指差す。そこにはドラッグストアとスーパーが隣合わさって建っていた。
二人はドラッグストアめがけて走り出す。