8月23日 2時 北海道 貝塚 ツルハドラッグ店内
三人はレジのカウンター内に屈みこんでいた。
澤山、嘉田は拳銃を両手でしっかりと握っている。ニューナンブのハンマーはすでに起こしてあった。
「準備できたか」
澤山が吉田に声をかける。
吉田の視線は一心に引っ掛け棒にのみ向けられていた。が、しっかりと大きく一度、彼は頷いた。
「いくぞ!」
嘉田を先頭に、銃を所持する二人がカウンターを乗り越え、そのあとに吉田が続く。
ドアを開け、いっきに店の端まで三人は駆けた。
道路にはさきほどよりも多くの車両があったが、そのいずれもが事故を起こしており、どうみてもまともに走れそうなものはなかった。その中には嘉田らの乗ってきたプラッツも含まれていた。
そして、三人に気がついた感染者の何名かが、それらの障害物を乗り越えるなり避けるなりし、走り寄ってくる。距離は最も近い者でも、30メートル以上は離れているようであった。
「嘉田!くるぞ!」
二人は両手でしっかりとニューナンブを構える。
そのころ、吉田はちょうど一枚目のシャッターをおろし終わり、次の一枚に取り掛かるところであった。
それがしまり終わるか終わらないか程のときに、がらがらというシャッターの開閉音に重なるようにして乾いた銃声が一度、あたりに響き渡る。
発砲をしたのは嘉田であった。感染者は左胸に銃弾を受け、走っていた速度のまま、地面にもんどりうつようにして倒れこんだ。
それを皮切りに、澤山も発砲をする。
しばらく銃声とシャッターの金属音とがあたりを支配していたが、それもそう長くは続かなかった。
日本警察が装備するニューナンブは装弾数が5発で、尚且つ予備弾など彼ら一般の警官に配給されるはずがなく、すぐさま弾はそこをついてしまった。
「さ、澤山さん!もう弾がありません!」
言いつつ、後ろを振り返ると、吉田はまだシャッターを全ては閉められてはいないようであった。向き直ると、先ほど撃ち倒した感染者たちは、まるで何事もなかったかのように立ち上がり、口から血を吐き出しては、再度店に向かって走り出したではないか。
「し、死なない・・・!?」
嘉田は驚きのあまり声を漏らさずにはいられなかった。
「嘉田!俺が囮になって時間をかせぐ!」
嘉田は呼び止めようとしたが、その時にはもう、澤山は警棒を抜き取り、車道に向かい走り出していた。
感染者たちは一斉に澤山を追い始める。その数はざっと数えただけでも30は超えていた。
「最後の一枚です!」
がらがらとシャッターがしまる音にあわせ、吉田の叫び声が聞こえる。
嘉田と吉田は急いでドアのあたりまで駆けた。するとドアは開け放たれ、いつでも入れるようスタンバイされているではないか。
店内には先ほどまでへたりこんでいた店員や住人たちが声を大にして彼らを煽っている。吉田はシャッターを閉め終えると、即座に店へと姿を消してゆく。
嘉田もドアの前までくるものの、そこで立ち止まり、澤山のほうへと視線を投げかけた。
澤山の姿はすでに道路を挟んだ反対側の歩道にあり、感染者に囲まれていた。生存は絶望視するしかない。
「澤山さん!」
嘉田は駆け出そうとしたが、体が思うように前へ進むことができない。
振り返ると、吉田をはじめとする店員や、店内にいた住人たちが彼を引き止めていたのだ。
「離してくれ!助けにいかないと!」
「あきらめてください!」
吉田が叫ぶ。
まるでその声が合図だったかのように全員が嘉田を店内へと引きずりこんだ。
吉田がドアを閉めると、倒れこんでいる嘉田をよそ目に、残っている者たちがレジのカウンターをバリケードがわりに、ドアの前へと移動させる。
それら一連の動作を終えると、彼らは一斉にその場に座り込んでしまった。