眼が覚める。
少しベッドのなかでモゾモゾしているととなりに温かい感触があった。
なんだろうと思い二、三度触ってみる。
「ん。ふ…………ぅ」
「な、なんだ?」
思い切って布団を剥ぎ取ってみた。
そこには、ボクの小さな手が屋憧学園生徒会会長三年 霧梓 燕南の双璧の一つを触っていた。
「んぁ……起きたか? 愁ぅ夜」
ハッとして慌てて自分の罪な手をのける。
「ふむ。キミは意外とむっつりな割りに大胆だな。寝込みの私を襲うとは……」
「し、知りませんよ!! っていうかここ、どこなんですか!?」
よく周りを見ていると自分の部屋じゃないことがわかる。
壁紙は可愛らしい水玉模様。物を置く棚の上にもこれまた可愛らしいぬいぐるみがいた。
「どこって……私の部屋だが?」
「へぇ~会長って意外と可愛らしい部屋にしてるんですね…………ってぇ! なんでボクがここにいるんですか!?」
危うく和みそうになってしまった。
「なにって……昨日の夜泣きつかれたのかそのまま寝た愁夜をここまで運ぶのは苦労したんだぞ?」
うつ伏せになり枕にしがみつく。
そのしぐさがなんともいえない。
「そう、なんですか……どうもありがとうございます……そうだ! 時間は!?」
携帯を取り出そうとするがどこにも携帯が見当たらない。服の中にもまったく入ってない。
「これのことか?」
紙をヒラヒラさせるように見せるのはボクの携帯。
「あ、そうです」
会長の手から携帯を取ろうと手を伸ばすが、
「……」
「……ちょっと、それボクのケータイですよね? 返してくださいよ」
「誰がキミに素直に差し出すといったかね? それともキミは恩を返さず去っていく鶴なのかな?」
確かに。会長があのまま放って置けばいずれは先生に見つかり良くてお叱りを受けるだけになるか悪くて停学といった処罰を与えられることとなっただろう。
ボクは深くため息をつきながら、
「……何をすればよろしいでしょうか? お嬢様」
満足したようにうなずく。
「うん。やっぱり愁夜は私が何をしたいのかよくわかっているようだな」
そして少し考えるといつの間に用意したのやら女物の私服を投げてきた。
「ほら、それ着ろ。出かけるぞ」
「出かけるってどこに!? っていうか、この服で!?」
「愁夜は顔は女みたいな顔してるからな。バレんだろ」
極めて冷静にいい、自分の私服も選び出した。
勝手な人だ。
「では、着替えも終わったし出かけよう。行き先は………………」
で、着いた先は柳原町(やなぎばらまち)……ボクの生まれて育った故郷らしい。
平日というだけあって町はガラガラ。駅近くの商店街なんか人っ子一人いない寂しい雰囲気をかもし出している。
人が行きかう姿もあまり見ない。
そもそも、なぜここに来たのかというと、
「愁夜の生まれ育った故郷を一度訪れれば記憶の断片、あるいは全部戻るかもしれん」
多分遊び半分できたんだろう。だけどその短絡的な考えでボクの記憶が戻るとしたら。戻ってくれば……ボクは変わるのだろうか?
今まで周りにいた友達がいなくなるのだろうか。あんなに笑っていた蓮葉や慶介までいなくなるのだろうか。
ボクにはそんな考えが柳原町に着く間、頭をよぎった。