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林檎(作:和田 駄々)

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 木から林檎が落ちた。
 それを見ていたのは、僕ともう一人、巻き毛の男だった。
 僕は林檎に近づき、拾い上げた。巻き毛の男は、その様子を見てこう呟いた。
「今、何か思いつきそうだったんだが……」
 巻き毛の男は偉大な人物だ。僕は彼の事をあまり詳しくは知らないが、確か、教科書に載っていた絵で見た事がある。僕は彼に尋ねた。
「林檎、食べますか?」
「いや、いい」
 巻き毛の男はそう言うと、首をかしげながらトボトボと去って行った。
 僕は林檎を片手に持ちながら、田舎道を歩いた。しばらくすると、クロスボウを持った男が近づいてきた。その男は、僕の持つ林檎をしげしげと眺めている。
「林檎、食べますか?」
 と僕は問う。クロスボウの男は、首を振ってからこう言った。
「食べる訳じゃないんだが、その林檎、もらえないか?」
 僕がクロスボウの男に林檎を渡すと、その男は駆け出した。僕は林檎をどう使うのか気になって、その後ろをついていった。しばらく行った所に、人が二人いた。クロスボウの男に良く似た子供と、役人風の男。
 僕の見ている前で、役人風の男と、クロスボウの男が会話を始めた。そしてその様子を、子供が不安そうに見守っている。やがて二人の話が終わると、子供は木によりかかるように立ち、その頭の上に、クロスボウの男が、僕の渡した林檎を乗せた。
 クロスボウの男がクロスボウを構え、子供を狙っている。役人風の男はそれを止める事もなく見つめている。僕は一瞬止めようかとも思ったが、声が出る前に矢は放たれてしまった。
 放たれた矢は大きく軌道を逸れ、子供と林檎のかなり上、木の幹に突き刺さった。子供が複雑な表情を浮かべる。やがてクロスボウの男は、役人風の男に連れ去られてしまった。
 頭に乗った林檎を取り、子供が僕に寄って来た。そして子供は何も言わず、僕に林檎を渡すと、駆けて行ってしまった。
 僕はまた歩きだした。田舎道はやがて森の中に入り、僕は木と木の間を進んでいく。小さな家が見えた。まるで人の目を避けるようにして立てられたそれに、僕は興味を持った。
 家に近づこうとすると、中から小人達が出てきた。まるで童話の世界だ。小人達は七人いて、誰一人として僕に気づかず、どこかへと去ってしまった。僕が更に家に近づくと、窓の所に一人の女性が立っていた。
 美しい女性だった。まるで雪のような白い肌で、僕は思わず見とれてしまった。
 女性が僕に気づいた。僕は思わず、手に持っていた林檎を差し出し尋ねた。
「林檎、食べますか?」
 女性はしばらく僕を見つめた後、こう答えた。
「毒林檎ならいりませんわ」
 その台詞に、僕は少し残念に思いながらも、そこを後にした。
 そしてまたしばらく歩いていると、森を抜けた所に男と女が一人ずついた。
 二人は僕を見て、驚いた表情を浮かべた。僕は二人に近づくと、林檎を差し出した。二人はそれを不思議そうに見つめる。
「林檎、食べますか?」
 僕がそう言うと、二人は更に困惑していた。どうやら言葉は通じていない。僕は二人の目の前で、林檎を少しだけかじって見せた。シャリシャリと音がし、僕の口の中に甘酸っぱい味が広がる。
 僕の様子を見ていた二人は、一目散に駆け出してしまった。僕はもう一口林檎をかじると、また道を歩き出した。



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「林檎」採点・寸評
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1.文章力
 50点

2.発想力
 50点

3. 推薦度
 40点

4.寸評
 ウィリアム・テルとか、白雪姫とか……
 童話等の有名な話の中を、林檎を持った男が歩いています。
 それだけの話で、特に味もありませんでした。

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1.文章力
 70点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 林檎と某物語を関連付けたうまい発想と展開だと思います。文章も読みやすく、何を言いたいかは大体分かりました。
 ただしそれ以上も感動も特にはありませんので、標準点とさせて頂きます。コンセプトの時点でこれが限界かとは思うので、気にする必要はないですが。

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1.文章力 55点
2.発想力 80点
3.推薦度 60点
4.寸評
 面白い発想ですね。テンポもよくて、すらすらと読めました。が、そのまますらすらと脳から文章が抜け落ちて行ったような読後感。取っ掛かりがないというか、淡々としすぎているのでしょうか。
 何か捻りが欲しかったです。

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1.文章力 70点
2.発想力 85点
3.推薦度 80点
4.寸評

 林檎にまつわる逸話を、片っ端から破綻させていくという発想がシュールで面白い。かなり短めの作品だが無理して短くした感はなく、いい意味でオチのないショートショートとしてまとまっていたと思う。
 少し疑問に思ったのは、白雪姫に「毒りんごならいらない」と言われたときに、なぜ男が何も言い返さなかったのかだ。たしかに話を続けるにはそうするしかないのだが、あまりにもあっさりしていたのと、後々自分が口にしていることからも疑問として残ってしまった。
 また、終わり方にもう一ひねりあってもよかったのではないかと感じた。こうした同じパターンの繰り返しものは、雰囲気はあるが後に残るものが薄い。インパクトのあるとまではいかなくても、シュールな雰囲気を壊さない程度の変化が欲しかった。
 だが、ここでスパッと終わっておいた方が理想的であるとも思うので、それは私の個人的な我儘だろう。
 個人的には、破綻が起こったそれぞれの物語の結末、そして毒りんごであり知恵の実(であるかもしれない林檎)を口にした男が、その後どうなったかが気になるところである。

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1.文章力 40
2.発想力 40
3. 推薦度 50
4.寸評
 林檎に始まり林檎に終わる物語。アイテムを巧く使っている。
 雰囲気もよい。全体的にキッチリしていて、何度か読みたいと思わせる。

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各平均点
1.文章力 57点

2.発想力 65点

3. 推薦度 58点

合計平均点 180点
134, 133

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