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青の濁ったナイフ(作:fu)

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 俺は旅人。もう心は疲れ果てた。
 街で周りを見渡すと、どこもかしこも赤く映る……自分のそんな眼を、この赤いナイフで体から切り離したくなってしまう。
 ――もう、限界だ。

 質屋に入った。
 ――このナイフを、売りたいんだが。
 質屋のオヤジは、目を輝かせて俺の右手に飛びついた。
「アンタ、こりゃ……い~いモノじゃないか! ホントに売んのか?」
 ――ああ。このナイフは、血を吸い過ぎて、すっかり赤く染まってしまった。だから、要らないんだ。
「要らない、ってアンタ……全く理解できないが……まあ、売ってくれるならこっちは大歓迎さ!」
 赤いナイフは要らない。俺には全く必要がない。だが。
 ――赤いナイフばかりだな……
「他のナイフは売れないからよう。奥に引っ込めてんだ」
 早速、赤いナイフを磨き上げながら、オヤジは上機嫌そうだった。俺のナイフだったモノは、この店に並んでいるどのナイフよりも赤い。きっと、高値が付くのだろう。もしかしたら目玉商品になるのかもしれない。
「青いナイフならあるぜ。子供用だがよ」
 ――青いナイフ。
 記憶の奥のほうにある。青いナイフの記憶。まだ年端もいかない幼い頃、あのナイフで野菜や肉を切っていた。食糧とするためのモノを切っていた。自分のためのモノを切っていた。青いナイフは安全だ。青は安全を示す色。他者に危害が加わらないという証明だ。
 ――俺が欲しいのは、その青いナイフだ。
「えっ、アンタほどの男が……? まあ、相殺しとくけどよう」

 札束を胸にしまって、質屋を出た。
 これを元手に、商売でもやろうか? いや、俺に商才があるとは思えない……それに、俺は顔が売れすぎてしまった。自分だけが殺されるのならいいが、周りの人間に危害が加わるのは、とても困る。
 となると、やはり……
「…おじさん」
 小さな子供の声がした。立ち止まり声の方を見ると、俺の腰ほどまでの背丈しかない少女が、スーツの裾を引っ張っていた。
 ――なんだ?
「服から糸が解けているよ。切ってあげる」
 少女は、青いナイフで、糸の解れを断ち切った。
「はい、切りました。十円です」
 そうか、これは彼女の労働なのだ。道行く大人の整っていない部分を整えてやる……ある意味、子供だからこそ出来る労働だろう。
「あ、靴ヒモも解けてますね~。結びました。はい二十円!」
 ――お前……親はどうした?
「死んじゃいました。殺そうとして、でも向こうの人の方が強くて、殺されちゃいました」
 殺さなければ殺される。この国は、いつからかそんな風になってしまっている。事実、俺もその流れの中でさ迷っていたのだ。
 だが、もう、いいだろう、そんなのは……
 ――俺と来るか?
「え? どうして?」
 ――お前さんに、将来、そんな風に育って欲しくないからさ。
 俺はまた歩き出した。これは強制じゃない。付いて来ないのなら、それが彼女という国民の意思なのだ。
 …彼女は、付いて来てくれた。

 俺は時に思う。
 なぜ、こんな国になってしまったのか?
 人が人を殺さなければ生きていけないシステムなど、どう考えても健全ではない。今もこの国のあちこちでは抗争が起き、片一方の生殺与奪権を激しく奪い合っている。そうして国民は消費され、消耗し――このままでは、やがて、この国は立ち行かない所まで追い込まれるだろう。
 なぜ、こんな時代に……
 しかし、すべてを時代のせいにして、一体どうなるというんだ?
 こんな国を作ったのは、政治家だ。奴らが土台を作った。しかし、それを体現したのは、紛れもなく俺達国民――人間なのだ。
 俺は死ぬのは嫌だ。そして、この子が殺されるのも嫌だ。
「おじさん、これからどこ行くの?」
 ――さあ、な。山にでも籠もろうか……
 この、青いナイフがあれば、人を殺す以外のことは、大概出来るのだ。




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「青の濁ったナイフ」採点・寸評
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1.文章力 80点
2.発想力 60点
3.推薦度 80点
4.寸評
物語の背景や情景が淡白すぎて、世界観がつかみづらい。また人物も表層しか描かれておらず、なぜ少女を救おうとしたのかなど不明な点が多い。
文章力が高いので、そこが惜しいところ。
ただ読後感が良いのと、想像力を刺激してくれる作品ではある。

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1.文章力
 70点

2.発想力
 50点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 人間関係や情景、社会情勢がよく分かる文章力はさすがだと思います。
 ただ残念ながら「言いたい思いがあるようで、分かりづらい」「このメッセージのためになぜこのテーマを選んだのか」が全体的に足を引っ張る形となっています。
 作者様の思いは今の時代に必要なものだと思いますので、それが生きる題材になればベストですが…。赤と青のナイフにまとめすぎてしまった、この作者様だとかえってもう少し複雑でも良かったのではないかと考えるものです。

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1.文章力 95点
2.発想力 70点
3.推薦度 80点
4.寸評
 描写を最低限にしつつも、背景をしっかりと想像させてくれる素晴らしい文章です。読みやすくもあり、文章については文句のつけようがありません。しかし、時代背景に少し疑問を感じました。政治家、国民という単語が出ているわりには、現代を彷彿させる描写がなく、文明が何世紀か遡った近未来にも思えません。時代背景の描写がもう少し欲しかったです。
 総括して、とても読後感の良い作品です。また、青の“濁った”ナイフというタイトルの付け方も非常に良いです。

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1.文章力 60点
2.発想力 40点
3.推薦度 60点
4.寸評

 作者が伝えたいことは分かるのだが、話としてはどうかと思ってしまう作品。
 話に起伏が少なく、特に盛り上がりらしい盛り上がりもない。タイトルになっているナイフの色についての設定も伏線らしい伏線にさえなっていない上にオチもぱっとせず、起承転結の承で終わってしまったような印象。
 文章がしっかりしているのでさくさく読めてしまうのだが、尺が短いせいでテーマが重そうな割にあっさりとしすぎてしまい、全体的に地味にまとまってしまっている。
 ショートショートという形式を見ると正しいのかもしれないが、あまり後に残るものがない作品になってしまったのではないだろうか。まとまってはいると思うので、惜しく感じる。

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1.文章力 30
2.発想力 20
3. 推薦度 10
4.寸評
 恰好良くしたいという意気込みは見える。
 が、それしかこの作品からは感じられなかった。

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1.文章力 (60)

2.発想力 (70)

3. 推薦度 (60)

4.寸評 
ショートショートと言うよりは、長編のプロローグを読まされているような印象です。特にオチが無いのが自分としては大きなマイナス点でした。設定自体は面白そうなので、続きがあるのなら読んでみたいです。

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各平均点
1.文章力 67点

2.発想力 48点

3. 推薦度 56点

合計平均点 171点
15, 14

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