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それでも神を信じる

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双子の兄アレクは弟エルクにこう言い放った。
「お前はもう俺となんの関係もない。兄弟ですらない。」
エルクは驚愕と絶望の顔色をしてみせた。
兄はうそをつかない人だし、なにより一度決めたことはけっして曲げない頑固な人だった。
「もうお前は他の奴等と一緒だ。」
ちょっとまって兄さ――
「・・・つまり。敵なんだよ。」
その瞬間エルクは腹部に強烈な打撃を受け気絶した。


この衝撃は神々の住む世界である上界にすぐさま広まった。
あの双子が?あんなに仲がよかったのに?
所詮神は孤独でなくてはいけないのだ。天才は馴れ合いを求めないものだよ。
神々の反応はさまざまだった。
反応の温度で今後このアレクとエルクに対する対応が三つに分けられた。
一つ、ライバルは少ないほうがいいに決まっている。
上界は決して桃源郷ではない。
神々は常に争い、互いの覇権を争って戦う。
しかしこの神々は低級で先に触れたようなカルコサ等とはレベルが違う。
所詮我々の概念に捉われたような神々は低級である。
絵画や壁画などに描かれ、預言書などと人間風情に声を発さなければいけなければいちいち人間に伝わらない。
これを低級として何というのか。
上級な神々は同じ次元の同じ世界にはいない。
別次元の別世界にいるのだ。
なので、低級な神々は少しでも己の利権を欲して他の神々を殺して自分の領土を広げる。
双子が独りになった。攻めるときは今なのである。
彼らは双子を狩ることからハンターと呼ばれた。
二つ、すべては父のシナリオどおりに。
神々の父。神々の主神。宇宙が始まったときに父が生まれたのか、父が生まれたとき宇宙が生まれたのか。その万物の主であり、有無を超越する父のシナリオに我々は生きるだけ。
このこともきっと父のシナリオどおりなのだろう。
ならば手を出してシナリオを狂わせるのは無粋。
手を出すことがシナリオならそれはハンターの連中が選ばれたのだろう。
比較的友好的な立場の彼らは双子を見守ることからウォッチャーと呼ばれた。
最後の三つ目は、自愛こそ神ではないのか。
自愛や慈悲や恩寵といった、言葉を心情に生きている神々のグループである。
もちろん戦いはあまり好まない。軍神のマーズなどを見れば吐き気を催すのではないかと思わせるほどの平和主義者の集まりである。
上界は桃源郷でこそないもの平和主義の神々もいる。
しかしそんな甘ったれたことを言っても殺されるだけだ。
だが彼らとて神。偉大なる父と強壮なる母の二人から与えられた肉体は伊達ではない。
それに彼らには人間の崇拝者は多い。
人間ごときなんの価値があるのかと思われがちだが、近年の研究で人間の持つ神々にはない力が神対神のときに何らかの影響を及ぼすのではないか、とささやかれている。
事実、カルコサや彼と同等の神は熱狂的でコアな狂信者が数多くいるのであのような力が持てている(もともとの力が低級神とは違うこともある)
このとき神々の下僕である天使は神々の決定に不満をもったとも言われている。
もともと武器を持って戦うのは神ではなく、天使なのだ。
どんなに織田信長が強かろうと信長自身が強かったわけではない、どれだけナポレオンが名将といっても、彼は銃をつかわない。
主は戦いに恐れをなし始めた。
臆病な大将の下にはでは働けぬ。
こういった意見が天使の中でも現れ始め、主の下を離れた。

しかし本当に困ったのは、この双子の神を崇拝していた人間である。
アレクをではなく、エルクを崇拝、していたわけでもない。
双子の神を崇拝してきたのだ。
それが片割れとなっては神の力も半減してしまう。
それでも彼らはアレクを、エルクを崇拝し続けた。
しかしそんな彼らの国に一大事が起こった。
アレクとエルクが戦争をおっぱじめたのだ。
当然国同士はアレクかエルクかの大論争となり、最後には国を二つに割っての戦争となった。
勢力はまったくの拮抗状態だったので長引いた。
そうして、二つの勢力は疲弊し、他の国に吸収合併されてしまった。
最後までアレクを信じ続けた最後の神官ロク=スーンは信じられない結末をつぶやいてこの世を去った。
「アレク様とエルク様は元通り双子の神に戻っておられる・・・」
なんということだろう。
彼らが始めた戦争に人間はつられ、人間の国は滅びた。
しかし彼らは仲直りをしているという。
これは人間が神々に振り回されたほんの一例である
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