第五話「紹介」
学校につい僕はぐったりしていた
そのうち春の陽気のせいか浅い眠りに誘われそのまま深い眠りに落ちて行った。
そこで変な夢を見た。
「お前やっぱり使えないな」
「早くやめろよ」
「近づくなウジ虫」
昔の嫌な記憶
二度と思い出したくもない記憶
どうしてこれから楽しくなるかもしれない時にこんな夢を見ているのだろう。
こんな過去思い出したくもないのに・・・
し・・・ら・・・し・・・ら
しんら・・・・
「起きろチビすけ」
その声が聞こえた瞬間頭に激痛が走った。
「いったい!!」
「やっと起きたか・・・」
浩介君が目の前にいる・・・?
「もう昼休みだぞ。早く飯食って他のクラスに行くぞ。」
起こりながら浩介君は鞄の中からお弁当を取り出した。
「うん・・・」
僕は眼をこすりながら同じようにお弁当を取り出した。
「あれ?シゲ君は?」
辺りを見回しても長髪で金髪の彼の姿が見えなかった。
「あいつなら弁当ないらしいから学食にいったよ。」
そっけなく浩介君は答えた。
「そっか・・・」
まだ起きてから5分も経ってないため頭がうまく働かない。
そのままでお弁当を食べてそろそろ食べ終わる頃にシゲ君が戻ってきた。
「ようやく起きたか新羅。お前先生にめっちゃ睨まれとったで。」
シゲ君はうすら笑いを浮かべながら授業中のことを話してくれた。
「ふわぁ~」
僕が大きなアクビをしたら口の中に何かが入ってきた。
「ガムでも食って目覚ませや」
シゲ君は満面の笑みだった。
そんなやり取りしていたらいつの間にか昼休みが終わった。
授業が始まって先生の話を聞いていてもさっき見た夢のことが気になって先生の話は右耳から入って左耳から抜けていった。
もうあの時には戻りたくない。
だからこの高校を受験したんだ。
これからはどんな時だって笑ってなくちゃ。
そんなことを考えていたら6時間目の授業も終わってしまった。
「部活やー!!野球や!!」
シゲ君が伸びをしながら大声を出して僕と浩介君の方に近付いてきた。
「退屈な授業だったな」
浩介君も首を鳴らしながらダルそうに帰りの支度をはじめた。
「僕はまた二時間とも寝ちゃった。」
へらへら笑いながら僕は二人にそう言った
「お前よく寝るな・・・。夜ちゃんと寝てるか?」
浩介君が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「寝る子は育つちゅうけど、それは夜の話やで。昼間に寝てると大きくならへんぞ新羅」
シゲ君が呆れたように僕に言ってきた。
「モウマンタイ!!夜もよく寝るから。」
僕は親指をグッと立ててシゲ君の方に腕を伸ばした。
「それなら大丈夫やな。ささっと校庭にいかな、また不破にどやされるで。」
そう言って三人で昇降口に向かった。
校庭に出て体育着に着替えようとしていたら、隆明君がやってきて、
「今日は俺のクラスで色々話し合いをしよう。練習のこととかちゃんと自己紹介とかもしなくちゃだしな」
そう言って隆明君のクラスであるE組に向かった。
教室の扉を開けると僕たち以外はみんなすでに集まっていた。
「遅いぞ。」
不破君が不機嫌そうな顔でそう言い放った。まぁ、この人はいつも不機嫌そうなんだけどね。
「そんじゃま、話し合いを始めますか。」
徹君がそういうとみんなが一斉に黒板の方を向いた。
一君も徹君と一緒に司会進行をするために教卓の前に出た。
「さて、いきなり自己紹介するか。出身の中学校、部活、利き腕、希望ポジション、その他もろもろを言って行こうかな。」
徹君がそう言ってあたりを見渡した。
「ほんじゃま、俺から自己紹介しようかな。」
そう言って、徹君が咳ばらいしてからみんなを見渡してからしゃべり始めた。
「名前は、弓沢徹(ゆみさわとおる)。中学はここの近くの第4中学。部活はもちろん野球部。
利き腕は右手、でも、打つのは左。希望ポジションはセカンド。よろしく頼むわ。」
自己紹介を済ませて隣にいた一君を目で見た。
「次は俺かよ。えーっと。真田一(さなだはじめ)です。出身は二中です。
部活は野球部でした。えー、次なんだっけ?」
そう言って徹君を見た。
「次は利き腕、その次が希望ポジション。」
「そうだそうだ。利き腕は右で打席も右です。サードを希望しています。三年間よろしく頼みます。」
深々とお辞儀をしてそのまま時計回りに自己紹介をすることになった。
「風間一樹(かざまかずき)です。出身は七中で陸上部でした。利き腕は左利きです。
希望ポジションはセンターです。よろしく。」
一樹君の紹介が終わった時に隆明君が
「質問なんだけど、野球は初心者?」
と聞いたら
「野球は外の硬式でやってたんだよ。だから初心者じゃないぜ。」
その言葉にみんなが口々にしゃべりだした。
「硬球経験者か、貴重な人材だな」
浩介君がぼそっと呟くと
「だな、俺らも早く慣れなきゃいかんな。」
不破君が返答した。
「しずかにせんか、自己紹介が進まんだろ」
徹君がそう言ってみんなを静かにした。
「じゃあ次は俺か。オッホン。佐藤茂樹(さとうしげき)や。出身は三中で浩介と一緒や。野球部ではなかったけど助っ人で草野球を三年間やってた。利き腕は右利きや、センターがやりたいんやけど、風間とかぶってしもうたな。まあそんな感じや。ちなみに、この関西弁は両親が関西人やからで、俺は生まれも育ちもここやから。以上」
シゲ君がそう言って席に座ってみんなが
「金髪だぞ・・・」
「金髪だな・・」
口々にそのことをいっていたがそれを無視して
「坂口浩介(さかぐちこうすけ)だ。三中出身、野球部だった。利き腕は左、打席も同じだ。希望は外野希望だ。でも、守備がうまくないからライトがいい。ファーストもできるから内野でもいい。とにかく練習がしたい。他のみんながどれだけの実力を持っているのか知りたい。俺は下手だから期待しないでくれ。以上」
終わると同時に不破君が席を立った。
「不破大地(ふわだいち)。中学は一中。野球部だった。右投げ右打ち。キャッチャー志望。
よろしく。」
最小限の自己紹介で席に着いた。
僕の隣に座っていた啓介が席を立った。
「八田啓介(やたけいすけ)です。大鹿中学校出身です。野球は小学校からやっています。
右投げ右打ちです。希望はピッチャーですが、どこでもやりますのでよろしくお願いします。」
そう言って深々とお辞儀をした。
お辞儀し終わると啓介が僕の方を見た。
次は僕か・・・
「えっと、新羅将(しんらしょう)です。阿武隈中出身です。僕も小学校から野球をやっていますが、万年補欠でした。左利きです。背はちっちゃいですがピッチャーを希望しています。三年間よろしくお願いします。」
はぁー、なんとか終わった。
「鈴木隆明(すずきたかあき)だ。大地や裕也と同じ一中出身で、野球部だった。
右投げ左打ち、外野志望です。よろしくおねがいします。」
隆明君は端的に要点を押さえて自己紹介を終わらせた。
隆明君が席に着くと隣に居た裕也君が勢いよく立ちあがった。
「ようやく俺の番か。名前は丘谷裕也(おかやゆうや)。一中出身。野球部だった。
左利きでピッチャーだった。この高校でもピッチャーをやる気だ。背番号は1番以外いらない。高校三年間でぜってー甲子園に行く。それだけしか考えてない。」
そう言い切ると勢いよく席に着いた。
最後に了君がダルそうに
「野上了(のがみりょう)です。野球部でした。右利きです。希望ポジションはショートです。」
そう言って席に着いた。
「これで全員の自己紹介が終わったな」
徹君がそう言った
これで大体顔と名前が一致した。
みんな個性が強いから覚えやすそうだ。
これから三年間僕はこのメンバーと野球ができるのかと思うとなんだかワクワクしてきた。