1話「新入生勧誘編」
入学式を終えた翌日、ピカピカの制服をキッチリ着た文字通りのピカピカ一年生が、体育館で集まって賑わって、その裏側では部活動の格部員達が部活動勧誘会の準備をしていた。
新入生の勧誘の為に設けられた部活動勧誘会は、如何に新入生を自分達の部活動入れるかを競い合う入学式の次の大きなイベント。
スポーツ推薦で優秀な人材などが豊富な野球や陸上、剣道などの人気部活以外の、人数不足で存続が危ぶまれる廃部寸前部活や人数が足りなくて部活できない同好会などは、このイベントに賭け、躍起になっていた。部活動よりも人寄せに熱血になるなんて卒業しても大丈夫だね。願わくばその熱意をもっと部活動に向けてほしい。
そんな事をマイクテストをしながら思っていた。
「マジで本当にやるんッスか?」
部活動勧誘会を行う生徒会の中で進行をする私に、問いかけたのは道着姿の3年。空手部の部長で、去年の時、特に印象的なクラスメイトである。何が印象に残ったのか。それは、こいつ運動部特有の体臭がすごいのだ。近づくとすぐに感じる異臭。遠くにいても臭いでわかるほどの強烈な体臭の持ち主だ。
「お前が頼んだんだろ?入部者を増やす方法教えてくれって」
こいつが私が生徒会なのを頼ってこの部活勧誘会で、人数不足で廃部になりかけている空手部を推薦してほしいと、前日に言われたのだ。
その行為は人間として人格を疑うし、体臭も人間なのかと疑うほど臭い。しかし、元クラスメイトの情から、勧誘会前日に勧誘作戦を臭い部室で考え合った。進行の時、一つの部活だけ贔屓してしまうと、生徒会長に怒るなので、入部希望者が来そうな紹介内容を考える協力をする事で手を打った。
考え合った結果、今後の空手部の方向まで、考える羽目になるほど、人数不足だけじゃなく他にも問題がありそうな部活だった。
(部活の経費を減らすように、申告しておこう)
「えーとだね」
まとまらない論議は速く終わらせ、自分でまとめた提案を実行させる。
生徒会長が答えの出ない議論でよく使う戦法だ。これ以上、考えてもくだらない方向へ進みそうなので、生徒会長の真似をして、自分の考えを一方的に押し付けて、強引にまとめた。
そして、当日の部活動勧誘会になった。
今までグダグダ言っていた部長も覚悟を決めたのか、諦めたのか、準備をする舞台裏に消えていった。
そして、空手部紹介の番。私はマイクを握った。
「えー。次は学園一の最強集団と謳われる!!!極真空手(自称)部!!!」
体育館の舞台に少し老け顔の2年生が先頭に歩き、後ろに部長と3年を引き連れて、舞台の中央へ歩き、押忍!興味津々に観る1年に一礼をした。
1年の視線は老け顔の部長格(2年)に注がれたが、部員達を知る2年や3年はざわついている。
それもそうだろう、部長である3年がまるで子分のように従えるのは、2年だと大半の生徒は知っていて、驚いている。
しかし、驚くのはまだ早い・・・。
「まず、極真空手を習得する為の修行は大変険しく!!空手を真に知らぬ新入生に紹介するのを私は躊躇った!!!」
ドスの聞いた大声を上げる部長に見える2年に1年が静まった。2年や3年の席にかすかに聞こえる笑い声が届かないほど、空手部の紹介に集中していた。
「しかし、自分を痛めつけ肉体を極め技を極める!!!!そのような志熱き若者がいるかもしれぬと想い!!!!我々空手部はこの勧誘会の場を借りて伝えたかったのである!!!」
2年の部活動の紹介が終了し、舞台から姿を消すと、生徒達は緊張の糸が切れたようにざわめく。
時計を確認して、マイクを手に取る。
「えー、それでは空手部による、心技体を極めた実演を行います。準備の為、暫くお待ちください」
準備を整えて出てきた、部長の振りをする2年が舞台の中央に立ち、周りに金属バッドやバール、ナイフを持った道着姿の3人が囲んだ。
「えー、今から10年の修練を積んだ空手家の実力を見て貰うために、武器を武装した3人の相手を、同時に戦って倒してもらいます。危険を伴います。是非、彼の無事を祈ってください・・・。では、お願いします」
空手家がふっ・・・と息を吐く・・・。そして、
「はあああああああああああああ」
怒号が体育館に鳴り響くと同時に、3人の武装した相手が空手家に牙を向く!!!1年はおろか、在校生、教員、その場にいた全員が息を呑んだ。
「はぁ!」
ナイフを刺そうとする部員Aの腹に部長格が手を刹那の如く突く・・・当たれば相手はナイフを刺す間もなく吹き飛ぶだろう。しかし、わずか10cmの所で届かない。空手家死すか?
バッドを振り下ろそうとする部員Bが。バールを横から薙ぐように振るCが。ナイフを刺そうとしたAが。3人同時に止まったのだ。
「あれ・・・?」「なんだ?」と観客が緊張から疑問に変わりそうになった時。
「うああああああああああああああああ」
Aが突然吹き飛んだ。タイミングを計ったようにBが動きだし、バッドが後数cmで部長の頭に当たる時だ。空手家が少し動けばバッドが頭に直撃しようというのに突然、電池が切れたように止まるBの顔に、パーを突き出す。
「・・・・・・・・・うわああああああああああああああああああああ」
数秒経った後、BがタイムラグでA同様、彼方へと吹き飛んだ。
「コノヤロー!うお~ぉ~お~ぉ~ぉ~」
Cのバールがスーパースローカメラでコンマ再生したかの如くの動きで空手家に襲う。しかし、空手家は卓越した動きでスローに振りかざされるバールを左手の人差し指と中指の2本の指で止めるや否や、AやB同様に胸に空気を押すようにパーを繰り出し、タイムラグを感じさせながら吹き飛んでいくのであった。演舞を終えた空手家は冷めた客に一礼して去って行った。
最初のイメージを茶番演舞で崩壊し、そのギャップで笑いになると思ったが、最近の奴の笑い所はわからないぜ。AHA。
~後日談~
部活紹介でインパクトを残した空手部は、勧誘会が終了後、職員室でこっぴどく叱られた。当然、提案者で司会進行の私も怒られた。その後も空手部の連中にも散々、ネチネチと罵られた。 しかし、あの部活紹介のインパクトが在校生達から伝説になり、翌日から新入生や2年生の入部者が殺到したらしい。と、部長の元クラスメイトが喜びながら話して、お礼にコーラをくれた。ねちねちと言われた文句の恨みを、コーラで部長の身体をベトベトにして解消した。
そんな伝説を作った部をプロデュースした私の名も有名になり、色々な廃部寸前の部活から同好会まで引っ張り蛸になったかけた。しかし、あの騒動の後、生徒会長に、今後一切部活動の勧誘協力をするな」と糞ったれなお言葉を貰いうけ、面白い暇潰しだと感じながら、「生徒会が忙しいから」と断り続けた。
それからほとぼりも冷めた一ヵ月後。無人の生徒会室で疲れを癒す為、睡眠を取っている。
生徒会長の週末のボランティア活動についてなどを長々と説明されたせいだろう。
放課後の生徒会室で疲れを癒していたら・・・バンッとドアが勢いよく開いた。
「照美副会長。こんな所で何やってるんですか?」
「ん~?」
寝起きで間抜けな声で対応する。声からして、書記の井上君だ。前の副会長で、字が汚い私と代わって書記になった3日天下な可哀想な人である。
「何~?・・・ってうああああ」
横になる為に並べた椅子が、置きようとした時にズレてずっこけてしまった。
「あーいたた」
痛めた腰を撫でながら、井上書記を見上げる。しかし、井上君が耳を赤くして、自分じゃなく明後日の方向を見ている事とに、私は女だからスカートを履けという学園規則に遺憾と羞恥を交差させた。すぐに立ち上がり初心な井上君の前に立つ。
「で、なんだい?」
井上君が慌てて報告した内容はとんでもなく、くだらない事だった。しかし、私は口元を緩めずにはいられなかった。
「ほぉ、それは面白い・・・生徒会長に報告?いや、いいよ。私が向かうよ」
TO BE CONTINUED...?