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第一話「俺は友達作りが上手くない」

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 今年もまたこの季節が訪れた。第三十七回全国麻雀大会。一道一都二府四十三県の代表プラス前回の優勝者からなる四十八人が繰り広げる狂気の大会。ある者はこの大会のために激戦区から地方区へと居を移し、またある者は実力者を闇の内に葬り去るために法律を犯すことも厭わない。そこで得られる富と名声は生涯雀士について回る。それが悪銭であれ、それが悪名であれ。
 日本中央麻雀競技会総合本部ビル――それが全国麻雀大会の競技場でもある。勝負は世界中継され、かつあらゆるイカサマを防ぐ手立ても配備されている。もっとも、それらを打ち破る者もいるからこその、全国大会なのであるが。
 百四十四階建てである荘厳なビルの前に横付けした一台のリムジンからよろよろと降りてきた者がある。奈良県代表、通称「食いタンのみのタモツ」である。圧倒的な速攻とつまらない麻雀により勝ち上がってきた彼の全身は無数の切り傷と刺し傷で埋め尽くされている。
「ようやく、これからが本番だ」地区予選だけでもはや致命傷に近い傷を負いながらも、彼は気力を振り絞ってビルの入り口へと向かう。痛み止めの効く時間が短くなってきた彼の命はもう幾ばくもない。それでも勝つために彼はここに来た。
 タモツが足をもつれさせ転びかけた所に、一本の青白い手が差し伸べられる。タモツが顔を上げた先には、涙でくしゃくしゃに顔が崩れている、美しいかどうかすら判別の出来ない女の顔があった。
「あんたは――たしか山口県代表の『鳴き三色の和子』」
「そう、知っていてくれるのね、ありがとう、えふっ、そんな体で、よくここまで、ひふっ、すごいよ、すごいよね、私たち、安い役ばっかりで、げふっ、よく叩かれるけど、でも、勝てばいいよね、勝てば」
「その通りだが――」
 タモツは気力を取り戻し、和子の手を払う。
「俺たち二人ともが最後の勝者になることはない」
 和子は、こくんと頷き「わぁってるもぉん」と言って、また泣いた。
2, 1

  

 一階ロビーには既に大会参加者が集まっていた。
「ふん、安いの二人が連れ立って来やがった」
 そう言ったのは、和歌山県代表の「小三元をあがったことがある吉元さん」だ。
「集合時刻の十分前には来るのがセオリーでしょうが!」
 と神経質な声を荒らげているのは茨城県代表「捨て牌の並べ方が丁寧な池上」。
「つまらぬ諍いはよせ。勝負は卓の上だけにしろ」そう諭す大男の顔には、タモツ以上の傷が刻まれている。たとえ配牌で国士無双テンパイしていようともピンフを目指す、長崎県代表「戦場帰りの平和主義者」でおなじみのスタローン。
 一人「だから、国士無双イーシャンテンだったの!」という独り言を繰り返している「国士無双イーシャンテンだった香織」は香川県代表。
 大会役員でも前回の優勝者でもないのに、一人壇上で尊大に構えて坐っているのは、千葉県代表「天和以外は役と認めない桜木」。
「さっさと始めろよクソが! どうせ俺が全部勝つんだよクソ! 俺のイカサマ見破ってくれよ頼むからよ! いっそみんな死ね! それか俺を殺せ!」と喚いているのは、滋賀県代表の稀代のいかさま師「いつでもドラ十四の佐吉」。
 場を仕切るように、中国地方きっての頭脳派「点数計算の出来る田中(鳥取県代表)」が「では皆さん集まったようですから、早速始めましょう!」と宣言すると、黒服の大会役員たちが現われ、「天和以外は役と認めない桜木」を壇上から引きずり下ろし、ようやく開会式が始まった。
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